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Rose the Exile  作者: enigma
第一章『黒薔薇』

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part 3

放課後のチャイムが校舎に鳴り響き、教室は一気に活気づいた。

帰り支度を整えるカレンの席に、美鈴、凪沙、春一の三人が自然な足取りで集まってくる。


「ねえカレンちゃん、この後みんなで駅前のカラオケ行かない? 転校の歓迎会も兼ねてさ!」

凪沙が弾んだ声で提案する。春一も「うん、俺も行くよ」と頷いた。

普通の女子高生であれば喜んで飛びつく誘いだろう。しかし、カレンは困ったように眉尻を下げ、上品な笑みを浮かべた。


「お誘いありがとうございますわ。とても魅力的ですけれど……あいにく昨日日本に引っ越してきたばかりで、まだ家が色々とごたついているんですの。今日は遠慮させていただきますわね」

「そっかー、残念。まあ引っ越し直後は片付けとか大変だもんね。じゃあ、また今度行こう!」

美鈴があっさりと引き下がり、四人で連れ立って昇降口へと向かう。


校門を抜ける前、生徒用駐輪場に移動したところで、カレンの愛車を目にした三人は改めて感嘆の声を漏らした。


「やっぱりカッコいいな……これ、カレンちゃんのバイクだよね?」

春一が目を輝かせて車体を覗き込む。その横で、美鈴が腕を組んで感心したように唸った。

「これ、イギリスの『ロイヤルエンフィールド』じゃない? しかもかなり手入れされてる。女子高生が乗るには随分とシブい趣味してるわね」


(ほう。極東の島国にも、見る目のある人間がいるんですのね)

カレンは少しばかり気分を良くして、誇らしげに車体を撫でた。

「ええ、私の愛車ですわ。『ハンター350』。クラシカルなデザインと、街乗りに適した鼓動感がとても気に入っておりますの」


自慢のバイクをひとしきり紹介した後、カレンは制服の上に黒のライダースジャケットを羽織り、フルフェイスのヘルメットを小脇に抱えた。

「それじゃあ、皆様ごきげんよう。また明日」

「うん、気をつけて帰ってねー!」

「バイバイ、カレン!」

徒歩で帰路につく三人に見送られながら、カレンはスマートにエンジンをかけ、駐輪場を後にした。


カレンが仮住まいである高級マンションに帰宅するや否や、彼女の纏っていた「令嬢」の空気は霧散した。

自室に直行し、息苦しい制服を乱暴に脱ぎ捨てる。薄化粧を洗い落とし、鏡の前で本来の自分を取り戻すための儀式を始めた。


目元には太く鋭いアイラインを引き、退屈な昼の顔を挑発的な夜の顔へと塗り替える。

両耳にはジャラジャラと無数のピアスを飾り、形の良い唇にも冷たいシルバーのピアスを通す。

そして、クローゼットから引っ張り出した黒いタンクトップを身にまとい、その上から使い込まれたライダースジャケットを羽織った。ジャケットの袖の下には、両肩から腕へと這う黒一色の薔薇と茨のタトゥーが隠されている。


鏡の中に立つのは、島流しにされたおとなしい転校生『カレン・エンフィールド』ではない。

イギリス・ロンドンのアンダーグラウンドを騒がせた、夜の女王たるカレン・エンフィールドの姿だった。


「さて……退屈しのぎと行きますか」


夜の帳が下りた東京の街。

ネオンサインが眩しく瞬くアスファルトの上を、ハンター350の野太いエキゾーストノートが切り裂いていく。

カレンはスロットルを捻り、夜の街を弾丸のように疾走した。巨大なトラックや行き交う乗用車のわずかな隙間を、まるで針の穴を通すような正確さで次々とすり抜けていく。

風を切る感覚。これこそが彼女の求める自由だった。


「ウゥゥーーーッ!!」


その時、後方からけたたましいサイレンの音が響いた。

ミラーを一瞥すると、赤色灯を回した日本のパトカーが猛追してきている。どうやら派手なすり抜けと速度超過が目をつけられたらしい。


「ふふっ。どこの国でも、ポリスは野暮でしつこいですわね」


カレンは全く焦ることなく、ハンドルの目立たない部分に増設された小さなスイッチをカチリと押した。

ジーッ、という微かなモーター音とともに、車体後部のナンバープレートが回転し、あらかじめ用意しておいた『偽ナンバー』へと瞬時に切り替わる。

日本に来て早々、裏社会の人間と接触して大金をはたいて改造してもらったギミックだ。高い出費だったが、早速役に立った。


カレンはスピードを落とすどころかさらに加速し、振り向くことすらなく、左手を後ろに伸ばしてパトカーに向けて中指を突き立てた(ファック・ユー)。

ミラー越しにチラリと確認すると、パトカーのフロントガラスの奥で、女性警官二人が顔を真っ赤にして苛ついている表情が垣間見えた。

(美鈴のお父様とやらも、こんな風に顔を真っ赤にして怒るのかしら?)

