第1話 変わる日常
小説というものを初めて書いてみました。
小説としてなりたっているかはわかりませんが、読んでいただけると嬉しいです。更新は遅いかもしれません。
少年は意識を取り戻し、目をゆっくりと開いていった。
だが、数秒ですぐに目を閉じた。それは人にみつかる危険性があるからである。少年は今、自分の身になにがおきているのかが理解できなかったが、マズイ状況にあることはすぐに察したので目を閉じたのだ。
そしてまたゆっくりと開く。正確に言うと目は半開きだ。そして眼球だけで周囲を見回してみる。
「・・・・・・」
しかし、半開きのまま周囲の情報を収集するというのはかなり困難なことで、ほとんど前しか見えない。見えたとしても、それはほんのわずかな範囲だ。
そこで少年は、自分の体が拘束具のような物で、ベッドか何かに縛られているのに気づく。
そして、目を覚ましてから今までの情報を確認してみる。
1.自分は今、おそらく建物の中に居る。
これは、目を開けて周囲を見回したときに一番早く手に入れた情報だった。ほとんど前しか見えない視界の中、彼の目の前に現れたのは1つの大きな蛍光灯。あたりは真っ暗だ。しかし、確実に建物の中に居るという保証はない。あくまで推測だ。
2.自分はベッドか何かに拘束具のような物でで押さえつけられ、動けずにいる。
それがベッドなのかはわからない。それに、その拘束具のような物は自分の首から下へとずっと巻きついているように感じられた。顔以外ピクリとも動かせない。
3.今、自分と同じ空間には人が複数いる。
だが近くにいるわけではなかった。自分の右側から人の声が聞こえる。あまりよく聞き取れないので、少し離れた場所にいるのだろう。だとすると、この自分がいる空間は広間かなにかなのだろうか。それはわからないが、狭い空間ではないことは確かだった。
しかし、推測などではない確実な情報が1つだけあった。
4.自分は何者かに拉致された。
少年は自分の身に起きたできごとを最初から、自分が拉致される前から思い出す。
◆
6月9日。
この日は別に何か特別な日などではなく、至って普通のいつもどおりの朝だった。
そこで、
「天馬くん、天馬くん!」
と、少女の声で、天馬と呼ばれた少年は体を揺さぶられながら目を覚ました。
「・・・・・・」
天馬はまだ寝ぼけているようで、そこにもう一度少女がさっきより声を大きくして天馬に向かって叫んだ。
「天馬くんほら!! と・け・い!! もう8時だよ!?」
天馬は目をこすり、しばらくボーっとしながら部屋を見回す。そこで目に入ったのは、肩まで伸ばした黒髪に、制服を着込んだ少女の姿だった。その少女とは対照的なテンションで、天馬はこう言った。
「ああ・・・・・・優衣ちゃん・・・・・・おはよ」
その言葉に、優衣と呼ばれた少女はしばらくポカーンとした顔をしてから顔を横にブンブンと振り、今日一番の大声を天馬に向かって放った。
「おはよ、じゃなくて!! もう8時なんだってば!! 天馬くんただでさえ遅刻多いんだからこれ以上遅刻するとホントに進級できなくなるよ!? まだ高校始まってちょっとしか経ってな・・・・・・ 」
そこに、天馬の体を揺さぶりながら声を張りあげるを優衣の声を遮って、もう1つの声が部屋に届いた。
「おーい、天馬くん起きたかーい?」
その声を聞いた後で、優衣は声を張り上げるのをやめて、天馬の腕をつかみ半ば強引にベッドの上から引きずりおろし、声の主に返事を返した。
「はーい、今連れてきまーす」
優衣は天馬を連れて階段を下りていく。そも途中で、天馬は少し赤みがかった自分の黒髪をボサボサとかいてあくびをする。
「もぉ、しゃきっとしてよ」
あきれるように優衣が言うと、そこで階段を下り終わる。
そこには、キッチンや1つの大きなテーブルがあり椅子が20個ほど置いてあった。子供からお年寄りまで、10人ほど座って食事をしている。
ここは寮なのだ。
そこで天馬に向かって、優しそうな感じの男が話しかけてくる。30代後半というところだろう。ついさっき優衣と天馬に下から声をかけてきた人だ。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
返事をして椅子に座る。そこでも、テーブルに居る人達が天馬にあいさつをする。
天馬は全員にあいさつをし、食事を始める。
「早く食べちゃってよね」
優衣はそう言いながら何か気になったのか、あたりを見回す。
「あれ? 寮官さん、垣田さんがいないみたいですけど・・・・・・。いつもならこの時間に食事をしてるのに」
その問いに、寮官とよばれた優しそうな感じの男が答える。
「ああ、垣田さんはついさっき出勤していったよ」
「出勤? 仕事見つかったんですか?」
そこで寮官は天馬のほうをちらりと見ながら、微笑む。
「天馬くんにとても感謝していたよ」
それに天馬は気づき、
「そうなんですか? 水臭いなぁ、言ってくれればパーティとか準備したのに」
