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魔法少女、語られる

「……何か割と長い間何事もなく学校に居てしまった……」

「……それの何が問題なんだ?」


 生徒会室で執務の手伝いをしていたマキは不意に目を覚ましてそう言った。現在は彼女となってしまっているマキだが、魔神軍幹部だったころはそのトップに君臨する師匠の為にばりっばりに仕事を熟していたのでこの程度のことは朝飯前なのだが、そんなことは問題ではない。


「僕はこの学校に魔王を倒すための戦力を求めて来てたはずなのに……何をやってるんだろう……」

「魔王を倒すって……マキに?」

「そういうことは軍部に任せていればいいんですよ。そんなことを言っている暇があるのでしたらこちらの資料もよろしくお願いします。」

「……まぁ仕事は終わらせるけど……」


 一度引き受けたことなのでマリウスから渡された資料のまとめ作業に入るマキ。これが終わったらまどろっこしいこと抜きで魔王討伐の旅に出ることを心に決めた。





「よし、マリウス君。仕事終わったから僕、魔王倒す旅に出るね。じゃ。」

「おいおいおい……マキ? お前ケーキ買いに寄り道するんじゃないんだからよぉ……」

「……はぁ。」


 仕事が終わるや否や時計を見てそう告げるマキに笑いながら呆れるクリスと呆れかえって溜息をついてしまうマリウス。マキが常識知らずなのは知っていたが今回のは酷過ぎる。


「マキ、お前魔王がどこにいるのか知ってんのか?」

「噂によると、北の山を越えた先にあるアズドフェリアってところだって。」


 最近、ジルバ君から聞いた答えを告げると二人の顔に真剣みが帯びる。マリウスはマキの本心、そして引いては聖堂院の考えを読み取るために黙り、クリスの方は探りを入れるために言葉を選んで尋ねる。


「……仮にだ。仮にアズドフェリアにいたとして考えるぞ? アズドフェリアの山までは龍騎使って行ったとして、そこからは外交問題になるから龍騎を使えず徒歩になる。そうなると、半年はかかるぞ?」

「ん~……往復1年ってところかぁ……」

「しかもだ。許可が必要になるし、天候次第じゃ進むこともままならない。慣れない土地で規定ルートを進めるかどうかもわからない。そんな苦労をして、噂がガセで本当は真南だったら骨折り損のくたびれ儲けだぞ?」


 真剣な声音でそう言ってくるクリスくん。……はぁ。魔法使えたらさっと行ってだっと戻ってこれるんだけどねぇ……そもそも、魔法使えたら魔王がどこにいるかも一瞬でわかるし……あ~不便。詠唱如何こうとかいう問題じゃなくて完全封印されてる辺りがいやらしいよなぁ……


「まぁ、諦めた方がいいでしょうね。前々から言っていますが魔王のことは軍部に任せるのが一番です。マキさんは安心して学校で学んでください。」

「……う~、あんまりじっとしているのも性に合わないんだけどなぁ……」

「それは痛いほど理解していますので、少しは大人しくしてください。」


 マリウス君から窘められるけど向き不向きあるから仕方ないことにして背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ。そして背伸びをした後に勢いよく元に戻ると息を吐いた。


「はー、とりあえず今日は仕事終わったのでお疲れ様でした。」

「……えぇ。お疲れ様です。」

「送るぜ。何かお前、最近絡まれてるみたいだからな。」

「クリス、君はまだ仕事が残っているでしょう。」


 マリウス君からの言葉に小声でのやり取りを開始するクリス君。別に僕に送迎なんていらないんだけどなぁ……クリス君は何か得意げに終わったってマリウス君を挑発して……むっつり? 僕の胸見てたから何なの? 別に裸体晒してるわけじゃないしいいんだけど。