カレンはヘルメットの中でクスクスと笑い声を漏らす。


その後は彼女の独壇場だった。

大型のパトカーでは絶対に曲がりきれない狭い路地裏への進入、急ブレーキからの直角ターン。持ち前の圧倒的なライディングテクニックを駆使し、東京の迷路のような路地を縫って、あっという間に追跡を振り切ってしまった。


追跡劇を終え、カレンが辿り着いたのは不夜城・新宿。

ネオンが毒々しく光る歓楽街の片隅で、彼女は屋台の名物であるケバブサンドを頬張っていた。


「ん〜っ……! やっぱり最高ですわ」


滴る肉汁とスパイシーなソース。上品なティータイムのスコーンも悪くないが、カレンの性にはこういうストリートの脂っこくジャンクな食べ物の方が圧倒的に合っていた。


ケバブを平らげた後、喉の渇きを覚えたカレンは、近くのコンビニエンスストアの前にバイクを停めた。

ミネラルウォーターでも買おうとエンジンを切った、その時。


「おっ? 随分とイカしたネーチャンじゃん」

「そのバイク高そうだな〜、ちょっと俺らにも乗せろよ」


ぞろぞろと路地裏から湧いてきたのは、いかにもガラの悪いチンピラグループだった。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、カレンとハンター350を取り囲む。


「……退きなさい。底辺のドブネズミども」

「あぁ!? てめえ、誰に向かって口きいて——」


リーダー格の男が凄もうと手を伸ばしてきた瞬間。

カレンの動きは豹のように速かった。ライダースジャケットの内側、ホルスターから流れるような動作で『ガングリップ式のスタンガン』を抜き放ち、男の首筋に躊躇なく押し当てた。


バチバチバチッ!!


「あがッ、ご、がっ……!?」

強烈な電流を浴びた男は白目を剥き、一瞬にして意識を刈り取られてアスファルトに崩れ落ちた。


「なっ……!? て、てめえよくも兄貴を!!」

「殺せ!!」


激高した残りの仲間たちが一斉にカレンに襲いかかる。

しかし、カレンは慌てるどころか冷酷な笑みを浮かべ、素早くハンター350に跨った。エンジンを轟かせ、この鉄の馬そのものを武器として扱い始めたのだ。


「遅いですわね」


カレンは前輪を大きく持ち上げる『ウィリー』の体勢になり、飛びかかってきた男の顔面にフロントタイヤを容赦なく叩きつけた。男が鼻血を噴き出して吹き飛ぶ。

さらに着地と同時に『アクセルターン』を決め、後輪を猛烈にスライドさせて背後から迫っていた男の足を薙ぎ払う。


バイクの重量とエンジンのトルク。それらを己の手足のように操り、まるで巨大な鈍器を振り回すかのように器用に、そして優雅に戦うカレン。

鉄の塊が踊るたびに、チンピラたちは次々と宙を舞い、骨を軋ませて倒れていく。


「これで、最後ですわ!!」


残った最後の一人が悲鳴を上げて逃げようとしたが、カレンは容赦しなかった。

後輪をスリップさせて車体をコマのように回転させ、遠心力の乗ったバイクの車体(テール部分)で強烈な一撃を叩き込む。

「ぐべぁっ!?」

カエルが潰れたような悲鳴とともに叩き飛ばされた男は、そのままコンビニの大きなガラス窓に激突。


ガシャアァァァンッ!!!


派手な破壊音とともにガラスが粉々に砕け散り、男はコンビニの店内、雑誌コーナーのど真ん中まで吹き飛んでいった。


静まり返ったコンビニの前に、ハンター350のアイドリング音だけが低く響いている。

カレンはバイクに跨ったまま、そこら中に転がって呻いているチンピラたちを見下ろした。


「あら、私とのダンスでみなさんもうダウンでクタクタですの? だらしないですわ」


クスクスと小悪魔のように微笑むと、カレンは再びスロットルを捻った。

けたたましい排気音を残し、黒いライダースの少女は夜の闇へと消えていく。


コンビニ周辺の割れたガラスと、意識を失って転がる男たち。

あとに残されたのは、圧倒的な暴力が通り過ぎた惨状だけだった。


既に作品出来上がっているので、なるべく毎日投稿を心がけます。

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