保健室の先生に揶揄われる
「私は影野の事……友達以上だと思ってるから」
神崎さんはそう言って保健室から出て行く。俺はそれを呆然と見ていた。友達以上に思ってるから? 一体どういう意味なんだ? 俺が不思議がっていると傍に居る志田先生がクスッと笑う。
「随分と影野君は燈ちゃんから慕われているのねえ」
慕われている……神崎さんが俺を?
「志田先生。冗談はよして下さいよ」
「冗談なんかじゃないわよ。現に影野君は燈ちゃんと同じクラスだから知ってると思うけど、普段の燈ちゃんって取っ付きにくいでしょ?」
確かに志田先生の言うとおりだ。神崎さんは男女問わず他人と関わろうとしない。
「前々からそんな燈ちゃんを気にしていたのよ。でも今の影野君とのやり取りを見て安心したわ」
優しく微笑む志田先生。今のやり取りを見てどこに安心する要素が有ったのか甚だ疑問だ。
「別に……神崎さんは俺の事を揶揄って面白がってるだけですよ」
俺が不貞腐れてそう言うと
「あらそんな事はないんじゃない? だったら影野君の事を友達以上に思ってるからなんて言わないもの」
確かにそれはそうかも。っていうか友達以上ってどういう意味だ? もしかしてそれ以上の関係になりたいってそういう意味なのか? だったら少し神崎さんから距離をとる事を視野に入れなくては。
只でさえクラスで神崎さんが俺に構ってるだけで目立っているのに恋人関係とかに万が一なったら目も当てられない。
「はぁ、怠いなあ」
俺が何気なく呟くと志田先生が不思議がる。
「怠いって何が?」
「いやこれ以上親しくすると色々周りからやっかみが増えそうだなって」
実際さっき、そういう問題が起こったのだ。神崎さんが俺と親しくしたいというならそれはそれで良い。だけど友達以上の好意を持っているとしたらそれは問題だ。
神崎さんは美人で母親の前で見せた表情には愛嬌が有って可愛らしいとは思う。でもそれで俺が付き合いたいかと言うとそうではない。
だって俺は神崎さんに釣り合うほどのルックスもしてなければ頭も良くない。そんな人間が神崎さんに好かれるはずがない。
「確かに影野君の悩みも最もね。でも出来れば燈ちゃんの事をちゃんと見てあげて欲しいの」
「俺が……神崎さんを、ですか」
「そう」
志田先生が暗い顔をする。
「燈ちゃんにはね暗い過去があるの。流石に内容までは私の口からは言う事は出来ないんだけど。とにかくそのせいで燈ちゃんは人間不信に今も尚なっちゃってるのよ」
神崎さんに暗い過去か……。まあ誰にだってそういうのは有るよな。人に言いたくないことなら尚更だろう。
「でもね。燈ちゃんは多分……いえ、絶対影野君に自分の後ろ暗い過去を打ち明ける時が必ず来ると思うの」
「なんでそう断定できるんですか?」
俺と神崎さんは知り合ってまだ間もない。今は俺に必要以上に構ってくるけど、人の心は移ろいやすい物だ。その内離れる時が来るに決まってる。
俺がそう思っていると志田先生は優しく微笑む。
「だって燈ちゃんが影野君の事を凄く信頼しているから。だからもし燈ちゃんが過去を打ち明ける時が来たら逃げずにちゃんと真っ直ぐ受け止めてあげて」
真剣な瞳で志田先生は俺を見つめる。そんな志田先生の視線を目をそらさずに見つめ返す。
「まあ、善処します」
多分そんな時は来る事はないだろう。でも万が一そんなときが来たら俺はちゃんと受け止めてあげようと思う。
人間は心に不満やストレスを常に抱えてる物だ。その状態がずっと継続すると心が壊れてしまう。流石にそんな神崎さんを見たくない。こんな見てくれも良くない俺が彼女の心を支えることが出来るのか、そこが疑問ではあるが。
ガラガラッと保健室の扉が開け放たれる。そこから神崎さんが出てきた。
「影野……大丈夫?」
と聞いてくる。その表情は曇っていた。
「ああ……もう大丈夫だよ」
冷やしたお陰で痛みが大分引いてきた。俺がそう告げると神崎さんがほっとしたのか胸をなで下ろして優しく微笑む。
「なら影野……一緒に帰ろ」
神崎さんが頬をほんのり赤らめてはにかみながらそう告げる。俺は神崎さんの言葉に首肯してソファから立ち上がると志田先生が俺の耳元に顔を近付けてきて
「燈ちゃんの事を宜しくね」
と告げられる。俺はその言葉に曖昧に頷く。宜しくねと言われても何をどうすれば良いのか分からない。只、神崎さんが困っていたら出来るだけ力にはなろうとそう思いながら神崎さんの元へ歩みを進めるのであった。




