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天使と悪魔の鎮魂歌<レクイエム>  作者: ヤマト
第1部 悪魔祓人<エクソノイド>編
4/4

第4話 見えた希望

ところどころ話に矛盾点とかあるかもですが、そこらへんは目を瞑っていただけるとさいわいです。

 自分は誰かに操られているのかもしれない。

 天馬はそう思った。

 体が勝手に動くとかじゃなく、頭の中に声が響くと同時に感情が芽生えてしまって、従ってしまう。

 「助けろ」やら「倒せ」やら。

 その声が頭に響くと、なぜか誰かに親切したくなったりなぜか誰かに怒りをおぼえたりして、それに従ってしまう。しかもそれを嫌だとは思わない。ただ当たり前のことだと思い、声と感情に従い動く。

 そして今、天馬の頭に響いた声は。

「目の前の奴を、倒す」

 そう呟き、目の前にいるネビロスとかいう奴らに向かって走り始める。

 ネビロスというのは悪魔を殺すためだけに造られた部隊だと、目の前にいるネビロスと名乗る5人の人間の30代半にみえる先頭の男が言っていた。

 さらに天馬は先頭の男にこう言われた。

 お前のような悪魔、と。

 最初そんな事を言われたときは信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。

 なぜなら天馬が、目を覚ましたときは暗かったが今は天井のランプが強く赤く点滅していて明るく、横に長いこの場所から目を覚ましたときになにか違和感を感じたのだ。

 言葉では説明しずらい、何か。だがその違和感の正体はすぐにわかった。

 天馬の腕に、とてつもない腕力がついていたから。

 それが悪魔の力だとしたら、納得がいく。

 しかしその力で他の台に眠っている人達を助け、ここから逃げようとしている。

 だが、その前にネビロスが立ちはだかり、「ここから逃げることは許されない。もし逃げようとするなら、容赦なく殺す」と先頭の男に言われてしまった。

 天馬はその言葉に、どうやってここから逃げ出せばいいのか考えた。

 考えて考えて考えてそれでも思いつかないところで、先頭の男に悪魔だと言われてなにもする気力がなくなってしまった。

 が、その絶望の感情を消しさって別の感情が芽生えた。声が響くと同時に。

 それが今の、「目の前の武装した男達を倒せ」という声だった。

 その声が聞こえたと同時に絶望の感情が、怒りの感情に変化してしまったのだ。

 だから目の前のネビロスを倒すために、天馬はネビロスに向かって走っていく。

 しかもかなり速い。完全に普通の人間の動きではなかった。

 自分のその動きに天馬は思ってしまった。

(やっぱり俺、悪魔なのかな)

 そんな事を思うが、それでも前へ走り続ける。

 その天馬の動きに、いち早く先頭の男が反応する。後ろにいる4人の部下に向かって叫ぶ。

「お前ら、来るぞ!」

 先頭の男の声に部下の4人も反応する。

「い、井村さん、どうするんですか?」

 部下に問いかけられるが、井村は天馬の動きの速さに反応するのでやっとだった。だから少し早口で言う。

「殺す!」

「でも、上からは捕縛しろと」

「そんなこと言ってる場合か! 前を見ろ! 殺されるぞ!」

 しかしもう天馬は井村達のすぐ目の前まで来ていて、拳を握り、井村の顔面へと向けて放ってきていた。

 だがその拳を、井村は地面を横に転がって避ける。

 それからすぐに部下に向かって命じる。

「撃てぇ!」

 そう言い、マシンガンを天馬に向け、引き金に手をかける。さらに部下の4人も井村が声を発そうとした瞬間から、一歩後ろに下がり手に持っていたマシンガンを天馬に向けて、引き金を引く寸前だった。

 そして井村の言葉が終わると同時に、その引き金は一斉に引かれた。

「やばっ」

 天馬はその銃撃に反応することができず、もろに八方から攻撃をくらう。

「ぐあぁぁぁぁ!」

 ものすごい銃声がこの空間に10秒ぐらい鳴り響いた。

 その、天馬が武装した男達にマシンガンで撃たれまくっている姿を見て、ネビロスに腹を殴られ、そのすぐ下でうずくまっている人達は頭を抱え叫びながらその場から離れていく。

