魔法少女、遭遇する
「あの、あなたがマキ・ユルティムさんで合ってますか?」
「……マキは、私ですけど。」
魔王討伐の準備を着々と進めていたある日。僕は知らない女の子に声を掛けられた。それにしても、マギウスからマキへの解明は兆歩譲って我慢するけどファミリーネームを変えるのは気に入らないなぁ……
そんなことを思って微妙な表情をしている僕の目の前で声をかけて来た女の子は話しかけてきた当初の庇護欲を誘う雰囲気から一転して猛々しいオーラを漂わせると僕に小声で告げた。
「ついて来てくださらない? ここじゃ、話辛いので……」
「あ、だったらいいお店知ってますよ?」
軽く観察すると目の前の可愛らしい少女は制服と腕章からして同学年。そして現在は何やら怒っているようだ。変なことに巻き込まれると警戒心がどうのこうの言われるので僕は先手を打って自分のテリトリーに案内する。
「じゃあ、そこに案内してください。お願いします。」
「はーい。」
どうやら待ち伏せ等は考えていなかったらしく、彼女は僕の提案にすぐに乗ってくれた。と言うことで僕の方もそこまで警戒することはなく少し前にクリス君に紹介されたあのお店に連れて行くことにする。
「ここでいい?」
「あ、はい……」
歩きながら簡単に世間話をしていたところ、話しかけてきた子はマーガレットと言うらしい。中々古風なお名前だ。話している間に怒りが大分収まってきた彼女だが、行きつけのお店に着くと何故か急に尻込みした。
「えぇと……その、持ち合わせが……」
「んー? じゃあ僕が払うよ。」
「えぇ……聖堂院って、経営に困っていてお金がないんじゃ……」
「聖堂院がどうかは知らないけど僕は仕事してお金稼いでるから大丈夫。」
何で聖堂院について知っているのか。そして道中の会話の節々に見える不可解な点についてじっくり聞きたいところなので情報料としてこの程度は自分で持つ。ついでに、今後のお付き合いに関してあまり関わりたくない人であれば立て替えておくということもしたくないのでそう言うも、彼女はポーチから財布を取り出してにらめっこを開始した。
「……いえ! 自分の分は払います! よろしくお願いします。」
「そうですか? じゃあ入りますね?」
別にどうでもいいけど、自分で払うことを決めたらしい彼女と一緒に店の最奥へと足を進め、僕はケーキセット。彼女は紅茶を頼んで一息ついた。
「それじゃあ、話って何?」
「……単刀直入にお伺いします。あなた、転生者ですね?」
真剣な顔で僕にそう尋ねてくるマーガレットさん。転生……んー……この場合はちょっと違うかなぁ?
「違いますけど。」
「嘘! ……じゃ、じゃあ質問を変えますけど、四天王を篭絡したのはあなたで合ってますよね?」
「……? 知ってるの? 僕が四天王なんだけど。僕……いや、我こそが【魔神大帝】様直属の四天王、魔を司るものマギアスなり!」
「……はい?」
せっかく名乗りを上げたのに残念な対応された……どうやら話が噛み合ってないらしい。向こうもそれを把握したらしくさっきの名乗りを何故かなかったことにするかのような会話の切り出し方を行ってきた。
リアクションがおかしいなぁ……格好いいと思うんだけど……敵なら敵でちゃんと攻撃してくれないと……
「うん゛っ……ちょっと質問が悪かったみたいなのでもう一度変えますね。あなたが、マリウス様、クリス様、ニースフェリア様、ジルバ様を篭絡した神巫女で合ってますか?」
「してないけど? そんなことより四天王は僕なんだけど。」
「……他の四天王はどこにいるんですか……?」
「……さぁ? この世界に入ってからはなんだか通信をユルティムに遮られてるからわかんない。」
何だ、四天王としての僕のお客さんか。それは確かにあそこじゃあ話辛いこともあるだろうね。よ……っと。結界張ってユルティムに聞こえないようにしてっと……
何でこの子は僕にそんな無駄に優しい視線を送ってるんだろ……?
「……んーとね? マキちゃんってさっき挙げた人たちと仲いいよね?」
「そう? んー……悪くはないかなぁ……?」
「うんうん。目撃情報とか結構挙がってるからこれは認めてね? 話が進まないから……ところでさ、もしかして今、夢を見てると思ってないかな?」
「思ってないけど。」
何だろうこの子。電波系なのかな? 燃えるような野望なら抱いてるけど……
「そっかぁ……まぁいったんそれは置いといて。さっき挙げた人たちの中でもさ、マキちゃんってクリス様とニースフェリア様。そしてジルバ様と凄く仲がいいんだよね?」
「……? いや、別に……?」
「しらばっくれるな小娘がぁっ!」
おぉう? どうしたんだろこの人。急に30代のアラフォーの怨念でも宿ったのかな? 闇のオーラが威圧感を生み出してるよ?
「せっかくメインヒロインとして転生できたと思ってたら既にライバルが全員攻略開始してたんだけど! 何なの? こういうのって普通あたしが来るまで物語は進まないはずでしょ? なんっであたしが来た時点で3人がもう攻略半ばでしかも逆ハールートに入りかけてるのよ!」
「おぉ……? 凄い魔力量だね……?」
「あぁどうも! お陰様で前世ではシンデレラガール! 有り余る性欲が魔力と化して今世で大爆発ですよ! 艶やかな黒髪は魔力の証拠ってねぇ!」
「うんうん。お師匠様の黒髪は格好良かったなぁ……」
「ぬぁにぃ? お師匠様だぁ? そんな隠しキャラいねーよ? あぁん? 吐けや小娘!」
……どうしたんだろこの人。大丈夫かな? 一先ずお師匠様について語ってほしいとのことだし……
「分かった! 任せて!」
「お、ふふ……っ! と、取り乱してごめんなさいね?」
「うんうん大丈夫! ちょっと欲望を増大させる呪いのリボンが外れないからそうなってるんだよね? いいよいいよ! それよりお師匠様の話聞きたいんだよね!」
「え、あ……わかるの?」
呪いのリボンというワードに反応したマーガレットに対し、師匠もとい、【魔神大帝】の話を聞きたいという返事に対してわかるのかと言う返事が返ってきたと判断したマキ。
彼女の話は止まることなく、この喫茶店がカンバンになるまで語りは止まることはなかった。