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ついに来た俺の平穏が壊される日が来た

(あ~疲れたぁ。帰りてえ~)


 俺は切実に悩んでいた。あれからかれこれ二週間。ずっと神崎さんが俺に構ってくるのだ。その光景をクラスの連中は好奇の目で見ている者が少数。後は大半が殺意の満ちた目で見てくる。


 俺お前らになんかしたか? マジでこの状態が続くと不登校まっしぐらになる未来しか見えない。


「太一……今までありがとうな」

「いきなりどうしたっ」


 俺の発言にびっくりする太一。


「いやな、俺が不登校になるのも間近だなと思ってさ」

「どうした、誰かに虐められてるのか。相談だったらいつでも乗るぞっ」


 太一は至極真面目な顔で勢い込んで言う。なら試しに相談してみるか。


「俺が神崎さんと関わってるときのクラスの連中の殺意に満ちた目が恐い」


 俺がそう告げると太一は困ったように苦笑する。


「あ~確かにそれはあるよな。でも仕方なくねえ。美人がそりゃたった一人の人間を構いまくってりゃ。それはそうなるだろう」

「一つ言っとくが俺は別に神崎さんに構って貰いたいとは思ってない。向こうが勝手に構ってるだけで俺は被害者だ」

「確かにそれはその通りなんだが」

「それに神崎さんはお前とも話してるだろうが」


 そう、神崎さんは授業と授業の合間の休み時間に太一も交えて喋っている。昼飯の時もそうだ。


「なんで太一には殺意を向けないで俺に向けるんだよ」

「いや確かにお前を通じて神崎さんとは親しくなったけどよ。あの人俺に話し掛けてくる内容がお前の事ばっかりだぜ」


 確かに神崎さんは太一に対して聞くことは幼少期小学生中学生時代の俺はどうだったのかと執拗に訊ねていた。


「太一……お前余計なことを言いやがって」

「余計なこと? ああ前髪切ればそこそこイケメンなんだぜって言ったことか」


 そう。その発言を聞いた神崎さんはキラキラと瞳を輝かして俺を見てきた。あれには流石に参った。


「でも実際事実じゃねえか。これを機に前髪切ってその黒髪を金色に染めたらどうだ?」

「遅めの高校デビューに興味ねえよ」


 金髪とか俺には全く似合わないし絶対周りに馬鹿にされる自信しかない。まあ前髪は邪魔だから切っても良いかなと思うけど……いややっぱり駄目だ。前髪を切った視野が広くなるし尚且つ目立ちたくない。俺は非モテ陰キャのままで過ごしたいんだ。それが一番目立たなくて過ごしやすいからだ。


「まあでも良かったじゃないか」

「何がだよ」

「美人に惚れられてさ」

「馬鹿。神崎さんが俺の事を惚れる訳ないだろ」

「十分惚れてると思うけどな」


 太一は呆れながら肩を竦める。


「あ、そうだ。お前に伝えなきゃいけないことがあるんだった」

「なんだよ」

「俺、彼女出来た」

「は?」


 いきなりのカミングアウトに俺は言葉を失う。


「太一……ついにお前空想の彼女を生み出しちまったのか。後で精神科に行こう。付いていくから」

「いや人を勝手に病人扱いするなよっ」


 太一はそう言いながら俺の頭を叩く。


「え、現実の彼女がマジで出来たのか?」

「サッカー部のマネージャーに告白されて付き合うことになった」


 俺は鼻高々に語る太一を見つめる。そうか、ついに太一にも春が来たのか。


「今度悟に紹介するよ」

「いやなんで俺に紹介済んだよ。それに完璧俺が除け者にされる未来しか見えないから嫌だ」


 どうせ太一の事だから甘々なカップルぶりを見せてくることだろう。その光景を想像するだけで胸焼けするし気まずくなる。


「なんだよ、連れねえなぁ」


 太一は残念そうに口にする。


「三年生の女子を彼女に出来たから悟に自慢したかったのに」

「そんなの俺には関係ないね……ただ恋愛にかまけて学業や部活を疎かにすんなよ」


 俺は自分には縁がない物だが恋愛を絶対的に否定している訳ではない。ただ恋人に集中するあまりに周りが見えなくなってしまうんじゃないかと不安には思っている。


「そこら辺は任せろよ。なんたって相手は三年生で受験も控えてるんだから。早々下手な状況にはならねえよ」


 胸を張る太一。いやそれだったら付き合う意味はないのでは? でもあれかお相手からすれば進学するための受験勉強から来るプレッシャーというストレスを何らかの形で発散したいという魂胆か。