 そこから少し離れたところから見ていた、天馬が最初に助けた茶髪のショートカットの女の子は悲鳴を上げていた。

 そして銃声がやむ。

 天馬はというと。

「ぐっ・・・・・・。あ、あれ? 撃たれたはず、なのに・・・・・・」

 なんと銃弾が体にあたっただけで、体の中までは入り込んでいなかった。しかしそれでも痛みはあった。何発も体中に撃たれたので、そこそこ痛みはあった。だが、それだけだ。

「なっ・・・・・・」

 井村はその光景を見てそれだけしか言えなかった。

 弾が天馬の体を突き破らなかったことに驚いたわけではない。

 対悪魔用に特殊な術式を編みこんで造られた弾丸のはずなのに、それがまったく通用しないことに驚いていたのだ。

 今まではそれだけで暴走した奴らは片付けてきた。

 その術式というのが、悪魔の精神を、器になった人間の体から引き離すというものだった。

 悪魔は精神だけじゃ、この人間の世界にはいられない。

 だからこの弾丸を撃てば、これまでと同じように天馬の体にいる悪魔は倒せるはずだった。

 しかしそれが効かないということは。

「悪魔以外の何かがこいつに取りついているというのか?」

 井村はそんなことを天馬に向かってにらみながら言う。

 すると天馬も井村のほうを見ていて、そして言った。

「そんなの俺が知ったこっちゃないよ。あんた達が俺の体をおかしくしたんでしょ? けど、今はそんなことはどうでもいいや。とりあえずあんた達を倒してここから逃げる!」

 だが本当は、そんなこと今はどうでもよくなかった。しかし、そんなことを考えようとすると、また「倒せ」という感情が邪魔するのだ。だから。

 天馬は再び井村に向かって走り始める。脚力も強化されているおかげで、すぐに井村の目の前にたどり着く。それと同時に拳を再び握り、井村に向かって放つ。

 その尋常じゃない速さに、井村は反応できなかった。持っていたマシンガンを前に突き出すだけで精一杯だった。

 井村の持っていたマシンガンが天馬の拳によって破壊される。さらに天馬はそのまま井村の腹に拳をたたきこんだ。

「がぁっ」

 井村はそのまま吹っ飛ばされるが、すぐに体勢を立て直して部下に命じる。

「1人は脱走者の捕縛! 残りは俺の援護に付け!」

「了解!」

 部下の4人が一斉に返事をする。そして1人は扉の前でうずくまっている脱走者たちの捕縛へ。残りの3人は井村と向き合っている天馬の背後に立つ。

 井村は腰に装備されているナイフを一本取り出し、天馬の背後に立っている3人の部下へと命じる。

「奴には弾の効果は効かないが、ダメージを与えることならできる。お前らは俺が奴とやりあってる間に隙を見て奴を攻撃してひるませろ!」

 言葉を言い終えると同時に、井村は天馬に向かって走っていった。天馬ほどではないが、かなりの速さだ。

 天馬も井村に向かって走っていく。

 井村が持っていたナイフを天馬の左胸、心臓がある場所に突き刺そうとする。

 だが、天馬には井村の動きがが遅く感じられた。

「なんか、腕の力だけじゃなくて他のところもおかしくなっちゃてるみたいだなぁ」

 言いながら、心臓にナイフを突き刺す寸前の井村の手首をつかむ。

 そして何も言わず、つかんでいた井村の手首に力をいれる。

 するとあっさり骨が、折れるのではなくこなごなに砕けた。

 井村は手に持っていたナイフを落とす。

 が、落とされたナイフ左手でをつかみ、天馬の腹部に突き刺そうとする。

 完全に捕らえた。と、そう思った井村だったが、ナイフが腹部にあと数ミリのところで天馬の姿が消えた。

「なっ」

 勢いあまって、天馬の背後に控えていた部下のところまで行く。

 部下が心配した顔で井村に駆け寄って行きながら、守るようにして彼を囲む。

「大丈夫ですか? 井村さん」

「心配ない。それより奴はどこ行った?」

「それが、突然消えてしまっ」

 しかしそこで、何者かの声が井村の部下の声を遮る。しかもその声からは笑みが感じられた。

「こっちだ!」

 天馬の声だった。それに部下が後ろを振り返ろうとするが、振り返る前に天馬に首に手刀を放たれ、その場に倒れる。

 さらに天馬は井村を囲む部下の1人の腹に拳を叩き込む。そのままもう1人の部下のほうへと、拳を叩き込んだ部下を投げつけ、吹っ飛ばす。