「ふふっ、君達2人にはこの日まで内緒にしておくように言われててね」
そう、この寮のありとあらゆる家具や部屋、費用は全額、中学校入学と同時にこの寮に入った天馬が寄付しているのだ。
この寮には毎月、天馬宛にパンパンに膨れた1枚の封筒が送られてくる。
中身は100万円。
1番最初にその手紙が送られてきたときは、100万円の他に1枚の手紙があった。
“この封筒のお金は好きに使ってくれ。私は君の父親の知り合いだ。君の父親から毎月コレを君の居る寮に送ってくれと頼まれている。怪しいとは思うが、この金は君の父さんのお金だから安心して使ってくれ。”
と、手紙の内容はそれだけだった。文のあとに天馬の父親のはんこが押されていた。最初はそれを疑ったが、すぐにそれが本物だと気づいた。
彼の父親には文章を書いた後に、・と書く癖がある。書くというかトンッと筆を置く感じだった。
父親曰く、終わった感があるから、との事らしい。
天馬にはよく理解できなかったが、まぁ、癖というのは人それぞれなのであまり気に留めなかった。
そのお金を最初は使うのをためらったが、その手紙が来てから2日後に彼の携帯電話に父親から留守電が入っていた。
『えーっと、天馬、父さんだ。あまり時間がないから簡潔に言うぞ? とりあえず、そのお金は安心して使いなさい。同じ寮のみんなに分けてもいいし、寮全体の電気代、水道代、ガス代なんかもその金で支払ってもらってもかまわない。もちろん、ちゃんと自分が生きていけるだけの金は残しとけよ? 父さんの貯金だ。お前を寮に預けるって決めたときから、ちょくちょく貯めてたやつなんだ。怪しいと思うなら、その金使ってその金の指紋認証してやってもいいぞ?』
ここまでは少しふざけた感じだったのだが、次に出てくる言葉からは少し険しいような声色に変わった。
『・・・・・・・父さんはまだ帰れそうにない。しばらくはその寮で暮らしてくれ。心配はするな。ただちょっと仕事が長引くだけだから、終わったらすぐ・・・・・・』
と、ここで誰かから話しかけられたようだった。父さんは相手に返事をし、すぐに留守電の続きをする
『おっと、ホントに時間がないみたいだからそろそろ終わるぞ。とりあえず、そのお金は安心して使えよ? 父さんは仕事に戻る。寮のみんなと仲良く暮らすんだぞ。じゃあな』
留守電はそこで終わりだった。
それでも少し怪しかったので、本当にそのお金の指紋検証をしてみた。
結果、父さんの言うとおり、そのお金からは父さんの指紋が検出された。
それでもまだ使うのを躊躇 したがこれ以上疑っても仕方がないと思い、今はこの寮のみんなに分けたり、寮の電気代なんかに使っている。
「ごちそうさまー」
ここで天馬は食事を終え、洗面所に向かった。
15分後。
天馬は顔を洗い、歯を磨き、制服を着終わっていた。
「それじゃ、いってきまーす」
天馬と優衣はいそいで玄関のドアを開け、走って出て行った。
優衣はぜぇぜぇと苦しそうに息を吐き、天馬に言う。
「はぁはぁ、やばいよ、あと10分で電車来ちゃう。これ、駅まで全力疾走維持し続けなきゃ間に合わ・・・・・・あれ?」
優衣が振り返ると天馬の姿はなかった。が、少し離れた所にある駐車場でなにやら誰かともめているらしい。
近づいてみると、彼は右手に白いくて小さい5センチほどの棒をつまんで警察官と向き合って必死になにかを訴えかけていた。
「どうしたの?」
と、優衣は聞くがその答えがすぐにわかってしまって、またか、と思う。
彼の右手に握られていたのは、タバコの吸いがらだった。
そこで優衣はため息をつき、警察官に向かって言う。
「すいません、これ、彼のものじゃないですよ? 彼の指の匂いを嗅いでみてください。タバコの匂いなんてしないでしょう?」
が、警察官は、
「しかし、今のこどもは割り箸などにはさんで吸う奴も多いからな」
今度は優衣と警察官がもめだした。
(はぁもう天馬くんてば、なんでこんなときに・・・・・・もうダメ。絶対間に合わない)
優衣は心の中だけで諦めきったような台詞をはいた。
しかし次の瞬間、それを横目で見ていた天馬はその場から勢いよく走り出す。
それに気づいた警察官は、優衣との言い合いの中から抜け出しすぐさま天馬を追う。
「あっ、お前、逃げるなっ!」
天馬は駐車場からさっそうと抜け出し、少し走ったところでピタリと止まる。そこは横断歩道だった。
警察官もすぐに追いつき、
「か、観念したか」
しかしそこで警察官は足を止め、ふとおかしなことに気づく。
(ん? 信号は青なのになんでそのまま逃げないんだ? 追いつかれると思って諦めたのか・・・・・・いやいやいや今はそんな事はどうでもいい)
再び警察官が天馬に向かって走り出すと、天馬も足を動かし始める。
しかし警察官の『走る』という行動に対して、天馬は・・・・・・
そこで警察官は天馬にあと一歩で追いつくというところで、また足を止めた。
(ど、どいうい事だ?)
