何故か俺に朝から話し掛けてきた一匹狼系クール女子
(はあ~疲れたぁ)
俺は通学路を歩きながら心の中で溜め息混じりに呟く。まさか神崎さんと放課後喫茶店に行くことになった上に従業員が神崎さんの母親だったなんて。
でも普段学校で無表情で誰も寄りつかせない態度を取っていた神崎さんの意外な一面を知れてちょっと嬉しかったな。
『また明日ね』
神崎さんは最後にあんな事を言ってたけど学校じゃ話し掛けてくることもないだろう。もしかしなくても昨日で最後でもう関わることもないはずだ。
だって彼女は一昨日俺が助けたことに対して感謝を伝えたかっただけなのだから。もうその役目は果たされた。従って神崎さんが俺に関わろうとする理由は必然的に無いわけだ。
それはなんだか悲しいなとふと思った。別に神崎さんがどうこうじゃなくて、神崎さんと薫さんの話し合っている姿を見て心の奥底で羨ましいと思ってしまったのだ。
愛情……と言うか家族愛に満ちていて。俺には縁のないものだから。
といかんいかん。干渉に浸るなんて俺らしくない。俺は気を引き締めて学校に向けて黙々と歩く。すると後ろから肩をポンポンと叩かれた。
俺が振り向くと頬に肩を叩いてきた人の指先が頬に優しく突き刺される。俺は指してきた人物を見て驚く。
「おはよう」
なんと指を頬に突き刺してきた相手は神崎さんだった。神崎さんは悪戯が成功した子供のように柔なかな笑みを浮かべながら挨拶の言葉を告げる。
「お、おはようございます」
やばい。いきなりの事で頭がついていけない。そもそもなんで神崎さんは俺に話し掛けてきたんだ。昨日の時点でもう目的は果たしたはずなのに。俺が固まっていると神崎さんは不思議そうな顔をしながら
「どうしたの? 早く行かないと遅刻しちゃうよ」
そう言って神崎さんは俺を追い越して歩いて行く。
平常心平常心だ俺。心を平静に保て。そうだ。今のは神崎さんなりの冗句だ。別に深い意味なんて無い。第一こんな非モテ陰キャの俺に神崎さんが興味を持つ訳がないだろうが。
「もう影野遅~いっ。置いてちゃっうよ」
神崎さんは不服そうな顔を浮かべて俺を促してくる。どうやら俺と一緒に登校したいらしい。
と言うか、薫さんと居た時の口調そのままなんだか。学校での無口キャラは一体どこへ行ったのやら。
俺は仕方なく早足で神崎さんに追いつき隣を歩く。だが一緒に歩くは良い物の俺と神崎さんは一言も口にしない。
え? これ俺が何か言った方が良いやつなのか。だけど俺にはボキャブラリーは疎か女の子に気の利いた話なんて一切出来ないぞ。
「……影野ってさ」
そんな事を考えてると神崎さんが話し掛けてきた。
「何?」
「影野って落ち着いてるなって思って」
ん? それ俺の事を貶してるのか? 俺はいつもこんなだし今から陽キャ宜しくウェーイウェーイなんてノリは出来ないんだが。
「あ、別に貶してるとかそう言う訳じゃないからっ。ただ私に寄り添ってくる人間とは大分違うなって思って」
その言葉を聞いてなるほどと思った。確かに神崎さん程の美人ならどんな男でも彼女をモノにしたいだろう。男も女も美人イケメンを恋人をに持つのは一種のステータスなのだから。
「影野ってさ。趣味とかなんか好きな事とかってないの?」
さっきからなんで神崎さんは俺の事を話題に挙げて来るんだろうか。まあ間が持たないから仕方なく聞いてきてるんだろうけど。
「趣味とか好きな事か……強いて言うなら小説を読むことかな。後は音楽鑑賞」
「へえ。小説読んだり音楽聴くんだ……因みにジャンルは?」
「小説はどんなジャンルでも読むけど恋愛物が多いかな。音楽ならロックバンド系とバラード」
俺の答えを聞いて神崎さんは何度も頷く。いや本当俺の事を聞いて何になるんだ。詰まらないだけだろ。
そうこうしている内に学校に到着する。
「先に行きなよ」
俺が何気なく言うと神崎さんはキョトンとした顔をする。
「なんで? 一緒に入れば良いじゃない」
「いや流石にそれは」
只でさえ通学路を一緒に歩いてるだけで周りに居る通学している生徒から視線を浴びていた。正直心臓に負担が掛かりすぎた。
なのにこのまま一緒に学校に入ったら周りから好奇の目を向けられた挙げ句有らぬ噂までたてられる未来が想像できる。
「もう……今回は大人しく言う事を聞くけど、次は一緒に学校に入ることっ」
頬をぷくっと膨らませて言うと神崎さんは学校へ入っていく。
ん? 次は一緒にってまさか毎日俺と登校する気なのか?
俺は神崎さんの後ろ姿を眺めながら頭を抱えたい気持ちになるのであった。
(あ~最悪だ)
俺の平穏はいつの間に壊れてしまったのだろうか?