 一瞬のできごとだった。

 天馬の声が響いたとたん、井村の部下が吹っ飛ばされる。

 井村はすぐさまその場から離れ、周囲を見た。

 天馬の手刀をくらった部下は倒れ、後の2人も一緒に吹っ飛ばされて倒れている。

「くそ。なんなんだこいつは」

 そんな事を井村が呟くと、天馬が答えてきた。

「それはこっちの台詞なんだけどなぁ。ホントに俺の体に何したの? もう俺完全に人間じゃないよね?」

 その言葉に、井村はぜぇぜぇと息を吐きながら答える。

「お前の体に何したかなんて、そこに倒れてる悪魔祓い(エクソシスト)どもに()け」

 そう言って、フードの男達へと指を向ける。

 天馬は指を差されたフードの男達の方を見る。

 フードの男達は天馬に実験をした後、なぜか倒れていたのだ。天馬が再び目を覚ましたときにはもう、天馬が寝かされていた台よりはだいぶ離れた位置で倒れていた。

 それを天馬は誰かが倒してくれたんだと思った。フードの男達を倒して、拘束具を破壊してくれた。と、そう思ったのだ。

 そこで天馬はフードの男達から目を離し、再び井村の方を見てから言った。

「じゃ、そうしよっかな。でもその前にあんたを倒させてもらうけど」

「やれるものならな」

「やれるよ。さっきまでの戦いでわかったでしょ? 俺、あんたらのせいでめちゃくちゃ強くなってるよ?」

 そう言って天馬はまた井村に向かって走り出す。一瞬で井村の目の前に行き、拳を突き出す。

 しかしそれを井村に左手で弾かれてしまう。

「えっ」

 簡単に攻撃を防がれてしまって驚きを隠せない天馬に、今度は井村の残っている左の拳が突き出される。

「お前の攻撃は単調すぎるんだよ」

 その拳はやはり速い。それでも今の天馬なら簡単に避けることはできるだろうが、自分の攻撃があっさり防がれてしまったことに天馬は少し驚いている。そのせいで反応が遅れてしまい、井村の拳を腹に受けてしまう。

「ぐっ」

 ドンッと、かなり鈍い音が響いた。かなり手ごたえがあったようで、井村は微笑を浮かべる。

 天馬はその攻撃に、前に倒れこんでくる。

 しかし、倒れなかった。

 天馬は倒れこむようにして、井村の腹部まで顔を近づける。そのまま足を踏み込んで井村の腹に頭突きを放った。

 井村がその行動に気づいた時にはもう、天馬の頭突きが腹に直撃したあとだった。

 井村が腹をおさえ、数歩後ずさる。その隙を狙って天馬は、井村の腹にもう一度攻撃をする。拳を強く握り、一気に突き出す。全力で、今自分がだせる最大の力を拳に込めて。

 その拳は、腹をおさえていた井村の左手の骨を砕き、腹に叩きこまれた。

 井村は言葉を発する間もなく、ものすごい勢いで吹き飛ばされる。そのまま壁に体を強く打つつけてしまい、体の骨が数箇所折れてしまう。

「はぁはぁ」

 天馬は数秒、息を整えながら井村を見つめた。もう動けなくなってしまったのを確認したところで。

「あぶない!」

 後ろから声があがる。女の声。一番最初に天馬が助けた人物だった。その子の声に反応して、天馬は後ろを振り向く。すると、すぐ目の前にさっきまで脱走者の捕縛をしていた井村の部下が迫ってきていた。その部下はナイフ一本を両手で持って突っ込んできている。

「ぐっ」

 その攻撃を天馬は体をそらしてギリギリのところで避ける。そのまま天馬はその井村の部下の首に手刀を放つ。

 ドスッと、鈍い音が鳴り、その部下は地面に倒れ伏した。

「これで、全員」

 息を整えながらポツリと呟く。

 これでここに入ってきたネビロスとかいう連中は全員倒した。だがまだ安心はできない。いつまたここにネビロスが来るかわからないから。天馬がここでネビロスの連中を倒したとなると、すぐに新たな部隊が送られてこないとはかぎらない。

 だから一刻も早く、他の人達も助ける必要がある。

 しかし、まだ天馬は10人しか助けられていない。それに生きている可能性がある人達の台はあと200個はあると、奥を見てきた男がいっていた。

 と、そんな事を考えていると、さっき天馬に後ろから「あぶない!」と言ってくれた茶髪の少女が声をかけてきた。その少女は手と足を拘束されていた。いや、少女だけじゃない。天馬に拘束具を壊してもらって、ここから逃げ出そうとしていた人達も同じように、再び拘束されている。