警察官の目に入った天馬からは『走って逃げる』という雰囲気はなく、ただ・・・・・・
横断歩道を渡ろうとしている、お年寄りの女性を気づかい、荷物を持ってあげているだけだった。
「え、えーっと・・・・・・」
たじろぐ警察官。そこに今まさにマラソンをゴールしましたといわんばかりの息遣いで追いついた優衣が、息を整えて警察官に告げた。
「彼、困った人を見ると助けたくなる『癖』があるんです」
「く、癖? 人を助ける?」
「はい、正確に言うと困ってる人を助けたり、町に落ちてるゴミとか拾っちゃうんです。あっ、拾うっていってもゴミ箱捨てるためですよ? さっきのタバコだってそうですし」
「そ、そうなのか?」
不思議がる警察官。実際にそうだろう。今の時代、人に親切したりゴミを拾ったりする若者はなかなか見かけない。
「これまで何度も職質受けてますけど」
すこしあきれるように言う優衣だった。
その頃お年寄りの女性は横断歩道を渡り終え、天馬にお礼を言っているようだった。
「これでもまだ彼がタバコ吸ってたって言えます?」
「それは・・・・・・」
ここで天馬が戻ってくる。
「あの~、早くしないと俺達遅刻しちゃうんですけど」
天馬は警察官にそう言い、自分の腕時計を見る。
「げっ! 優衣ちゃんこれ絶対間に合わなくない!?」
「誰のせいよ」
はぁ、とため息をつく優衣。
そこで警察官は2人に向かって言う。
「足止めして悪かったな」
それにしても、と付け足し、
「めずらしいな。今の若者は恥ずかしがってなかなか親切なんてあまりしないからな。感心したよ」
「そうですか? 人同士で助け合うってのはあたりまえだと思ってたんですけど」
首を傾げる天馬に警察官は笑顔で言った。
「いやぁ、そうかそうか。そうだなあたりまえだな。全員が君みたいな子だとこの世はもっとよくなってるだ・・・・・・、いやすまない。急いでるんだったな。引き止めてすまなかった。もう行ってもいいぞ」
2人は警察官にあいさつをして、再び走り出した。
それから駅に着いはいいものの、当然のごとく電車には間に合わなかった。
「これで1週間連続遅刻」
肩をおとす優衣だったが、逆に天馬はニコニコしていた。
「私が遅刻するのがそんなに嬉しいのぉ?」
もうどうでもいいように適当に天馬に言う。しかし天馬はそれでもニコニコとして、
「違うって。人を助けるのってさ、落ち込んでるときとかにするとさ元気になるんだよね。最後にみんな「ありがとう」って言ってくれるからさ」
「そりゃ、そうかもだけど・・・・・・。はぁ学校」
この時の優衣には、言葉を返す気力さえなかった。
放課後。
あたりはあかね色に染まり、天馬と優衣は寮へ向けて帰る途中だった。今日の遅刻が原因で、2人ともこの時間まで学校まで残されて説教をくらっていたのだ。
とぼとぼ歩く2人。特に優衣は・・・・・・
「今日も疲れたぁ。そろそろホントに自分で起きてよね」
「なんか今日の説教は早く終わったなぁ。なんか先生疲れてたし」
「話題変えないでよ。はぁ、私達が遅刻ばっかするから先生もあきれてるんだよ」
「思ったんだけどさぁ、優衣ちゃん俺より先に起きて準備までしてるんなら先に学校行ったらどう?」
「私は先生に頼まれてるの。私が起きなかったら天馬くん昼まで起きないでしょ? それに・・・・・・・」
それを言った後で、優衣の顔が少しだけポッと赤くなった。照れているようにも見えるが、夕日のせいにも見える。
「それに?」
「べ、別に。なんでもない」
優衣は顔を上げ、ぷいっとそっぽを向いた。
「えぇ~? 気になるじゃん。俺そういうの無理なんだよ~。気になって夜も寝れないしさ。あっ、このままじゃまた明日遅刻す・・・・・・・」
「聞いても聞かなくても同じでしょ~? 結局私が起こすことになるんだから」
そんな会話をしている内に、もう寮の前だった。
「ただいまー」
玄関のドアを開けた天馬ははあることに気づく。
「あれ? 誰も帰ってないのか?」
中に入ると電気も全部消されていて、人の気配も全くしない。続いて優衣も入ってくる。
「ほんとだ、誰も居ないみたいだね。どうしたんだろ。この寮、人がいなくなることあったけ?」
辺りを見回しながら問いかける優衣に、天馬は答える。
「わからないけど、俺がここに来てからはなかったかな・・・・・・あ」
何かひらめいたとように、天馬がぽんっと手をたたく。
「なに?」
「もしかしてドッキリとか?」
「ドッキリ・・・・・・あ、垣田さんのお祝いとかかな? でもだとしたら私たちまで騙す必要なくない?」
「そうだな~、ん~。あっ!」
暗い廊下を歩きながら、ここでもう一度ぽんっと手をたたく。
「もしかして誕生日かな、優衣ちゃん誕生日いつだっけ?」
「ええ~? 忘れたの? ひど~。10月25日だよ。天馬くんはたしか」
「俺は2月4日。もう過ぎて・・・・・・」
そこで、
ドンッ!
