魔法少女、神託を受ける
―――あのさぁ、君魔法少女の格好してるんだからもっと可愛らしく魔法使いなよ―――
「何してくれてるんだこのゲス! 折角【魔神大帝】様の夢見てたのに!」
おそらく夢の世界。【魔神大帝】様に拾われた頃の小さな僕に意識だけが宿っているかのような状態で楽しい夢を見ていたところジャリが紛れ込みやがって台無しになった。
『……その言葉遣い、減点だからね? 全く、折角可愛くしたのに魔法使わないんじゃ駄目じゃん。確かに世の中には徒手空拳で戦う魔法使いもいなくはないけどさぁ……映画版だと浮くんだよ?』
「知るか! 何の話だ! 元に戻せ!」
『大して変わらない癖に……』
呆れるような声をするジャリ。不快指数は術式使用不可のランニングの最中にマジックジャミングされた小石が靴の中に紛れ込んで来てその後100キロほど付き合う破目になった時のようだ。夢の邪魔もするわ罵倒するわでムカついたので流石にこれには反論させてもらう。
「流石に胸も股の穴もなかったよ!」
『下品……これは流石に減点だね。よし、身体能力上昇の魔術にも詠唱を付けよう!』
ジャリことこの世界の神を自称する者ユルティムは僕を指さすと光を放ち、僕に変な魔法をかけた。それでも僕は止まらない。
「大体、女の子に勝手なイメージ付けてるのがキモい! 何が僕色に染めようだ! 僕は【魔神大帝】様一色に染め上げられてるから変更不可なんだよ!」
『そんな汚い口調にならないでほしいなぁ……それがその魔神の色なの? ……まぁでも染め直し出来る処女だからいいよ。でもちょっとオイタが過ぎるかなぁ? ちょっと反省してもらうよマキ。』
暴論を投げかけて消えて行くユルティム。エコーが掛かったように後を引く声は目覚めた時を楽しみにすると良いと残されていた。
「あー……寝起きから最悪だにゃん……」
……ん?
「にゃんか、変だにゃ……」
んん?
「……音が、いつもより高い位置で聞こえるにゃ? って。」
防音の個室だと言うことを理性の隅で確認しながら僕は絶叫した。
「ふざけるにゃぁあぁぁぁぁああぁっ! にゃんだこれ!」
ベッドとお尻の間の辺りが痛い。そこを見ると尻尾があった。細く長い、薄ピンク色のしなやかな尻尾だ。恐る恐る触ると背筋がぞくんってする。
頭上にも変な感触がある。それは動かすことが可能でそれを動かすと音の聞こえ方が変わる。上体を起こした僕はベッドの上で四つん這いになっておどろおどろしい声で呟く。
「あいつ……ホントに死ねばいいにゃ……」
ステータスを開示すると新たなメッセージが。変態からだ。この状態は反省を促すために3日は元に戻らないとかぬかしおる。
「ふみゃぁぁあぁぁん! あぁぁあぁっ! 自分のにゃき声からして嫌にゃ! 死にたくにゃるにゃ!」
この世界のとある猫人族の、王家に連なる一族が最初に覚える言葉遣いらしい。言うなれば子猫が母猫に使う甘え用の声だ。奴の趣味が丸わかりで死にたくなってきた。
「……学校休むにゃ。行きたくにゃいにゃ。」
布団に包まって二度寝をしようとすると新着のメッセージが。変態スードゥズーフィリアことユルティムからで衆目に晒されて3日経たないと元に戻れない上、期間を過ぎると一生戻れないとのことで……
「……はぁ。死ねばいいのににゃぁ……」
いつの間にか尻尾用の穴が出来ており、ご丁寧に中は神威級の魔術で見えないようにされたふりふりドレスの姿で僕は外に出る羽目になった……
「……僕は今、一体にゃにをしているんだろうかにゃ……」
虚ろな目で学校に辿り着き、大量の人目を集めつつクラスに入った。普段は周りのことを気にしないでいたが今日は流石におかしいので衆目を気にしていると思いの外猫人が多いことに気付いて気が紛れ……る訳がない。
「えーと……お早うマキさん。その頭はどうしたの……?」
「にゃ……ユルティムの所為にゃ……朝から鬱ににゃりそうにゃ……」
「……神巫女さんも大変なんだね……」
パーティを組んでいる土魔術師のニースフェリア君が朝から気の毒そうな目で僕のことを見てさっと目を逸らした。犬のような雰囲気を醸し出している彼の前で猫みたいな状態になっているせいか彼の頬は赤くなっており、戦意が向上しているように思われる。
「にゃぁ……憂さ晴らしに魔物バラすにゃ……にゃあでも、身体強化にも変にゃのが……」
「今日も狩りに行く? なら俺も頑張るけど。」
「にゃ……」
最近ニースフェリア君は自分の実力を知って自身が出て来たのか元気がよくなってフランクに喋って来るようになってきている。しかし、今は放っておいてほしかった。
(……何かなぁ……先に調査しておかないといつ【魔神大帝】様が来るか分からないし、早い所胸張ってオススメできる場所をたくさん持っておきたいんだけど……今の状態で胸張っても笑われるだけかも……)
自分の成長した胸元を見る。少し揺れるとついて来るように揺れ、下から支えるように持ってみるとほにゃほにゃしている。
「マキさん、そういうのを人前でやると危ないから……」
「変にゃとこ見るにゃ……はぁ……」
ニースフェリアくんに注意されて周囲の目を気にして手を降ろしつつ僕は真剣に魔王討伐のことを考えないといけないと思うのだった。