 さっきまでネビロスのやつに捕まってしまっていたのだ。

「あ、あの大丈夫ですか?」

 そう言ってきた少女に、天馬はぜぇぜぇと息を吐きながらも駆け寄よっていってから微笑んで答える。

「うん大丈夫。さっきはありがと」

「いえ、少しでも役に立ててよかったです」

「でもこれからどうしよう。たぶんまたすぐにさっきの奴らがここに来るかもだし。かといって残ってる人達を置いていくわけには行かないし」

 天馬は捕まった人達の拘束具を壊しながら、頭を抱える。

 またネビロスのやつらが来る前に、残りの200人ほどの人を助けるのは、おそらく不可能だ。

 ここに異常があったことを知ってネビロスを送り込んできたのなら、ここは監視されてるはずだ。それに、最初に送り込んだやつらが倒されたとなるとさらに多くの部隊を送り込んでくるだろう。そうなるともう手に負えないかもしれない。さっきの戦闘ではそれなりに圧倒していたが、無傷ではない。もし次に送り込まれてくるのが10人や20人となると、今度こそ完全に終わりだ。助け出した人達はまた拘束され、天馬はもっとひどい事をされるだろう。

「どうすれば……」

 そこでさっきネビロスに捕まった人達の拘束具を破壊し終える。

 すると1人の男が天馬に言ってきた。ここの奥を見てきて台が200個はあると確認してきたり、一番最初にここから脱出しようとしてネビロスのやつに吹っ飛ばされた男だ。

「おい、兄ちゃん。俺達を助けてくれたことには感謝する。だがな、俺は意見を変えるつもりはない。今すぐにでもこっから出させてもらう。いつまた妙な連中に来られるかわかんねぇからな」

 それだけ言って立ち上がり、扉を目指して歩き始める。

 それに天馬はなにか言おうとするが、なにも思いつかない。なんと言って彼を引き止めればいいのかわからないのだ。いや、引き止めたところでここから逃がしてやれる力はないし、ここにずっと居たってまたネビロスのやつらに狙われるだけだ。ならいっそ助けられた人達だけで逃げたほうがいいんじゃないか? しかしそれはできなかった。おそらく捕まった人全員を助けられるまで天馬は止まらない。頭の中に声が響くから。

 「助けろ」

 と。その声には逆らえなかった。そうじゃなくてもなぜか逆らう気にはなれなかった。

 だから。

「皆…助けないと…」

 いろいろ考えたがその考えなんかどうでもよくなってしまうほどに、頭に響く声にはなにか不思議な説得力があった。だからそれに従い、再び、捕まっている人達のところへ歩を進める。

 なにもいい案は思いつかないが、それでも捕まった人達を助けなければならないから、天馬は前へ進む。進みながらも考えを巡らせるがやはりいい案は思いつかない。

 天馬は考えるのをやめ、捕まった人を助けることに専念することにした。

 が、その時、さっきまでの「助けろ」という声ではなく、別の声が天馬の頭に響く。

「おい…」

 そんな、今にも消えてしましそうなほどか細い声が頭に……いや、これは頭に響いてきているんじゃない。直接聞こえる声だ。しかも聞いたことのあるような…

「ネビロスの…」

 そう。その声はさっきの戦闘で倒したネビロスのリーダー格の男の声だった。

「どうかした?」

 茶髪の女の子が、いつのまにか歩くのを止めていた天馬を不思議に思い話かけてきたが、振り向かずに答える。

「今、声が。さっきのやつだ」

「声? そんなの聞こえな…」

 が、女の子の言葉を聞かずに、声がする方へと走り出してしまう。

 おそらく、普通の人間じゃあんなか細い声は聞こえないだろう。さっきからずっとサイレンも鳴り続けているのだ。しかし天馬は違う。もう体のありとあらゆるところが人間とはかけ離れていた。だから声が聞こえたのだ。五感も異常なほど鋭くなっている。