と、鈍い音が廊下に響いた。
「ん?」
天馬が振り返ると、今まで後ろからついてきていた優衣の姿がなかった。あたりを見回す天馬だったが次の瞬間、首筋に強い衝撃が走った。
「うっ」
バタリと廊下に倒れ伏し、意識が徐々に薄れていく。前方に目をやると、同じように廊下に倒れている優衣の姿があった。
(く・・・・・・さっきの音は・・・・・・優衣ちゃんの倒れる・・・・・・)
突然の状況に理解できないまま立ち上がろうとする。だが、もう一度天馬の首筋にさっきよりも強い衝撃が走る。またも床に倒れようとするが、ふと振り向くと人影のようなものが見えた。おそらくそいつに手刀を叩き込まれたのだろう。優衣も同じように。
しかし、今度こそ完全に意識を失った。
◆
(そうか、俺、寮に戻ってから気失ったんだ)
今までのことを整理した天馬は、はっとする。
(優衣ちゃんは・・・・・・)
周りを見回したいがやめる。それは今まで自分と離れていた人達の声が、だんだん近くによってきているから。しかも今はかなり鮮明に近くの人の声が聞こえる。ここで首を動かすとおそらくばれるだろう。
(でも、いつまでもこうしてるわけにもいかないよな。だんだん近づいてきてるし。一か八か、やってみるか)
天馬は右に振り向くことをけっしんした。
ゆっくりと首を右に曲げていく。それと同時に眼球も少しずつ右に動かす。だが、最後まで振り向くことはない。自分の右側にいる人達は何をしているのか、新しい情報を得るにはそれしかなかった。
やっと自分の視界に複数の人が映すが、すぐに首を元に位置に戻し、目を閉じる。
そしてすぐに今得た情報を思い出しながら確認する。
まず最初に得た情報は人が4、5名いたこと。次に、その4,5名の人間が手術室にあるような台の周りを取り囲んでいた。その手術室にあるような台の上には蛍光灯がある。
(!・・・・・・もしかして俺も同じような台に?)
だが天馬の思考は、コツッという複数の足音にかき消される。
(ッ・・・・・・また近づいてくる)
少しすると足音はやむ。
そこで、もう一度さっき得た情報の確認にもどる。
さっき見た、手術室にあるような台は自分の右隣に2つあり、その台は約4,5メートル範囲で設置されていた。その2つめの台を人が囲んでいる。そして足音が近づいてきたということは、次の台に移動したということ。そうなると次にくるのは・・・・・・
コツッ。
またも足音が複数聞こえた。天馬のいる台へ向かって。
(くっ、あいつら何しようとしてるんだ!?)
あの複数の人達が台を囲んで何をしていたかはわからなかったが、よくないことだということだけはわかる。そもそも何故自分達を拉致する必要があるのか。天馬は考えたが当然わかるはずもない。
そのとき、足音が天馬のすぐ近くで止まる。
(くそっ、何するつもりだ・・・・・・)
天馬は目を閉じているので確認できなかった。
そこで、天馬の周りを囲んでいる人の1人が動いた。
深くフードを被っている人物が十字架を持ち、天馬の額へと押し当て、意味不明な呪文のようなものを唱え始めた。
すると突然、天馬の頭に激痛が走る。
(ぐっ、な、なんだ!?)
今まで押し殺してきた声だったが、その激痛は耐えられないほどだった。
「ぐ、あ、ああああああああああああああああああああああああ!!」
静かな空間に、天馬の叫び声だけが響き渡った。
何でもいいので感想があれば書いてくれるとありがたいです。