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Rose the Exile  作者: enigma
間章

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間章(その2)『追跡者たちの憂鬱』

間章(その2)『追跡者たちの憂鬱』


 東京都内のとある警察署。

 蛍光灯が白々と照らす署内では、今日も絶え間なく電話のコール音が鳴り響き、キーボードを叩く乾いた音がそこかしこから聞こえていた。

 そんな喧騒の中、交通課のデスクが並ぶ島から、突如としてヒステリックな声が爆発した。


「あーもうっ! 思い出すだけで腹が立つ! キーーーーーッ!!」


 バンッ! と机を両手で叩き、頭を抱えて唸り声を上げたのは、交通課に所属する活発な女性警官――田中華たなか はなだった。

 彼女の前には、処理しなければならない交通違反の報告書が山積みになっている。しかし、彼女の怒りの原因は目の前の書類そのものではなく、その書類を書く羽目になった『原因』にあった。


「落ち着きなさいよ、華。また始末書の書き直しになるわよ」

 隣のデスクから冷ややかな声をかけたのは、同僚の鈴木雫すずき しずくだ。彼女は知的な銀縁眼鏡を押し上げながら、淡々と自分のパソコンに向かっている。


「雫は悔しくないわけ!? あの『黒いライダー』よ!」

 華は身を乗り出し、バンバンと机を叩きながら捲し立てた。

「あのロイヤルエンフィールドとかいう立派でシブいバイクに乗って、公道を我が物顔で暴走してたアイツ! 後ろ姿と体つきからして、絶対女だったわよ! こっちがサイレン鳴らしてパトカーで必死に追いかけてるのに、まるで遊んでるみたいにスイスイすり抜けていって……!」

「ええ、鮮やかな手口だったわね。私たちのパトカーの旋回半径と加速性能の限界を、完全に計算し尽くした見事な逃走ルートだったわ」

「感心してどうするのよ! しかもね、しかもよ!?」

 華はワナワナと震えながら、顔を真っ赤にして叫んだ。

「途中で後ろを振り向きもせず、綺麗に左手を伸ばして……こっちに向かって中指立ててきたのよ!? 信じられる!? 公権力に対する最上級の侮辱よ!!」


 そう。カレン・エンフィールドがパトカーを撒く際にミラー越しに垣間見た『苛ついていた女性警官二人』とは、まさにこの華と雫のことだったのだ。


「公務執行妨害に侮辱罪も追加してやりたいわ! 次に会ったら絶対に白バイで追い詰めて、あのふざけたヘルメット引っぺがしてやるんだから!」

「はいはい。そのためにも、まずは目の前の報告書を終わらせないと、パトロールにすら出られないわよ」

 荒れ狂う華を、雫が冷静に、そして事務的になだめる。交通課の日常になりつつある光景だった。


 ――そんな彼女たちの愚痴を、少し離れた刑事課のデスクからコーヒー片手に聞いていた男がいた。

 無精髭にヨレヨレのスーツ姿、ベテラン刑事の秋山剛造である。


「……元気なこって。交通課の連中も相当煮え湯を飲まされてるみたいだな」

 剛造が苦笑混じりに呟くと、隣に立っていた新米の女性刑事――藤原アキが、手元のタブレット端末をスワイプしながら頷いた。


「ええ。ですが秋山さん、あれはただの交通違反の範疇には収まりませんよ」

 アキは真面目な顔つきで、画面に表示されたデータを剛造に見せた。

「交通課が追跡した際、例の『ハンター350』に取り付けられていたナンバープレートの照会結果ですが……該当車両なし、つまり偽造ナンバーの可能性が極めて高いです。しかも、逃走の途中でナンバーそのものが切り替わったという目撃情報もあります」


「偽造ナンバーに、可変式のギミックか。ルパンじゃあるまいし、ふざけた真似をしやがる」

 剛造は忌々しそうに舌打ちをした。

 ただのスピード違反や信号無視なら交通課の仕事だが、公文書偽造にあたる偽ナンバーの使用、さらには新宿でのチンピラグループへの傷害、およびコンビニエンスストアへの器物損壊。これらがすべて同一人物の『黒いライダー』によるものだとすれば、完全に刑事課が扱うべき凶悪事件だ。


「防犯カメラの映像を解析していますが、ヘルメットで完全に顔を隠しており、足取りは今のところ掴めていません。体型からして女性という線は高いですが。それに、あの運転技術……プロのスタントマンか、裏社会の運びトランスポーターといった線も考えられます」

「プロねぇ……。だが、どんなプロだろうと、必ずどこかでボロを出す。とくに、ああやって警察を挑発して楽しむような自己顕示欲の強い奴はな」


 剛造は飲み終えた紙コップをゴミ箱に放り投げ、ふと何かに気づいたように顎を撫でた。


「ロイヤルエンフィールド、か……」

「秋山さん?」


 隣のアキが不思議そうに首を傾げる。剛造は軽く手を振って誤魔化した。


「いや、なんでもない。娘の友達がそんな話をしてたのを思い出してな」


(今朝、うちの美鈴がやけに動揺して『偶然だよね』なんて誤魔化していたが……あいつの新しい友達の中に、偶然同じバイクに乗っている奴でもいるのか?)

 剛造の脳裏にほんの僅かな引っ掛かりが残ったが、まさか娘のクラスメイトである可憐な金髪の英国令嬢が、事件の張本人だとは、この時の剛造は知る由もなかった。


「ま、相手が何者であろうと、まずはその尻尾を掴んでとっ捕まえるのが先決だ。アキ、引き続き新宿周辺の防犯カメラの映像と、裏の改造屋の線で情報を洗え」

「了解しました、秋山さん」

 藤原アキが敬礼し、踵を返す。


 警察署内に、再び慌ただしい活気が戻る。

 交通課と刑事課。それぞれのアプローチから『黒いライダー』を追う追跡者たちの包囲網は、極東の島国で夜遊びを楽しむ英国令嬢の背後へと、確実に、そして静かに忍び寄りつつあった。


既に作品出来上がっているので、なるべく毎日投稿を心がけます。

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