 声が聞こえたところで足を止める。やはり声の主はネビロスのリーダー格の井村とかいう男だったようで、しかもまだ意識はあるらしく壁に背中を預け天馬を見上げていた。

「よぉ…」

 やはりか細い。声を絞り出すのがやっとなのだろう。天馬に体の骨をいくつも折られたのだから当然だ。まともに体を動かすこともままならない。そんな体で井村は天馬に言う。

「まさかガキ一人にここまでされるとわな。もう笑うしかねぇな」

 井村は笑みを浮かべながらそう言ったが。天馬にはそんなことどうでもよかった。はやくここから全員を助け出して脱出しなければならないのだ。こんなとこで無駄に時間を使いたくない。だから天馬は井村に訊く。

「そんなことはいいから。なにが言いたいのか教えてよ。あんた体動かすのやっとのはずなのに、俺を呼んだのはなにか理由があるんじゃないの?」

 その言葉でさっきまでの井村の笑みが消え、今までよりもさらに小さい声で言った。

「お前…ここから逃げたいのか?」

「当たり前でょ」

「捕まってる奴ら、全員助けたいか?」

 天馬はその問いにはうなずくだけで答える。

「じゃあ、こっちの連中のことどう思う? 俺も含めてだ」

 その質問に天馬は、拳を握り、歯を噛み締めて言った。

「許せないよ……こんなの人間のやるようなことじゃない……人のことを悪魔だなんだ言ってるけど、悪魔なのは、悪魔なのはあんた達じゃないか!」

 思わず声を張り上げてしまった。さっきの戦闘で井村をかなり痛めつけたが、まだ足りないとばかりに拳を握っている。手から血が流れるほどに。

 それを見て井村はまた笑みを浮かべて言う。

「まったくだ」

 それだけ言って黙る。天馬も、高ぶる気持ちを抑えるために静かに呼吸をして気持ちを落ち着かせていたので、黙っている。

 数十秒の沈黙が続くが、それを天馬が破って言った。

「それで、なにが言いたいの? 俺には時間がないんだ。また来るんでしょ? さっきの奴らが」

「後10分もしない内に来るだろうな」

「10分!?、そんな……」

 10分も時間がない。それでここに捕まった人達を全員助けられるだろうか?

 当然無理だ。だから天馬はすぐに脳を働かせた。

 しかし。

「ダメだ……何も思いつかない」

 天馬はその場で、井村の前で膝をついてしまう。

 その姿に井村は言った。

「そうだな、時間がない。俺もそろそろ喋るのがきつくなってきた。だから俺の言いたい事もさっさと言う。よく聞け」

 しかし天馬は答えない。聞いているのか聞いていないのかわからないが、ホントに時間がないので井村は話を続ける。

「お前に、ここから全員を救い出す方法を教えてやる」

 その言葉に、天馬は目を見開き、そして訊く。

「で……できるの?」

「だがタダでそれを教えることはできない。俺の言う条件をのんでくれたら教えてやる」

「条件?」

「ああ。お前、ここに捕まってる人達を皆救いたいんだろ? なら俺の、ここに捕まってる俺の娘も助けてやってほしい」

「娘?」

 天馬が訊くと、井村の表情が歪んだ。

「ああ。俺は娘を人質にされてここに連れて来られたんだ。仕事から帰ってきたら家にネビロスの奴らが居て娘を人質に、妻は……殺されて……いやすまない。そんな話をしている暇はなかったな。で、どうなんだ? 俺の頼み、引き受けてくれるのか?」

 その問いに、天馬は確信した。

 ネビロスの連中は人間の皮をかぶった悪魔なのだと。本物の悪魔ではないかもしれない。しかし、あまりにもやり方が卑劣(ひれつ)すぎる。

 もうそんな奴らを人間として見れる気がしなかった。

 だから天馬に迷いはない。

 立ち上がって、井村の問いに答える。

「わかった。娘さんは助ける。だから、早くここからみんなを救い出す方法を教えて」

 その答えに安心したのか、井村はほっとため息を漏らす。

 が、まだ天馬の言葉には続きがあるようで、とんでもないことを口にした。

「それでもって、あなたも助ける。いや、あなたと同じ目にあってる人もここには大勢いるはずだよ。だからその人たちも助けてみせる」

 それに井村は思わず吹いてしまう。

「ははっ、お前、さっきの戦闘で頭でも打ったか?」

 井村は笑っているが、天馬の顔は真剣だった。

「冗談なんかじゃない。あなたは罪を(つぐな)う必要があると思う。だから、娘さんと一緒にここから逃げよう」

 しかし井村はその言葉を無視して、胸のポケットに手を入れる。腕の骨も数箇所折れているため腕を動かすときに顔を歪める。そこから手のひらサイズの端末を取り出し操作する。それを天馬に渡した。

