魔法少女、魔王討伐に乗り出す
八つ当たり気味に害獣どもを蹴散らしに行き、『乙女の純情にゃる愛と可愛いい正義のパワーよこの身に宿ってほしいにゃ! 罪深き者たちに魂の救済を与えるために僕は戦うのにゃ! ラブリー全開!』などと半自動で口走る羞恥プレイを強制されたマキは不機嫌さを露わにしながら学園に戻って来ていた。
「……死にたいにゃ。我が君がいにゃかったらとうの昔に死んでるのにゃ……」
膝を抱えてベッドの上に座り込み、顎を無駄に大きな胸に埋めながらマキは鬱気味の溜息をついた。
「……そうにゃ。我が君の為に頑張らにゃいといけにゃいのにゃ……」
ゾンビのようにのろのろと動き出すマキ。異空間の中へ手を突っ込んで小さなペンダントを取り出すとその中にある小さなころの自分と【魔神大帝】のツーショットの写真を見て何とか気を取り直し始める。しばらくの沈黙の時間の後、何かに満足したマキは溜息をついて写真を異空間の中に仕舞ってベッドに横になる。
「……はぁ~……【魔神大帝】さみゃの写真いっぱいほしいにゃぁ……でも禁止されてるし……しばらくお休みににゃられてるみたいだし、後でレジェクエの本町に行って裏ルートで買おうかにゃあ……」
ここに来た時のやる気を取り戻し、本人によって禁止されているが裏ルートで売買されている写真類を買うという後のご褒美を考えてマキは立ち上がった。
基本的に映像、偶像、その他自らの姿を映す物及び模した物、その他にも似せたモノなど全てを弾圧というレベルで拒絶する【魔神大帝】だが、流石に子どもの成長の記録で写真を撮るとなった時は写真を許可し、保存するのも認めてくれている。それだけ大事にされているんだと思うと喝が入った。
「さっさと魔王倒すにゃ! 落ち込んで任務達成できにゃい方がご迷惑ににゃるにゃ! 頑張るのにゃ! なぉぉぉん!」
ご丁寧に喝を入れる声も猫語になって遠吠えチックになっていたのに変な感心と結構な徒労感を覚えつつまずは食事ということで寮の食事を摂りに下へ降りて行った。
「にゃーんか人目が集まるにゃあ……」
猫耳、猫尻尾、猫語。どこか柔らかく可愛らしい顔立ち。更にはその小さな体躯に似合わぬ大きな胸とそれを際立たせるような魔法少女のドレス。あざとすぎて逆に引かれるレベルのマキはそれでも人目を気にするよりも自分のやることを優先して動いていた。
「ぶはっ……げほっ……おま、マキ、何つー恰好を……」
「にゃ? あぁ、クリス先輩どうもにゃのにゃ。」
人目を引いていたのにつられたのかマキの下に赤髪のチャラ男ことクリスが現れ、マキの姿を見るや否や噴き出して咽た。マキがそれを介抱しているとすぐに気を取り直したクリスがマキを真剣な眼差しで見た後に人がいない方へと引っ張って行こうとする。
「にゃ? にゃにする気にゃ?」
「おま、ここじゃ人目が多過ぎる。ちょっと人気のない場所に行くぞ。」
「……まーいいにゃ。手短にしてほしいにゃ。」
自分に利がないことだったらすぐに無視すればいいことだし、仮にしつこければ闇に葬り去ることも視野に入れつつマキはクリスに手を引かれるがまま校舎裏に移動する。
巨大校舎を擁するこの学校において使われることが少ない校舎裏は本当に人気がなく、マキはクリスと二人きりでその場に対峙した。
「……こういうところに連れて来られてると言うのにお前は何で……本っ当に危機感がないよなお前!」
「にゃにかするきにゃらぶっ飛ばすにゃ。」
「……そういう強気な所はいいと思うが時と場合によっては火に油注ぐことになるからな? 特にお前、今のその恰好と猫人族の赤ちゃん言葉は何だよ。お前、俺が悪い奴だったらどうする気だ?」
「クリス先輩はそういう人じゃにゃいって思ったにゃ。」
さらっと言われたマキの言葉にクリスは反論に詰まってしまう。何をストレートに言ってるんだと言い返そうとしてそんなこと言えるかと脳内で反論している間にじっと見られることで稀代の遊び人クリスともあろう人間が顔に朱を差してしまい居た堪れない気分になった。
「と、とにかく人を信頼するのはいいかもしれないがだ! お前、もっと危機感もってだな。その……警戒心持てよ! あぁもう調子狂うぜ……」
「ご忠告どうもにゃ。それだけにゃのかにゃ?」
「それだけって何だ! お前、男は大抵狼なんだぞ? 俺に言われた以上に気を使えって!」
「使ってる使ってる。」
「そう言う動作の時にも気を付けろっつってんだ! あぁもう……!」
言っても無駄だったかとクリスはその赤髪を掻いて溜息をつくが、マキは銀色の猫が校舎の方に見えた方が気になったので適当に頷いておいてさっさと行ってしまう。残されたクリスは言いようのない感情を覚えながら元いた場所に戻るのだった。
「ジルバ君~魔王殺しに行きたいから場所教えて欲しいにゃ。」
「あなたは本当に驚かせるのが好きみたいですね……後、何ですかその語尾。」
「これをにゃおすために魔王を殺すのにゃ。」
マキが追いかけた銀色の猫は同じような校舎の壁側、人気のない場所で神秘的で淡い雰囲気を持つ美少年、ジルバに変わってマキに溜息をつく。
「……そんな理由で殺される魔王は全体未聞ですが……」
「死ぬときは理由にゃんてにゃくても誰でも死ぬにゃ。どうでもいいから殺すのにゃ。」
ふざけた口調で重いことを言うマキにジルバは溜息をついて応じる。
「魔王を倒すのは我々にとっていいことですので戦力を増やすためにも教えたいですが……まだ正確な位置は捕捉できてません。」
「そうにゃのにゃ。じゃあ分かったら教えて欲しいにゃ。」
「はい。」
何故か儚げな笑みを浮かべるジルバ。そんな彼にマキは続けて尋ねる。
「それと、ここから僕のクラスのある校舎に戻る道も教えて欲しいにゃ。」
今度は苦笑を浮かべ、それでも先程よりかはどこか嬉しそうな表情で銀色の猫になるとマキを連れて校舎の扉の前に移動するのだった。