バースデーケーキ
彼女のお願いならば、なんでもききたい、かなえたい。
けれど――
「誕生日ケーキ?!」
彼女が目を丸くしていたから、かなり頓狂な声を上げていたんじゃないかと、思い出すたびに恥ずかしくなる。
「ダメかな?」
ダメなわけがない。
彼女の誕生日を一緒に祝うのだから、誕生日ケーキの1つや2つ作れるものなら作りたい。
ただ……菓子作りの過程が重要だった俺は、今までデコレーションというものをしたことがない。
いきなり彼女の誕生日ケーキというのは、ハードルが高すぎる。
*
ベースはやはりいちごショートケーキ。
前日のうちに生地を作っておく。
彼女の誕生日当日が日曜日なので、少し早起きをして朝からいちごを切る。
いちごは飾り用に見た目の整ったやつを15個残して、あとは荒く刻んではさむ用だ。
冷めたスポンジを二つに切り、断面にシロップを塗ってから、ホイップクリームといちごを挟む。
スポンジを焼くこと自体は何度かやったことがあるので失敗はないし、ホイップクリームだって、卵白を泡立てることに比べれば楽勝だ。
問題はここからだ。
ケーキ全体にクリームを塗りたくるのだが、なかなか均等にならない。必ずどこかでスポンジがうっすら透けて見えたり、クリームが波打ったりとかなりみっともないのだ。
回数勝負ではないが、ケーキを5周してみたがやっぱりダメだ。
クリームを増量し、スプーンの背中でペタペタと模様を作ってみたが、こういうデコレーションはドーム型のケーキには似合うのだろうが、普通のホールケーキではいまいちピンとこない。
とにかくスポンジが見えないよう丁寧にクリームを塗り、続いてケーキの上部に取り掛かる。
複雑な搾り出しはできないから、ケーキの外周にいちごとクリームを交互に配置していく。
最後のクリームを搾り出し、中央にいちごを1個丸ごと置き、その周りにも半分に切ったいちごを飾ってケーキの上を同心円に埋めていく。
これでいいだろうとケーキを眺め……、上がいちごで華やかな分、側面の貧相さが目に付いてしまった。
いちごは使い切ったし、側面にまでクリームをあしらう技術も感性もない。
製菓コーナーにあったチョコレートスプレーやアラザンの存在が脳裏を過ぎったが、まだスーパーは開いていない。
「……台所のもん、触るなよ!」
家族の顔も見ずにそう言い放ち、財布を片手に家を出てコンビニへと向かう。
お菓子コーナーで目当てのものを探す。
赤白パッケージの『小枝』はすぐに見つかった。
おつりを受け取るのももどかしく、家に引き返す。
パッケージを開け、ケーキの側面にぐるりと一周貼っていく。
これなら多少でこぼこしていても誤魔化せるし、少しは見栄えもするだろう。
出来上がったケーキを専用の箱に入れ、冷蔵庫にしまい、ほぅ、と息をつく。
慣れないデコレーション作業である上に、彼女の誕生日ケーキともなれば、緊張も半端じゃない。
でも――いつも以上の達成感だ。
うーんと伸びをしながら、俺は満足の笑みを浮かべた。
以前書いた話はここまでになります。
これからは思いついた時に書くので不定期になります。