「ということで、マリウスも納得した俺がマキの送り役ってことで。」

「マキさん、こいつが何かしたら遠慮なく対処してもらって構いません。」

「言われなくてもそうしますよ~。それじゃ、お疲れ様でした。」


 結構実力については見せて来たのに信頼ないなぁ。そう思いながら僕はクリス君と一緒に女子寮まで、無駄に広い学園内を共に歩き始めるのだった。






「なぁ、マキ。お前もう少し自分の言動を気にした方がいいぞ?」

「ん? 失敬ですねぇ。ちゃんと配慮して行動してますよ?」


 主に地形とか、生態系への配慮は欠かせない。【魔神大帝】様が観光に来たのに既にこの世界は廃墟になっていましたなどと言ったらもう洒落にならないからね。


 そんなことを考えながら校舎から出るとクリス君追っかけ部隊と思わしき存在である周囲の女性から殺意の眼差しと波動を向けられる。うーん……まだ【魔神大帝】様とは違って悪意は食べれないんだよなぁ。一応、天使だから感謝とかは食べられるんだけど……


「……いや、全然だな。聖堂院育ちだとそう言うの緩いのかねぇ?」

「聖堂院で育ってないから知らないですけどね。」

「お……ん? じゃあお前の親御さんとかは何も言わなかったのか?」

「んー……まぁウチは自由主義ですからね。」


 思い出す自分たちの自宅での出来事。長女だけ少々(・・)年が離れていたため、一緒に遊んだという思い出は少ないが3人で天地創造したり世界滅亡させたり、色々したものだ。


「自由ってか、緩いんだよな……母親はその辺やっぱりちゃんと言っておくべきだっただろうにな。」

「あー僕、物心ついたころからお母さんいなかったから。」

「……それは、悪かった。」

「何が?」


 気まずげに、初めて見る申し訳なさそうな表情。影のある美男子という題名が付いた美術品のようなその表情を前にして僕は首を傾げる。親がいたら僕は【魔神大帝】様に出会うこともなく、更には育ててもらえることもなかったから、いなくて大正解なんだけど何で謝るんだろう。


「……いや、俺もな。母親がいないんだ……」


 唐突な自分語りが始まったんだけど、どうすればいいの僕。普通に流すべき? それとももう話題に上がってから言いたくて仕方ない【魔神大帝】様の話するべき? やっぱ後者だよね! キリがいいところで流れをこっちに持って行こう!


 しばらく続くクリス君の熱論。身分違いの恋に始まった大臣である父親と使用人である実の母親、そして家督を巡っての正妻、側室、そして祖父たちの問題。まだ切り込めない……

 望まれぬ出生。両親の別離。それでも慎ましいながらも幸せだった過去語り。行ける! っとぉ、急転直下の出来事に続いたせいで入り損ねた……

 そして、衰弱していく母親。何もできない若い父。ようやく家庭内で実験を奪い取った父親が母を迎えに来た時には既に母は帰らぬ人に。そこで父に引き取られ次代を担う人物として努力を……もう行く。


「よく頑張って来たんだね。」

「……はぁ?」


 おっと、不機嫌そうな返事だね。わかるわかる。こっちの苦労も、努力もそんなに知らない癖に表面上の話だけ合わせてこられるとイラってくるよね。でもごめんね? あんまり興味ないんだ。


 さて、存分に語ってもらったところで今からは僕のターンだよ? 【魔神大帝】様の宗教……まぁこの宗教は素晴らしいからいいんだけど。世の中の宗教はまず相手の不満を見つけて顕在化し、その問題に対する相手の私見を肯定するところから始めます。

 続くステップでその問題の解決策に宗教を絡めながら、相手の望む方法での解決の案を出します。ここで、実際に解決するかどうかは重要ではありません。今回の様に、相手がそれを既に問題としていない場合などは相手の意見を包み込むような存在として教えを説きましょう。


 さて、あんまりのめり込まれても困るし……この辺で止めるレベルで。


 勧誘開始。





 この後、マキは第一ステップにおける相手の不満の顕在化の時点で相手が抱える闇を洗いざらい吐かせてその意見をまるで聖母の如き優しさで受け止め、クリスを泣かせてしまう。そして、その時点を以て自分の世界に入ってしまったクリスには宗教の押し売りは通じなかった。




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