3 肩と過去と
蒼の胸が一瞬跳ね、言葉が詰まる。
――あ、凛…
三郎も目を丸くしながら、隣の蒼を見て驚きの表情を浮かべる。
「おお、あの子だ!」
凛は少し照れくさそうに、しかし明るく微笑みながら近づいてくる。
「えっと…こんにちは、蒼くん」
蒼はわずかに視線をそらしつつも、自然に微笑みを返す。
凛が席に着き、三人で軽く顔を合わせる。
三郎が小声で蒼の耳元に顔を寄せ、少し嫉妬混じりの声で囁く。
「おい、ちょっと待てよ…あの子、知り合いなのか?」
蒼は一瞬照れくさそうに顔を逸らしながら、低い声で返す。
「まぁ…ちょっと、この間ね」
三郎は目を輝かせながらも、ややムッとした表情で蒼の肩を軽く叩く。
「おお、なるほどな!それで今日会ったわけか」
蒼は苦笑しつつも、凛の明るい笑顔を思い浮かべて、少しだけ心が温かくなる。
凛は二人のやり取りを微笑みながら眺め、軽く首を傾げる。
「ふふ、何か秘密話ですか?」
蒼は小さく笑って首を振る。
「いや、別に…ちょっとだけね」
三郎は再び小声で蒼に囁く。
「こりゃ連休中の話も楽しみになりそうだな!」
三人の間に、軽い笑いと少しだけドキッとする空気が流れる。
三郎が少し前かがみになり、凛に向かってにこやかに尋ねる。
「ところでさ、ゴールデンウィークって何か予定あるの?」
凛は少し首をかしげ、笑顔で首を振る。
「うーん、特にまだ決めてないです」
三郎はすかさず目を輝かせ、蒼にチラッと目を向ける。
「じゃあさ、蒼も一緒にさ、太陽も誘って、凛ちゃんの友達も含めて遊びに行こうよ!」
蒼は少し戸惑いながらも、頭の中で凛の顔を思い浮かべる。
――この子と…連休に?
凛は少し驚いた様子で笑う。
「えっ、そ、そんなふうに誘ってくれるんですか?」
三郎は得意げに肩をすくめる。
「せっかくの連休だし、みんなで楽しまなきゃ損だろ!」
蒼は少し照れくさそうに微笑みつつ、内心で少し心が弾むのを感じる。
凛もにこにこと笑いながら、自然にその提案を受け入れるように頷いた。
「わかりました、じゃあ楽しみにしてますね!」
凛がにこにこしながら言う。
「じゃあ、私、友達の千尋ちゃんを誘うね」
三郎は目を輝かせ、手をパチンと叩く。
「おお、それなら賑やかになりそうだな!」
蒼は少し考え込み、口を開く。
「太陽はどうだろう…ゴールデンウィークは野球サークルで試合かもしれないな」
三郎が首をかしげる。
「そうか…あいつ、野球サークルだったっけ?」
蒼はなんだか寂しそうな表情で頷く。
「そう、高校の時からの延長みたいな感じで、今も仲間とやってるんだ」
三郎は少ししまった顔をするが、話を逸らそうとする。
「えっと、まぁ…そういう話はまた今度ってことで…」
しかし凛は興味津々に顔を輝かせて蒼を見る。
「えっ、蒼くん、野球やってたの?高校野球やってる蒼くんの話、聞きたいな!」
蒼は少し戸惑いながらも、目の前の凛に小さく笑みを浮かべる。
――話すと少し長くなるけど…まぁ、いいか。
深呼吸を一つして、少し寂しげな表情で語り始める。
「高校の時か…野球部に入ってたんだ。三年の最後の大会の前に肩を壊しちゃってさ…」
凛は驚いた顔で蒼を見る。
「えっ、最後の大会の前に…?」
蒼は俯きながら続ける。
「うん。俺はエースで、甲子園も狙えるくらいだった。でも、俺のせいでチームはベスト8で負けた。みんな必死で頑張ってたのに、最後の試合で力になれなくて…結局、それで野球はやめることにしたんだ」
凛はじっと蒼を見つめ、静かに言う。
「そんなことがあったんですね…でも、話してくれてありがとうございます」
蒼は小さく笑みを浮かべる。
「うん…今はもうやってないけど、あの経験は今でも大事な思い出だ」
凛は少し安心したように微笑む。
「高校野球やってた蒼くんの話、聞けてよかったです」
蒼は心の中で少し温かさを感じながら、目の前の二人を見つめた。




