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二話


原作、はじまりました。


「雰囲気的には冷やし中華、はじめましたって感じ」


「霖先輩なにいってんスか?」


~っスが口癖で色気のあるタレ目にまつげが異様に長い。

ゴールドピンクに長めの髪を無造作に流し、ヘッドフォンを首にかけた大型の巨人…いや、少年は一年の桃園ももぞの 瑞希みづき


「あ、桃園せぇんぱいチィ~ッス!」


「チィ~っス!!ってあ!それ俺の真似っすか!俺そんなふうにいってないっすよぉ!って、いてぇ!」


ゲラゲラ笑いながら指差す桃園の頭にチョップがはいる。

桃園が振り返るとそばかすに鼻絆創膏をつけたヘアバンドの素朴そうなくり


くりおめめの男の子がぷんぷんしていた。

その少年、猪山いのやま 博巳ひろみの手にはグラウンドを整えるトンボが握られてそれを桃園に手渡す。


「桃園さん!遊んでないで準備してください!新しい監督がせっかく来たんですから!」


桃園はチョップされた箇所をでかい背を丸めつつ撫で、不貞腐れた様に唇を尖らせる


「監督ねぇ~あんな無精ひげのおっさんが教えられんスか~?

日向先輩がいうにはすごい人、らしいんスけど。全然みえねぇっす」


「でも日向先輩があんなに上手くなったのってあの監督のおかげなんですよ!確かに・・・無精ひげにぼさぼさした怪しい感じですが・・・」


ごろーちゃん、いや鬼塚脇先生めっちゃ怪しまれてる…。

私はむふふと笑いながら先生の方をちらりと伺う。


鬼塚脇おにつかわき 語郎ごろうはれっきとしたこの学校の先生だ。

無精ひげにやる気のない目咥えタバコぼさぼさの髪の毛だと怪しい人と疑われても仕方ないが。

でもヒゲ剃ると切れ長の目のイケメンが飛び出てくる。いや、今もおじさん萌えの人にはかっこよく見えると思うけど。


今までおじいちゃんの先生が顧問だったが、昔甲子園にいったことを日向くんがつきとめてゴローちゃんが顧問になることに。



そう、物語が始まってしまったのだ。



「すっげーやつ、みつけた!」

そういった日向くんは尻尾があればブンブンふっていただろう。

まんま漫画通りの表情で私たちに語る。



季節はずれの転校生がすごいピッチングをしているところを発見したらしく

日向くんお得意のワンコ並のしつこさでちょっとだけボールを投げてもらうことに。

全然手も足もでないことに日向くんは感激して勧誘するが俺の球が打てたらなと馬鹿にされた。


だがそこでめげないのが日向くんクオリティー!


悔しいと練習後自主練習をつづけていた日向くんのもとにゴローちゃんがタバコを片手に指導してくれた。

今までちょっとしたことのせいで上手くいかなかったのが直って一気に良くなっている。


そして今日、日向くんをけちょんけちょんにした転校生、蒼天一輝そうてん いっきと改めて対決をすることに。


蒼天くんが対決する気にさせたのは兄のゴローちゃんのせいだ。

ゴローちゃんと蒼天くんは腹違いの兄弟。

蒼天くんは父親からなにをやっても優秀だったゴローちゃんと比べられて育てられている。

いつもはクールなやつだけれど兄の言葉には度々頭に血がのぼる描写があった。



「先輩どうしたんスかぁ?」


間の抜けた桃園くんの言葉で思い返すのをやめて、にっこりと笑う。


「ん~?いやぁ今日の対決、楽しみだなぁ~って!」


「日向先輩が負けるわけないっすよ~!」


「そだね!」


私はそのまま空を見上げて、少し湿気ってきた空気に顔を歪める。

落ち着かせるために大きく息を吸って、大きく息を吐いた。






対決の途中から雨が降ってきた。

漫画を読んでいて知っていた私は折りたたみ傘を持ってきていたがみんなズブ濡れだ。

一人で傘を使うのも忍びなく、そのまま傘をそっとカバンの中にしまう。


濃い青色の短めの髪、きりっとした一重の切れ長の目に眉。

全体的にシュッとしたイメージだったけれど思ったより体ががっちりとして男性的だ。

顔のパーツのバランスがとてもよく、なるほど公式イケメンと納得せざるおえない。

だけれどイケメンすぎて正直私には近づきがたい、それが蒼天くんの実際見てみての印象だった。


そんな蒼天くんはその綺麗な顔をエロく、いや、忌々しそうに歪ませて日向くんを睨んでいる。


マウンドには蒼天くん、バッターボックスには日向くん。

ちなみにキャッチャーズボックスはうち唯一のキャッチャー、クロクロ。



「お前はまだ野球をしたいはずだ!

じゃなきゃ、こんな熱い球を投げれるはずがないっ!」


日向くんが蒼天くんに向かって大声で訴え掛ける。


蒼天くんは唇を噛み締めやり場のない力をボールに込めて放つ。

その球は学生とは思えない速さだったけれど、日向くんはそれを


「日向くんっ!」


マネージャーの桜ちゃんが驚きで名前を呼ぶ。

日向くんが返したボールはどんどん遠くに、長く長く力強く伸びていく。

まるでボールが雲を裂いていくように晴れが広がる。

奇跡のような光景に目を細め、ぼんやりとみつめた。


「悔しい、」


蒼天くんは潤んだ瞳を隠すように呟いた。

乱暴に涙を拭うと日向くんに助けを乞うように叫んだ。


「そうだ、お前の言うとおり俺は野球が好きだ!

だけれどっどんどん野球は兄貴を超えるための道具になってたっ!」


ゴローちゃんが辛そうに蒼天くんを見つめる。

この兄、実は弟のことが可愛くてしょうがないのだ。

よかったね、ゴローちゃんこれから弟がどんどんデレてくよ! と心の声で励ます。


「それが辛くて、忘れたくて、なのに、お前が…」


蒼天くんは目元を赤くしてニッと困ったように照れたように笑う。


「…野球、したくなるじゃん」


日向くんも花が咲いたように笑顔になる。

彼のまっすぐな言葉は蒼天くんに届いたようだ。


周りも素直になった蒼天くんにほっと一安心している。


「よかった…」


桜ちゃんは日向くんを見つめたまま隣にいた私の手をぎゅっと握った。


「・・・うん」


私としてはこれからのことを知っているので思わず変な顔になってしまう。


「なんだ長月、ずいぶん不満そうな顔してるな」


変な汗が出た。

内心を悟られるような気がして、慌てて顔を戻す。


「!ゴローちゃん、」


「ご、ゴローちゃんいうな!」


ゴローちゃんが照れたような焦った声を出して怒ってきた。

私は口を尖らせる。


「鬼塚脇先生っていいにくい…」


ムスッとゴローちゃんが反論してきたので、内心かかったな!バカが!と笑う。

こうして話をそらし私はゴローちゃんと(一方的に)楽しくお話する。


「蒼天!これからよろしくな!!」


馬鹿でかい日向くんの声が聞こえた。

ゴローちゃんも私も蒼天くんと日向くんが拳をぶつけ合うところ微笑ましく眺めた。



原作ははじまったばかりだ。

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