「このビルの地図だ」

「ここビルなの?」

「ああ。しかし今はどうでもいい。肝心の脱出方法だが」

 井村はそこで一度言葉を止め、自分達が入ってきた扉のほうを指差してから言葉を続けた。

「このビルにある部屋の入り口には、扉のロックを解除したりするためのパスワードを打つ機械が壁に埋め込まれている。そこに、俺が今から言うパスワードを打てばいい」

「え、そ、それだけ?」

 パスワードを打つだけでどうやってみんなを救い出すんだ? と思うが考える時間を与えず、井村は言ってくる。

「まずは、『NBLS』と入力しろ。それでここに捕まってる連中の拘束具が外れる。次に『IMURA』だ。このパスワードでこの部屋の人間は全員俺が指定した場所へとワープする。場所はさっき渡した端末に記録してある。安心しろ、ネビロスの連中でも近づけないような安全な場所にしてある。後、ワープのパスワードを打ったらすぐに扉から離れてくれ。お前も一緒にワープしちまう」

「ワ、ワープ? ……ってゆうかここからワープできるんならいちいち拘束具を壊さなくてもいいんじゃ……」

「ダメだ。あの拘束具は動きを封じるためだけにあるんじゃない。あらゆる魔術の干渉を……あー、今はそんなことはいい。とりあえず言うとおりにしてくれ」

「……」

「ん、どうした?」

「いや、あの、えーと」

 言葉を詰まらせる天馬だが、井村には彼の言いたい事が大体わかってしまった。

「ああ、まぁ確かに一気にこれだけ言われると理解に苦しむな。お前が気になっていることはワープの事か? 信じられないと……いや、今のお前なら信じられるだろう? ……頼む」