「まあお前は神崎さんっていう彼女がいるしな」


 俺はニヤニヤ顔の太一を睨み付ける。


「おい、神崎さんは彼女でも何でもねえよ。そもそも友達でもねえんだから」


 そう。神崎さんは彼女でも友達でもない。単なる知り合いだ。


「それはお前が勝手にそう思ってるだけだろう。少なくとも神崎さんは友達以上に思ってると思うぞ」


 俺は太一の言葉に疑問を抱いた。友達以上? そんな筈はないだろう。だって知り合ってそんなに経っていない。そんな人間を友達だと思う事なんてあり得ない。恐らく俺が非モテ陰キャで今まで関わった事がない人種だから物珍しいだけだろう。


「おっ、そろそろ授業が始まる時間か。また後でな」


 そう言って太一は自分の席に戻っていく。


「おいこのクラスに影野って奴はいるか?」


 放課後見知らぬ男が教室に訪ねてきた。俺はこれ絶対面倒くさい奴だなと思いながら席から立ち上がって男の元へ向かう。


「あの、影野は俺ですけど」


 俺が控え目にそう言うと男は俺を値踏みするのかのように頭からつま先まで見てくる。うわぁ、うぜー。


 男は一通り俺を見てから意地悪そうな笑みを浮かべて


「おい、ちょっと面貸せや」


 そう言って男は俺の返答も聞かずにスタスタ先を歩いて行く。俺も彼の後を付いていく。


「ここら辺で良いか」


 男はそう言う。今俺が居る場所は校舎裏だ。当然他の生徒は部活とかに行っていて当然人一人居ない。


「お前を呼び出したには理由があってな。なんか神崎と仲が良いみたいじゃねえか」


 男は苛ついた様子で言う。


「俺、アイツのことを狙ってるんだよね。だから必要以上に神崎と仲良くすんな」


 俺はその言葉を聞いてムカつく。いや別に俺は仲良くしてるつもりも無いし、なんなら神崎さんから寄って来てるのだ。


「あの誤解が無いように言いますけど。俺は神崎さんと親しくしてるつもりもないし、彼女も俺という人種を物珍しくて寄ってるだけです。それに多分……神崎さんは貴方みたいなタイプは嫌いだと思いますよ」

「あー、お前舐めた口訊いてんじゃねえぞ」


 男は俺に脅すかのように睨めつけてきた。


「大体いきなり教室に押し掛けてきた上、自分の名前も名乗りもしないし、オラオラしてるのって人としてどうかと思います」


 ぶっちゃけ神崎さんと付き合いたいなら勝手にすれば良いと思う。まあ付き合うかどうかは神崎さんの判断次第だとは思うが。


 俺は男を見る。髪を金髪に染めて耳にピアスを付けている。顔は整っていてイケメンだがどこか軽薄そうなイメージがある。こう人を常に下に見ている感じがする。これは多分神崎さんが嫌うタイプだなと何となく思った。


「……うっ」


 いきなり男が顔面を殴りつけてきた。


「決めた。お前の事ボコるわ」


 男はニヤニヤしながら拳を振り上げる。あー結局こうなっちまうか。まあこういう人間は暴力に頼って人を従わせるタイプなんだよな。これで俺の平穏な日々も終わりか。


 俺は諦めて次に顔面に繰り出されるだろう拳を想定して歯をグッと‘食い縛った瞬間――


「私の()()()()を痛め付けるのを止めて下さい」


 と凛とした声が耳に響いてきた。男は声のした方を見て固まる。


「か、神崎っ」


 そうそこには件の彼女――神崎燈がいた。

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