一話
主人公にははがゆい思いをしてもらいたいです。
わーい!トリップなるものを果たした!
25歳だった私も若返って15歳!わー制服なんて久しぶりに着るなぁ~!!
布団から起き上がり、乱雑に置かれたものを足で蹴飛ばして制服を手に取る。
「これで、私は・・・」
独り言でふふふ、と声をあげる私は変質者のようなので、言葉を途中できる。
「原作の1年前ってところかぁ~・・・」
そしてその言葉を呟くと自然ににっこりと笑みが浮かんだ。
うきうきとしながら制服を身につけ部屋を出るとリビングへと向かう。
台所では記憶より若い母親が朝ごはんを作っていた。
目を細め新鮮な気持ちでそれをみつつ、適当にテーブルの席につく。
「・・・どうしたの、霖?制服なんてきちゃって」
いつもは朝食後に服を着替えるので訝しげに母親が聞いてきた。
確かに、気が早いように見えるだろう。少し先走ってしまったようだ。
だけれど皆さん考えても見てくれ、異世界トリップですよ、異世界トリップ!
しかも私が好きだった少年漫画の世界!!
ふおおおおおお!!!私は野球部の部室の門を叩くぞ!!絶対、絶対だ!
妄想を膨らませてニヤニヤと自然と口が上に上がる。
「ふ、ふはははははは!!!!!!生きる気力がわいてきたああああああ!!!!!」
生き生きと目が輝く。そして母親が引き気味に私をみている。
じりじりと近づくと母親が本当に心配そうな顔で『学校は休んでもいいのよ?病院にいく?』と問われる。
いやに優しい声に、にっこりと笑う。
否定の言葉を口にすると私はカバンをもって足早に学校へ向かった。
ああ!時がくるのが、待ち遠しくて仕方がない!
この世界は少年漫画の世界だ。
野球好きの主人公は弱小野球部の主将で野球の腕もぱっとしない平凡な高校二年生。
けれど新しく入ってくる顧問と仲間のおかげでどんどん才能が伸びていく。
そんな弱小野球部が結果的に甲子園まで出場しちゃうという王道もの。
少年漫画にありがちな大げさな必殺技があったりイケメンがいっぱい出ていたりマネージャーが可愛かったり設定がちょっと大げさだったり『友情 努力 勝利』がメインな作品だ。
私は勿論全巻持っていて可愛い少年達の友情を不純な、まりもっこりの様な目で見守っていた。
「早く来ないかな~・・・」
転校生と監督、とのほほんと部室でお茶を飲みながら呟く。
トリップしてから1年も経った。
意外に1年で私は落ち着きをとりもどした。
もっとバイオレンスでセクシーでダークな展開を期待していましたが、なんとか健全だったこの1年。
今はもう自然体でみんなと話せるようになったけど。なんか毎日顔合わせてるとなんか慣れるもんだね。
最初主将の日向くんと初対面だった時鼻血を出して大騒ぎだった。
中々止まらなくてみんながグランドの隅で練習してるのを見ながら、ティッシュで鼻抑えて氷嚢で冷やしてた。
そこらへんからもうみんなが私を女としてみなくなったのもなんとなく分かる。
「霖ちゃん、どうしたの?」
同じマネージャーの桜ちゃんが声をかけてくる。
私はお茶をポンッと机に置くとすっとぼけた顔で疑問系の返答をする。
「どうしたのって?」
「ううん、なんか元気ないから」
桜ちゃんは私と同じ高校二年生でクラスメイトで、同じ野球部のマネージャーだ。
黒髪を肩まで伸ばした真面目そうな清楚で明るくて正統派ヒロイン。もちろん美少女。
「えへ、えへへ~」
私はにっこり笑うと一生懸命に桜ちゃんの頭を撫で
そのまましっかりはっきり胸を触った。
「も、もう!霖ちゃんったら!」
「ぐへへへ~!油断したなぁ~!ふ、ふひひ…」
美少女の芽吹きつつある胸はなんと甘美なことか…本当にこの世界来てよかった…。
手で胸をしっかり押さえる桜ちゃんをデレッとした顔で眺めていると、部室のドアが開いた。
赤銅色の髪の毛をピョンピョンと短くはねさせ、ほんのり焼けた肌は健康的。
爽やかでにこっとした笑顔がとてもかわいい、けれど身長は180cmという結構でかめなうちのワンコ・・・主将、日向塁だった。
「お、今日2人とも早いな!」
「授業早く終わったの」
「そうか!!よーし!今日も練習するぞおおお!!!」
「じゃあみんながそろそろくるだろうし、準備しようか」
うん、と頷く前にまた騒がしくドアが開かれた。
ドカドカと入ってくる足音に私は視線を向ける、もう誰がいるかは分かっている。
細い目をこれでもかと睨ませた人相の悪い金髪坊主。
お世辞にもイケメンとはいえない三枚目なうちのキャッチャーの黒崎拳次
「クロクロ・・・あんたもうちょっとドアくらい静かに開けなさいって・・・」
「あぁ?いいだろどうせ部室だしよ」
そういってスポーツバックを乱雑において、ジロッとこっちを見てくる。
目つきが鋭いので最初は軽く睨まれただけでもびびったけど今ではむしろ可愛く思える。
そんなこと考えながら私も負けずに睨み返すと横から声が聞こえてきた。
「それにしても、一年おせーな」
もさもさした黒髪に二重だけどくりくりしてない目、中肉中背でモブっぽい山田太一
特徴がないのが特徴。最近では本人も最近開き直って自嘲気味にいっている。
・・・いや、あんたに特徴がないわけじゃないんだ…ただ周りが濃すぎるだけなんだ。
「多分…どの委員会…入るか…きめてる…」
ボソボソと話すつり上がった目に柔らかそうな銀髪にシンプルなニット帽、小さめで華奢な体の少年は猫神亮
小学生か!つっこみたくなる見た目だが同じ高校2年生。
「それめっちゃ遅れそうだね~」
私が相槌を打つと猫神がこくんっとうなづく。
「やっと人数増えたっていうのに・・・」
日向くんがうなだれ、私はいたわるように背中をぽんぽんと叩いた。
そう、一年が入るまではこの部活先輩がいなかった。
いや、正確にはいたのだが二年の先輩がいなかったのですぐに引退してしまった。
なので今まで試合は他の部活の人やらを黒崎が脅し…いやお願いしてなんとか出れていたが
この間めでたく5人入りメンバーが9人になりました!(マネージャーは含まない)
ぼんやり原作に近づいてきたな、と考えた。
これから季節はずれの転校生にその兄の先生が監督になる。
転校生はあることがきっかけで野球をやめ、兄はそんな弟をどうにかしたいと思っている。
王道テンプレもれずその転校生はすごい実力あるピッチャー。兄は昔伝説と言われた高校球児。
なんだかんだでこの1年原作の時間軸ではなかったからゲームの世界って実感なくなっていたが
はじまったらはじまったらで違和感を感じそうだとは思う。
ため息をついて日向くんに添えていた手をぎゅっと握った。
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「また霖が日向触って呼吸荒くなってるぞ!!」
「引き離せ!押さえつけろ!」
「ええ~い!かわゆい日向くんを触らせろ~!!!」
「いや~!霖は今日も元気だな!」
「日向はもっと自分に危機感を持てぇ!」
前に二次創作で作った話をちょっと変えて作ってみました。読み終わったあと最初の一話の印象が変わるよう作っていけたらと思います。