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魔法少女、妹と再会する

(……さっきから尾行してるけど用があるなら話しかけてくればいいのに……)


 マキはそう思いながら後ろを盗み見た。そこには先日話しかけて来たマーガレット嬢の姿があり、目が合うなり身を竦ませて逃げてしまう。


(まぁ多分、もっと【魔神大帝】様の話を聞きたいってところだろうけど……遠慮しなくていいのに。)


 マキはそんなことを考えながらどうしたものかと思案する。彼女はもうすぐ魔王討伐の旅に出るということで暇ではないのだ。当然、彼女は布教することを暇つぶしにやるものだとは認識していないが、自らに与えられた使命を果たすこともできていないのに言われていないことを勝手にやるのはちょっと躊躇われた。


 尤も、マーガレットの方はその話はノーセンキューどころかその話をされたくないがために、本来の要件を果たすこともせずに逃げ回っているのだが。しかし、今日のマーガレットはいつもと違った。先日の洗脳紛いの説法、軽くトラウマになっているその恐怖を乗り越えて彼女はとうとうマキに話しかけた。


「ま、マキさん、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけですが、よろしいですか?」

「……うん。僕もあんまり暇じゃないけど頑張って伝えるね! 歩きながらでいい? 【魔神」

「違います! その、私の話を聞いてくださいまし!」


 待ってましたとばかりに説話を開始しようとするマキを何とか制止したマーガレットはそれだけで本日の仕事を終えたかのように大きく息をついてマキに切り出す。マキはきょとんとした顔でマーガレットを見ていた。


「どうしたの?」

「今日は、別の話をいたしましょう?」

「うーん、忙しいから【魔神大帝】様のお話じゃないなら……」

「その忙しいということに関連してのお話です!」


 嫌な話しかするつもりのないらしいマキに何とか自分の話を聞かせようと今興味を持ちそうなテーマを挙げて会話の続行を試みるマーガレット。その意気込みはマキにも通じたらしい。


「魔王討伐のこと?」

「そうです! そのパーティメンバーについてのお話です!」

「んー……? 君も付いて来たいの?」

「その通りですわ!」


 色々用件はあったが、目標の一つを早速達成できるかとあまりに早い展開に驚きつつマキの問いに大きく頷くマーガレット。マキは特に驚くこともなく頷いた。


「いいよ? でも、死んでも自己責任だからね?」

「はい! そ、それでなんですが! パーティメンバーと親睦を深めようと思うんですがいいですか?」

「気が早いけど……でもまぁ出発まで1週間もないしやるなら早めに考えるべきかな……うん。何かやるよ。何かやりたいことはある?」

「お食事会など!」

「わかった。手配しておくね~」


 かなり無駄に意気込むマーガレットの異変にマキは気付いてはいたが別に問題視はせずに即座に準備に取り掛かると言ってその場を後にした。そして残されたマーガレットは笑みを浮かべる。


「うふふふふ……これで……」

「楽しそうねぇ……?」

「⁉」


 突然背後から聞こえた耳が蕩けそうになる美声にマーガレットは驚いて後ろを振り返る。そこにいたのは甘い声音に違わず、心を溶かすような美女だった。


「な、あなたは……?」

「……マキ、ちゃんの妹……といったところかしら? クスクス……あなたにちょっとだけ協力してもらおうと思ってねぇ……」


 妖艶な美女の発言にマーガレットは訝しげな視線を向ける。あまりに怪しげな登場の仕方といい、自らの心を惑わすかのような美貌は警戒に値するものだった。


「まぁ疑うのもわかるわ……」

「あなたの目的は……?」

「……いい加減、父のことを諦めて前を見させることかしら。」

「!」


 美女の憂い顔と共に発された言葉はマーガレットの警戒を解くに相応しいものだった。しかし、同時に困った発言でもある。


「……前を見させるということ、後私に協力してほしいということって……」

「えぇ、マキの旅の間に誰かと彼女をくっつけようと思うの。安心しなさい? 貴方が強力さえしてくれればあなたの想い人以外を手中に収めるだけで済ませるから。」

「……それはそれで……」


 正直、マーガレットは逆ハーエンドがお好みだったのだが、今回の場合はそれが難しいかもしれないと判断して悩む。


「……私の推しメンはニースくんとマリウス様なんだけど……」

「諦めなさい。まだ何とかなる王子だけにターゲットを絞る方がいいわ。」

「……ですよねぇ……あの人は旅に出てからイベントが増える人ですから今から挽回を……」


 攻略ルートについて思い悩むマーガレット。そんな彼女を見ながら妖艶な美女は内心で笑う。彼女、そしてマキの育ての親である【魔神大帝】は王族が基本的に好きではない……それどころか最近では協力した王族に刺されたのでこの女が協力する条件でそれを狙うのであれば一石二鳥なのだ。


「……わかりました。協力させていただきます。」

「それじゃ、よろしくね。」

「……【破】? 何でここにいるの?」


 丁度話が終わったところでマキが臨戦態勢でこの場に戻って来た。どうやら【破】と呼ばれた彼女がこの世界に降りて来たことで大幅なエネルギーの歪みが生まれ、気になって戻ってきたようだ。


「マギ……マキちゃんが心配でね?」

「……妹に心配されるほど落ちぶれてはないつもりなんだけど……この格好じゃそうも言えないか……」


 胸元の空いたドレスの胸部付近のフリルを引っ張って溜息をつくマキ。手を離すと同時に重力に揺られて胸が揺れ、その反動で小刻みに揺れた様子を見て【破】が笑顔を引くつかせた。


「マキ、ちょっとあなた……警戒心ってものはないの?」

「何? やる気? こんな格好だからって僕がお前に負けると思ってるの?」


 警戒という言葉に反応して解きかけていた臨戦態勢を元に戻して軽く【破】を睨むマキ。しかし【破】の方はそんなことどうでもいいと溜息をつきたい気分になりながら強めの口調で返した。


「違うわよ! この脳筋! こんな人前で胸を揺らして……」

「……サキュバスに言われるとか世も末なんだけど。」

「魅せる場とそうじゃない場は弁えてるわよ……」

「わかったわかった……それで、本来の要件は何? 父様から何か用事があったんじゃないの?」


 やれやれという態で【破】の発言を流して本来の要件の辺りでリードを持った飼い主を待つ子犬のような雰囲気を醸し出し始めるマキ。しかし【破】は呆れながら首を横に振った。


「違うわよ。」

「何だ……じゃあ何しに来たの?」

「そんな露骨にがっかりしなくてもいいじゃない……女の子になったマ、キの様子を見てちょっとサポートでもしようと思ってね。」

「要らない。じゃあね。」


 にべもなく断るマキ。しかし【破】は食い下がり、協力関係にあるマーガレットも割と強めに協力を受け入れることを勧めるとしばらく話し合いを行うことで何とか手柄を横取りするつもりだという誤解を解くことに成功し、彼女も魔王討伐のパーティに入ることになった。




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