魔法少女、反省させられる
魔王討伐のための壮行会はその前日に行われ、盛況に終わった。しかし、開催側の女性たちはゲストたちだった男性たちが去った後もその宴の場に残って残り物をつまんでいた。
「……それで、話って何なのさ?」
魔牛のローストビーフを摘まみながら帰ろうとして呼び止められたマキが呼び止めた側の【破】、ここでの偽名をハイジ。そしてもう一人の女性であるマーガレットに問いかける。二人は少し沈黙して目配せしたがハイジの方から口を出した。
「マキ、あなた……天然のたらしね……」
「? 天然のたらしは父様でしょ。」
「……あなたも大概よ……」
食事の姿すら愛らしいマキに疲れたかのようにハイジがそう言うとマーガレットがその後を引き継いだ。
「マキさん……あなた、本当に攻略方法とか知らないんですよね……?」
「攻略って、魔王の?」
「違います! さっきまでここにいた殿方たちのこと! いえ、返事はもうあなたのその反応でわかってますけどね⁉」
「……別に攻略とかしてないんだけど、何なの?」
何だか馬鹿にされているニュアンスを感じてムッとするマキ。対するマーガレットは溜息をつきながらマキを諭すように告げた。
「……この際だからもう学園四天王の攻略方法喋りますけど……」
「要らない。」
「……あなたはもうクリアしてるんですよ! 確認のために喋るだけです!」
酒持ってこいと言わんばかりのテンションで自棄になってマーガレットは一気にまくし立て始めた。
「まず、真ん丸な目とオレンジ色の髪から子犬系美男子と呼ばれるニースフェリア・トリフェイン。年上キラーの親切な同級生から!」
「……ニースくんか。あれ、略すとニートだよね。」
マキの戯言にマーガレットは付き合うことなく一気に続ける。その様子は過去、マキが宗教勧誘を行った時に非常に酷似していた。
「両親は既に亡くなって奨学金で学校に通っている不幸系男子。過去に平民の出なのに魔法の才があることに嫉妬した貴族に責められて家族を害されたことによるトラウマがあって学園では浮き気味。それでも自分は大丈夫と言わんばかりに強がって一人称は俺! 最初は貴族相手に一線を引きながらもデレさせると急にフレンドリーな喋り方になっていつも心配してくれる思いやりのある良い子。」
「長いわ。早く本題に入りなさい。」
キャラ説明のような何かを開始し始めたマーガレットを遮って復活したハイジがそう告げる。まだ語り足りなかったマーガレットだが、仕方なさそうに攻略ルートを告げ始める。
「そんなトラウマを優しく癒して自分は貴族だけどあなたに寄り添うことが出来るんだよって優しく告げてあげることで泣きじゃくる彼を胸で受け止め、共に歩み始めることで彼の攻略は半分完遂! 貴方は今の時点でここにいるのよ! さぁ、何をしたの⁉」
「……? 【魔神大帝】様のお話をしたことくらいしか覚えてないなぁ……」
「これは酷い……」
「そんなのでニース君があんなに世話焼くわけないでしょう……つ、次に行きましょう!」
そんなの扱いされたマキが語り足りなかったか? と小声で呟いたことで即座に話を別に持って行くことに決めたマーガレットは次の攻略相手について喋り始める。
「俺様系オラオラ美男子、クリス・フォン・ミカナール様! いつも美女を隣に侍らせてるプライドの高い貴族様! 即断即決、良くも悪くもまっすぐな彼は誤解を受けやすいけど実はツンデレで、しかもかなりの寂しがり屋! いつもと違うギャップにクラクラするわ! そんな彼は攻略前はその燃えるように赤い髪を長くしているけど半分程度攻略されると少し短くなるのよ! さぁ、これはもう見たらわかる変化ですの! 誤魔化しは効かないですわよ!」
「……最近暑いからじゃないの?」
「魔法の国で何を仰る! 幼い頃に母親を亡くした彼の悲しみを理解し、寄り添うことで一途に変わり、それでも素直になれずにモーションをかけてはいたずらと解されて苛立つ彼……出会いは親友が気になる相手ということで見に行ったことで親友とあたしを天秤にかけて苦しむ彼とどんなことをしたのか吐きなさい!」
「何でそんなに偉そうにしてるのかわかんないけど殺すよ?」
マキの冷たい目がマーガレットを貫くが、ハイジがそれを防ぐ。ユルティムに封印されているマキではそれをどうすることも出来ずに納得がいかない表情のままイチゴミルクを口にして黙り、クリスと何か過去にあったのか考えてふと思い出した。
「……あ、そう言えばこの前魔物討伐の時に僕が水浴びしてたら鉢合わせしたな……体目当て? んーでもその前に髪は短かったか……」
「htmlhead<title>zakennna</title><styletype="text/css">body{color:pink」
「……マキはもう少し危機感を持ちなさい。後、マーガレットはこっちの世界に戻って来なさい。」
「ビッチ!」
「うるさいなぁ……ハイジ、面倒だから記憶取り出して。んっ!」
どうでもいいことを思い出すのが面倒だったマキは自分が見てきたことのデータを開示するためにハイジに頭を差し出す。その動作に思わずキュンっと来たハイジは胸のキュンッだけで済ませてお腹の方に来たキュンッは抑え込み、その天使の頭に触れて記憶を見る。
「……あぁ、ダメだわこの子。自覚なしでもう……本当、おいしそう……」
「……親子ならまだしも、兄妹だからね? 僕たち……」
「親子の方がまずいでしょ……それは置いといて、いや置いておけるとは思わないですけどご家庭内で何とかしてもらうとして、気になってることがあるんですが……いいですかね?」
「何?」
「……この段階ではまだまだ攻略できないはずの相手、隠しキャラをマキさんは既に半分くらい攻略してるんですが……確かめてもらってもいいですか? ジルバ・アルフォードのことを。」
マキの柔らかな頬に手を当て、同性をも魅了する陶然とした笑みを浮かべているハイジにマーガレットは疑問に思っていたことを尋ねる。ハイジは邪魔が入ったことに顔を顰めるがすぐに取り繕ってマキの頭に自らの頭を触れさせた。
「ジルバ・アルフォード、寡黙な同級生の敬語美少年。感情表現が下手で大人しく見られがちだが決して大人しいわけじゃない彼はクリス様の派閥と対立する王国の魔導管理大臣公爵の使い魔なんです。もともとは銀色の猫の姿をしているんですが、人間形態になることで魔力を多量に消費して維持が出来ずに死に瀕することになる彼は現時点じゃ……」
「……いや、ジルバとかいう彼が死に瀕するということはないわね……」
説明を続けようとしていたマーガレットの発言を遮ってハイジはマキから頭を離してそう呟く。マキの方は何も言わずに不機嫌な顔になってハイジから距離を取ると鮟肝の濃厚クリームパスタを食べ始めた。
「この子が既にその問題をクリアしてる……私たちが持つ大量の魔力を使ってね……」
「えぇっ……それじゃ、魔王戦の前のイベントはどうなるんですか……?」
「知らないわよ……それより使い魔の仕える対象を変えた結果、その子がどんな目でマキを見てるのか気付いてないことの方が大変な問題よ……何で気付かないのかしら……?」
「どーでもいい……」
そんな呟きは聞こえなかったかのように抹消され、ハイジとマーガレットの二人は明日からの旅の間、どのようなスタンスで物事に取り組めばいいのか頭を悩ませながらその日を過ごすのだった。