プロローグ
「なあ、俺らと遊ぼうぜ?」
ん?
学校からの帰宅途中、チャラそうな声が聞こえて俺――影野悟は、声の聞こえた方へ目を向ける。
そこには見るからに、チャラそうな男が二人。女の子を間に挟む形で、ナンパをしていた。
(今時ナンパをするような奴いるんだなぁ)
俺は呆れ半分興味半分な気持ちで、その光景を眺めていたが、ナンパをされている女子高生と思われる人物を見て、目を瞠った。
なんと、その女子高生は俺のクラスメイトであり、学年で一位の成績を収めている――神崎燈だったからだ。しかもそれだけではなく、彼女は顔が整っており特徴的なのは、肩の辺りまで、切り揃えられている銀髪だ。それがより、彼女の美しさを際立たせている。
(確かに彼女なら、ナンパされるのも頷けるよなぁ)
神崎燈は成績だけではなく、運動神経も抜群で容姿端麗だ。可愛い系か美人系かというと、後者の方。
ただ彼女はあまり他人を信用していないのか、はたまた独りでいることが好きなのか、誰も寄せ付けない態度をとっている。
今ナンパをしてきている二人の男に対しても、あまり興味が無いようでずっとスマホをいじって、相手にしていない。
そんな彼女に男達は、痺れを切らしたのか
「なあ、スマホばっか見てないで、俺達の事を見ろよ。楽しい思いさせてやっからよ」
と、神崎の肩に手を掛ける。神崎さんは、先程まで無表情でいたものの、二人の男の内の一人に肩に手を掛けられ、明らかに不快そうな顔を浮かべていた。
――どうする?
今いる場所は、近くにゲーセンがあるものの、入り口が二カ所あって、正面玄関からならある程度人気があるが、不幸な事にもう一カ所は横からで出たらそこは、裏路地みたいな物……滅多に人は寄りつかない。
(はぁ仕方ないか)
神崎さんとはクラスメイトであるものの、接点は皆無だ。俺としては面倒事には巻き込まれたくない。平穏に暮らしたいと思っている。
だけど、見てしまったからには仕方ない。多分神崎さんは、俺の事をクラスメイトとして認識すらしてないだろうが、ここは一つ、助けに入る事にしますか。
「神崎さん……ごめん待たせちゃって」
俺は神崎さんの元へ近付きながら、何食わぬ顔で声を掛ける。
神崎さんは、俺と目が合うと呆けた顔を見せてきた。
「あん? お前なんだよ」
「今この子と良い感じなんだ。邪魔すんなよ」
男達が俺に向けて、鋭い眼光を向けてくる。俺は内心ビクビクしてるのを、表に出さず
「いやぁ、その人俺の大切な人なんですよね。だから出来れば、お引き取り願いたいんですけど」
俺は彼らに負けじと睨み返しながら、有無を言わさぬ態度でそう告げた。
「チッ、なんだよ彼氏持ちかよ」
「あ~ぁ、なんか白けちまった行こうぜ」
男達はそう言うと、神崎さんから離れてそそくさとこの場を離れていった。
(ふぅ…なんとか終わったな)
正直、殴り合いとかにならなくて良かった。喧嘩とかになったら、勝てる気しないもんな。さて、帰るとしますか。
俺は、家路に就くことを決めて、歩き出そうとすると
「……待って」
とここまで、全く喋らなかった神崎さんが声を掛けてきた。正直驚いた。
何にって? 彼女は基本学校でも人と関わらないから、基本無口で多分校内で、声を聞いた人は誰もいないんじゃないかな。
「ん? 何か用でも?」
俺は神崎さんに、身体ごと向けて問いかける。対する神崎さんは、顔を俯けていた。そしてしばらく待っていると
「……どうして嘘まで吐いて私を庇ったの?」
ああなんだそんなことか。
「えっと……神崎さん、多分人と極力関わってないから俺の事、名前すら知らないと思うんだけど。一応クラスメイトなんだよね」
「……クラスメイトって理由だけで助けたって言うの?」
俯けていた顔を上げて、俺に対して不審な目を向けながら、神崎さんが問う。
「まあ出来れば面倒事には、巻き込まれたくないって思ってるけど。目の前でクラスメイト、それも女の子が困ってるなら、助けるのは当たり前じゃない」
俺がそう告げると、神崎さんは、警戒心をより一層強めた感じがした。
「そう。それであわよくば、私と仲良くなろうって魂胆ね」
「あ、今の俺の発言だとそう取られちゃうのか」
「違うとでも言うつもり?」
神崎さんは、顔をより一層険しくして、詰問口調で聞いてくる。俺はその言葉に対して笑顔で
「残念だけど違うね。俺は見ての通り地味な男でね、成績も良くも無ければ悪くもない。人と比べて突出してる部分も無い平凡な男だよ。そんな奴が学年、いやもしかしたら校内で一番成績優秀で、美人の神崎さんと親しくなれないし、そもそも釣り合わないよ」
神崎さんは俺の言葉を聞いて、固まってしまう。今俺おかしな事言ったか?
「まあ良いや。夏近くで日が暮れるのが遅いとはいえ、女の子なんだから早めに家に帰りなよ。じゃあ」
俺はそう言って、今度こそ止めていた足を我が家に向けて動き出す。
(まあ、今日は思わぬ所で神崎さんと関わる事になっちゃったけど。今回だけだ)
明日になれば、お互い赤の他人同士に戻ることだろう。俺は気楽にそう考えながら、家路に就くのであった。