 それでもまだ少し信じがたい事だと天馬は思うが、時間がないので言うとおりにする。

 天馬はうなずき、扉へと向かった。

 と、そこで井村が「おい」と言って天馬を引きとめ、言ってくる。

「最後に1つだけ言っておく。さっきお前の体の中に悪魔がいると言ったが、俺達の武器が通用しないところを見るとお前の中にいるのは悪魔じゃないのかもしれないな」

「悪魔じゃ……ない?」

「俺達の使う武器は全て対悪魔用に改造されているんだ。その武器が通用しないなら悪魔の可能性は0に等しい。だが、悪魔じゃないとすると……」

 井村はそこで言葉を止める。

 彼は悪魔以外の化け物と戦ったことがないため、なんと言ったほうが適切なのかわからなかったのだ。

 そこで少し、しくじったなと思う。

 これじゃ目の前に居る彼の不安を(あお)るだけじゃないかと、そう思ってしまう。

 なんと言っていいのか悩んでいると、先に天馬が口を開いた。

「ああ、ええと今はそんなことより皆を助ける事に専念するよ。自分になにが起こったのかが気にならないといったら嘘になるけど、でも今は皆を助けないと」

「……なぜお前は、他人の事でそんな必死になれる?」

 その質問に天馬は笑って、それでいてどこか悲しそうな顔で答えた。

「自分でもよくわかんないけど物心ついたときにはもう、困ってる人見ると放っておけなかったんだよねぇ」

「そうか……」

 井村はそれだけしか言わなかった。いや、言えなかった。

 天馬の、なぜか悲しそうな顔を見た途端、それだけしか言葉が思いつかなかった。

 なぜ、そんなに悲しい顔をするのか。

 疑問が1つ増えたと井村はため息をつく。

 ため息をつき、改めて言った。

「頼む。娘を、助けてやってくれ」

 天馬はこくりとうなづき、再び扉へと向かって行く。

 ここはかなり暗いが、天馬にはよく見えた。

「これも、このわけわかんない力のせいなんだよなぁ、きっと」

 扉には30秒ほどでついた。

 その扉の周囲を確認すると、井村の言っていた通りパスワードを打ち込む機会がある。

「これか」

 天馬はその機会にパスワードを打ち込み始める。

「えーと、まずは「NBLS」……か。ん? これ、ネビロスって文字の頭文字を取っただけじゃないの?」

 と、1人呟いてみるが周囲にはだれもいな……。

「ちょっと、適当ですよね~?」

 そう答えてくれたのは、茶髪のショートカットの女の子だ。

「うわっ、ビックリした~」

 天馬は思わずパスワードの4文字目を打ち間違えてしまう。

 機会からビーッという音が鳴り、今まで打ったアルファベットが全て消えてしまう。どうやら1度間違えるとまた最初からやり直さなければいけないらしい。

 それからパスワードを打ち込み直しながら、女の子に言う。

「あ、ちょっと頼みたいことあるんだけどいいかな?」

「ワープ……の事ですか?」

「えっ? さっきの話聞いてたの?」

 すると女の子は頬を少し脹らませて言った。

「居ましたよー、途中からですけど。いきなり走ってっちゃうから気になったんです」

「そ、そうなんだ」

 と、そこでパスワードを打ち終える。

 すると、いくつものガシャンと言う音がなる。

 おそらく、全ての拘束具が一斉に外れた音なのだろう。

 それを確認するために台がある方と走る。女の子も一緒になって走ってくる。

「それで、私に頼みって」

「ああ、その事なんだけど。他のみんなにこの事を伝えてくれないかな? ここから逃げられるって事を。それと、ここからワープしたら今意識を失ってる人達を起こしてほしいんだ」

「はい、手伝わせてください! 他の人にもお願いしてみます!」

「手伝ってくれるかな」

「事情を話せば手伝ってくれますよ。とは言ってもさっきの話を信じてくれくれるか、ちょっと心配ですけど」

 そこで台がいくつも並べられているところに着く。

 天馬には謎の力のせいで体のいたるところが強化されている。それは視力でもあるため、この部屋の隅から隅までをどこからでも確認できるのだ。

 やはり拘束具は全て外れている。

 それを確認してから、天馬はまたパスワードを打ち込むために扉のところへ向かおうとする。

 しかしそれを女の子が天馬の制服の後ろを掴んで引止めた。そして言う。

「あ、あの、これから、助けにいくんですよね。まだ捕まってる人達を」

 天馬は振り向かないままうなずく。

「みんなでここから逃げるんですよね?」

 それにもうなずく。

「だったら、絶対に、絶対に死なないでくださいね」

 それに天馬は顔だけ振り返ってから言った。

「絶対に死なない。他の人達も全員助け出して、みんなでここから逃げる」

 その言葉に、女の子は天馬の制服から手を離してから微笑んだ。それから少しもじもじしたような様子で言う。

「そ、そういえば名前っ」

「あ、そうだった。俺は、空宮天馬。君は?」

「西条……絵梨」

「西条さんか。うん覚えた。それじゃ、俺はもう行くね」

 と、天馬は走り出す。

 その後姿に女の子は声を張上げて言った。

「また、逢えますか!?」

 それに天馬も振り返らないまま、声を上げて言った。

「うん、俺は、生きてここから出るから!」

 それから走る速度を上げいく。

 するとすぐに扉に着く。そしてパスワードを打ち込む機会へと歩みより、パスワードを打ち込み始める。

「えーっと、「IMURA」だよな」

 これもさっきと同様にわかりやすいパスワードだが、天馬は井村の名前を知らないので気づかなかった。

「よし」

 そこでパスワードを打ち終える。すると、部屋が一瞬で光に包まれ、魔方陣のようなものがいくつも現れてぐるぐる回りはじめる。

 それを見て天馬はその部屋から離れる。

 その間にもどんどん光はその輝きを増していく。そして一瞬だけ、光がその倍の輝きを放った。

 あまりの輝きに天馬は目を(つむ)ってしまう。

「うっ」

 やがて光の輝きはだんだんと小さくなっていき、消えてしまった。

 それと同時に天馬も目を開ける。

 すると…

「これは」

 井村の言っていた通り、さっきまでこの部屋に捕まっていた人達が全員消えてしまっていた。

「よかった。成功…」

 と、一息つこうとしたところで、すぐ近くに人の気配を感じる。それも全員消えたはずの目の前にある部屋の中から。

「まさか、失敗…」

 確かめるため天馬はまた部屋へと戻っていく。その気配も、だんだんこちらに近づいて来たのですぐにその気配の目の前へと立つ。

 そして目の前にいたのは……

「お前、まだここから離れてなかったのか?」

 井村だ。

 その、彼の姿を見て天馬は口をパクパクさせながら。

「え、な、なんで……?」

 と、思わずそんなな避けない声が出てしまった。

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