苦手なものとてんびんに掛けても納得がいかないが、過ぎた過去には戻れないこの羞恥をどうしようか。
夏。いい具合に曇った鉛色の空、生ぬるい風。
少女はゴクリと喉を鳴らすと、コンビニの袋を握り締め、キュッと口を結んでキャスケット帽を被り直す。そして、冷たい汗を拭って家までダッシュ。
登り坂? それがどうした。
ミニスカートとかキャミのストラップとか色々際どいがそれどころではない。
雲行きが怪しいんだ、解れ。ヤツが来る。
ヤツが来るヤツが来るヤツが来る!
カッと遠くで紫電が疾った。
ひっ、と息を呑み、ギクリと縫い止められた様に少女の足が竦む。
耳を劈く轟音が鳴り渡った。
上げられない悲鳴を喉の奥に絡ませ、彼女は耳を押さえてその場に屈み込む。
「こっち!」
不意に伸びて来た手が彼女を軒下に引っ張り込んだ途端、バケツを引っ繰り返した様な雨が降り始める。
「随分いい雨だな。寄ってけよ。ゲームの相手探してたんだ。で、アイスおごって」
よくよく見れば近所の小学生、悪ガキである。何やら今日は真面目なかおをしているが、スカートめくりをするようないたずらっ子だ。
根は悪い子ではないのだが。
しかし、溶けかけのアイスと、空で今現在荒ぶるヤツとはてんびんに掛けるまでもない。
「その誘い、乗った!」
ドロドロのアイスを食べながらガンガン音量を上げて音ゲーをして、買い物から帰ったおばさんに二人して叱られる頃には、ヤツは去っていた。
「アイスうまかった」
見送りに出て来るのは少し意外だった。その上、ちゃんとごちそうさまが言える子だったとは。
「アンタは案外ゲームうまかったわね。でも次やったら私が勝つ!」
ふと子供は神妙に黙る。
「どうした?」
あのさ、と言い差して子供は少し迷う風にしてから、言った。
「あんま、薄着なのも考えものだと思う」「はあ?」
真面目に何を言うのだ。
「ソレ、透けてたぜ?」
じゃーな、と子供は玄関のドアを少女の目の前でパタンと閉じた。
少女のワンピースは白である。それだけならまだしも、夏は汗も掻く為、透ける事もある。普段は上にボレロを羽織るのだが、夕立が近そうで急いで出て来たので家に忘れて来てしまったのだ。
今日はちょっと大人しいかと思えば、何の事はない、めくらなくても見えていたのか! というか、そういう事は最初に言え!