魔法少女、泣く
「……う、そ……」
マキは目を見開いて絶句していた。
「にゃい……? にゃんで……?」
いい加減、猫語が終わらないものかとこの世界にあるステータスと言う謎の制度を使って自分の状態を確認したところ、そこに在るはずの物がなかったのだ。
マキは一度ステータスを消し、そして再度それを表示したがそこに変わりはない。泣きそうになりながら何度も同じことを繰り返すが何度やっても同じ結果しか出ない。
「どうして……? まさか、ユルティムの奴が……?」
怒気で目が充血し始めるマキ。その目に映るステータスは以前と少し異なっていた。
Name:マキ・ユルティムズ・メルティム
Job:魔法少女
Magic Point:8376754018648/8376754018648
Title:【神の寵児】、【正義の執行人】、【愛猫】(残り3時間)
称号欄、【魔神大帝の四番弟子】の称号が消えているのだ。魔素を吸収して少しだけ増えているのはいいとして、変な称号が付与されているのもまだ許容範囲だったがマキはそれだけは許せなかった。
「……この身果てても怨み晴らさで擱くべきや……」
まさに魔神の幹部と言うべき魔力が発生し、マキの猫化が強制解除されて衣服がローブへと変貌する。しかし、この場所に【魔神大帝】が遊びに来ると言うことを考えるだけの理性が働いており葛藤に陥ってしまう。
「……死なない程度に痛めつけるか……」
大量の弁明メッセージが届いており、やってないという連絡が届くがマキはそんなもの読んでいられない。怒髪天を衝いている状態で髪を逆立てて天界に飛ぼうとする。
その時だった。天から天女の如き美しさを持った女性が舞い降り、マキの隣に立つと静かに声をかけて来た。
「ちょっとどうしたの兄さ……え?」
「……【破】、か。どうした?」
「え、どうしたじゃなくて兄さんこそどうしたの? 姉さんになってる……」
突然やってきて突然の展開に驚いたのは天から降って来た女性の方だった。彼女はマキの姿を見て驚いてしばしマキの周囲をうろつき回り、マキを不思議とクールダウンさせた。
「……もういい? 何しに来たんだよ。」
「声も可愛くなって……いや、まぁ父さんからの伝言何だけど……」
「早く言ってよ!」
先程までの怒気を一時的に霧消させてマキは彼女に問いかける。彼女は悩ましげな表情を浮かべて頬に手を当てると言い辛そうに告げた。
「……まだそのノリやってるの?」
「そんなの自由だろ。そんな事より早く【魔神大帝】様の伝言!」
「……父さんも苦労してるわよねぇ……あぁ、伝言は『そう言えば卒業させるの忘れてた。』って。別に知らせる程のことでもないんじゃないかって思ってたんだけど……まぁ言いに来て正解だったわ。」
「……卒業。」
マキは彼女の伝言を聞いて難しい顔をして俯いた。何だか絆が一つ消えた気がして嫌な気分になったのだ。
「何か次のステップはないの?」
「……知らないわよそんなの。それとまた別の報告。私、結婚したから。」
「え? 父様と!? どうやって!?」
「……あのねぇ。」
相変わらず【魔神大帝】に心酔しているらしいマキの様子に【破】と呼ばれた彼女は溜息をついて首を振った。
「何で父さんと結婚するのよ。血は繋がってないけど親子よ?」
「でもアリア姉は……」
「……アリア姉さんは、そういう人だし……確かに私もそうだったけど……」
月日は人を変えるのだと言外に告げる彼女にマキは尋ねる。
「じゃあ、父様が父様と結婚しろって命令してきたらどうするのさ。」
「……父さんは潔癖症だからまずないと思うけど……まぁその時は喜ぶよそりゃあ。私は別にファザコン辞めた訳じゃないし、私がアピールし続けるより結婚した方が喜ぶから結婚したんだから。お互いがもっと幸せになる道があるならそれを選ぶけど、今の時点ではこれが両者にとってのベストね。」
しばらく見ない間に妹が成長……一般的には逸脱しているものの、彼女たちの界隈では成長しているのを見てマキはふと我に返って最近の出来事を思い出す。
(……猫語とか。僕は何やってるんだろう……)
自分の所為ではないが自己嫌悪に陥るマキ。しかし、妹の前でそんなに凹んでられないとすぐに切り替えた。
「そっか……とにかく一応おめでとう。」
「うん。まぁ旦那も好きと言えば好きだからねぇ……見る?」
「んー……見る。」
写真を見せて来た妹のモニターを見るとそこにはモニター越しでも圧倒的な存在感を発す絶世の美男子の姿があった。
「へー格好いいね。」
「でしょ?」
「うん。」
「父さんよりも『あ゛ぁ゛?』……客観的に見てよ。流石に『何言ってんだテメェ。殺すぞ?』……わかったわよ……」
相変わらずのマキに苦笑するしかない【破】。妹じゃなければぶっ殺していたところだとマキは溜息をついて気分を紛らわせると感慨深げに溜息をついた。
「そっか……取り敢えず目玉くり抜いて治す?」
「……そういうところが父さんが嫌がるゆえんよねぇ……何でそんなに過激派なんだろ……ちなみに私この後も伝達の仕事があるから攻撃したら父さんが怒るよ。」
「ひ、卑怯な……ただ僕は親切心で腐った目玉を入れ替えてあげようと思ってるだけなのに……」
「……それはそれで怖いんだけど。まぁいいわ、慣れてるし。」
こんなのに慣れる彼女の生活は可哀想だが、少し前までは彼女もそちら側だったので気持ちは分かると割り切ってマキに後でまた来ることを伝えて去ろうとする。
「それにしても可愛くなったよねぇ……食べちゃいたいくらい。」
「淫魔って両方イケるの? その割にはアリア姉には……」
「性欲より生存欲求の方が強いわよ……それに、アリア姉さんと会う時って大体父さんいたし……」
「あぁ。なるほどね……」
納得したマキにこれ以上ここにいると性的に襲うかもしれないと告げてこの場を離れる【破】。妹の結婚などで卒業のことを忘れていたマキだが戻って来た時に尋ねればいいかと考え直して部屋に戻って行った。
その為、彼女の妹が呟いた「マギ兄も新しい道を知るべきだよね……」という言葉はマキの耳には届かなかったのだった。