始まりは
これは俺___水島響也の一夏の物語だ。
どこまでも奇怪で理解不能だけど、俺の人生が百八十度変わったきっかけになった体験談_____
始まりは俺が高校生になって初めての夏休みを目前に控えた6月。確かその日はまだ梅雨明けしていなくて、雨と湿気でジメジメしていたと思う。
俺は梅雨の空気にすっかり影響されてぐだーっと教室の机の上で伸びていた。
俺の通う学校、尾矢高校は平々凡々って言葉がよく似合う公立高校だ。
偏差値は56とかいう平均数値だし、部活だって県大会に行ったり行かなかったりってレベル。
俺は特に頭が言い訳でもなかったし、遠くの高校に行って冒険したい!みたいな考えとか将来の夢とかがなかったから、徒歩20分くらいの近所の高校を受験して、見事入学を果たした。
響也:だる…。
俺は
元々この学校の校風が「のびのびと自由に」だから生徒も先生ものんびりとした奴が多い。
それに加えて初の定期テストもなんとか終わり、なんとなく気が抜けているところにジメジメした空気。これでだるくならない方がおかしいと俺は思う。
今日俺は珍しいことに早起きしたので、一番に教室に来た。
なんせ徒歩圏内だから少し早起きするだけで結構早く着く。
そして今日の天気予報は時間が経つごとに雨脚が強くなるらしいから雨が弱いうちに登校したかった。
でもやることがなく、ただひたすら机とにらめっこしていた。
(退屈だな。漫画でも持ってくればよかった)
しばらくすると教室に誰かが来た。
歩く音がして、その少し後にどさっと荷物を置く音。
さらに少しするとまた足音が聞こえた。
それはまっすぐ俺の方に向かってるようだ。
梓:響也早いね。おはよ
足音が俺の前あたりで止まると、声が上から降ってきた。
響也:あー、梓か。はよー
俺は一瞬顔を上げると親友に挨拶してまた顔を戻す。
今声をかけて来たのは、駒形 梓。中学からクラスも部活もずっと一緒という腐れ縁のような存在。ちなみに部活はバスケ部。
梓:チョー気だるそうじゃんw
響也:…だってさぁ。
俺は昔から雨が嫌いだった。なんでかって?
そりゃあ、大っ嫌いな虫…主にナメクジ、ミミズ、カタツムリなんていう得体の知れないやつが闊歩し出すからに決まってる。
元々雨は濡れるから嫌だし虫もキモい。
だから俺にとって夏と雨は鬼門なのだ。
響也:うだー…。なんで毎日雨なんだ
机に突っ伏したままぼやく俺に梓は苦笑した。
梓:仕方ないよ(苦笑
響也:梅雨とかまじ嫌いだ…。ジメジメがキモくてしょうがないよ
ただの雨ならまだ平気だ。
でも梅雨は本当に嫌い。だって全然爽やかじゃないから!
なんとなく俺の中で爽やかパワーが奪われていくような気がする。
って言う話を前に梓にしたら大爆笑されたけど、俺は半分以上本気で思っている。
梓:じゃあ、梅雨と夏の間だけどっかいってジメジメと虫から逃げてくれば?
俺の雨と夏嫌いの理由を知ってる梓は笑って提案してきた。
響也:あー、それいいかも。でもどこ行こう
ヨーロッパとかは爽やかだって言うからなー、でもそこまで行く金あるわけないしとか考えてたら俺の親友は実に突飛なことを言い出した。
梓:そりゃあ、異世界だろw
響也:梓…。流石にそれは
梓:あは。やっぱり無理だよな
思わず顔を上げて言う俺にてへ、と笑うとでもと続けた。
梓:頑張れば行けるかもよ?
響也:ま、行けるなら行きたいよなー。
梓:うん。誰か連れてってくれないかな
今までの会話でなんとなくわかるかも知れないが、俺と梓は小説を読みすぎて頭の中がファンタジーになりつつある。
元々、同じ小説を読んでいたことがきっかけで仲良くなったから一緒にいるとよく会話が二次元に飛んでいく。
響也:屋上から女の子が降ってきてー
梓:ぶつかってー
響也:その弾みで異世界ーみたいな?
梓:そうそう。考えるとすごい楽しそうだな
響也:確かに