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短編小説

ヤツからの挑戦状ォォ!!

作者: 風雷

 友へ――


 長い残暑が終わったかと思えば、薄布の向こうに冬が見えるような昨今、この短い秋をいかがお過ごしでしょうか。

 風の噂で、爵位を与えられたと聞き及びました。

 君の成したことが君の同胞にとってどれほどの衝撃であったのか、よくわかります。

 なんでも、ガラパゴスの長老から孫娘を娶らせるために使者が派遣されたとか。

 これが本当なら爵位よりも驚くべきことです。

 全く偉くなったといえば、君はきっと困った顔をするのだろうけれど、これが正直な僕の気持ちです。


 僕の近況を書きます。

 断っておきますが、これらは全ては僕に責任があり、君が気に悩む必要はありません。

 あの日に、僕は全てを失いました。

 君に敗北してから数日と経たない間に、それはほとんど全ての同胞の知ることとなりました。

 長老に呼び出された僕は、その場で脚斬りと追放を宣言されました。

 君に負けた時点で、覚悟はしていました。

 君を馬鹿にするわけではないけれど、僕の敗北は一族全体にとってそれほどの恥辱だったのです。

 ですが、僕より怠惰な者達、ただの噂好き、僕との関係を恥じる者達が、口を極めて僕を非難するのには耐えられませんでした。

 星と呼ばれていた頃の僕に尊敬の眼差しを投げかけていた彼らは、今では僕が泥に見えるようです。

 脚斬りの瞬間は今でもおぼえています。

 誰よりも僕との友情を誇っていた彼らの「不運の足!汚れた足!」という言葉を、僕は、鼓膜にこびりついた自らの絶叫とともに、一生忘れないでしょう。

 たとえ再び星と呼ばれる日が来ようとも、もう二度とあの中に戻ろうとは思いません。


 正直に書きます。

 つい最近まで、ずっと君を呪っていました。

 地位、名誉、財産、家族、その全てを君が奪い去ったのだと。

 そう思わなければ、正気を失うと感じたのでしょう。

 追放された僕は、物乞いをしながら、君を呪うために君に関する様々な噂を聞いてまわりました。

 君に関して悪し様に言う者がいれば喜んで同調し、君に関して良く言う者がいれば嫌悪し、君とともに呪いました。

 彼らのほとんどがただの噂好きでしたが、そうでない者もいました。

 小さな子供でした。本当に小さな子供です。

 その時は酒をあおっていましたから、彼と何を話したのか、実のところ記憶が曖昧です。

 ですが、ひとつだけおぼえています。

 「星の話をして下さい。風よりも速く走る快速の星を」と、彼は言ったのです。

 彼の中での僕は、今でも星のままでした。

 途端に、全てが虚しくなりました。

 気付けば、走っていました。

 残った二本の足で、滑稽に、ミミズのような格好で。

 星でもなく、泥でもない。

 ミミズが今の僕です。

 憎悪と後悔が占領していた僕の胸が、再び君に逢いたいという気持ちで一杯になりました。


 君に逢いにゆく途上、新しい噂が耳に入るようになりました。

 僕の同胞が次々と君に勝負を申し込んでいることは知っていました。

 ですが、ついに君が挑戦をうけたという話を聞いた時は、この耳がヘビの耳ではないかと疑いました。

 僕にこの情報をくれた者達は、君に関する、あの「雷が落ちるより速く走る」という噂を信じているようです。

 君が何を思って彼らの勝負をうけたのか、僕にはわかりません。

 家族や友人は、誰も君を止めなかったのでしょうか。

 君は、何故君が僕に勝てたのか、忘れてしまったのでしょうか。

 それとも、君もまた、いつかの僕と同じように、星であることを強制されているのでしょうか。

 君が守り抜くべき名誉は、誰よりも速く走ることなのでしょうか。


 ああ、友よ。

 今こそ君に、勝負を申し込みたい。

 僕は、君に勝負を挑む他の誰よりも、きっと遅い。

 残された前足で、ミミズのように地を這うことしか出来ないけれど、僕は勝ちます。

 今、あの星のよく見える丘にいます。

 いつか、君と駆けっこをした丘です。

 挑戦者達との勝負を済ます前でも、済ませた後でもかまいません。

 僕は、この丘で君を待っています。


 ――ミミズのようなウサギより

「ウサギとカメ」の後日譚ですが、実は「負けウサギ」なるものが既に存在するようです(wiki調べ)。

ですが、内容が全く気に食わなかったので、私にとって好ましいものを書きました。

この先の話についてはご想像にお任せします。

余談ですが、この作品が二次創作にあたるかどうかで小一時間ほど悩みました。

助言をいただけた方に、この場を借りて感謝いたします。

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