part 3
そして、放課後。
恐怖に震える三人を引き連れ、カレンは校門前へと向かった。
そこには、日本の高校の校門にはおよそ似つかわしくない、青い外交官ナンバーをつけた最新型のNISSAN GT-Rが停まっていた。
重厚なドアが開き、運転席から一人の男性が降りてくる。
夕日に照らされて輝くプラチナブロンドの髪。高身長で、モデルのような完璧なプロポーション。道行く女子生徒たちが思わず足を止めて見惚れてしまうほどの、圧倒的な美貌の持ち主だった。
遅れて、愛車のハンター350に乗ったカレンが校門から出てきた。
カレンはヘルメットのシールドをカシャッと上げ、花が咲いたような笑顔を見せた。
「あ、ジャックお兄様!」
「やあ、カレン。迎えに来たよ」
ジャックは甘い微笑みを浮かべ、二人は流暢なブリティッシュ英語で親しげに言葉を交わし始めた。
少し離れた場所からその様子を見ていた美鈴は、額に冷や汗を浮かべていた。
(めちゃくちゃイケメンで優しそうだけど……あの人が、国を裏から操って戦争を起こさせてる、武器商人の重要人物なんだよなあ……)
ふと、GT-Rの助手席のドアが開き、見慣れたメイド服姿の女性が降りてきた。シャーロットだ。彼女はジャックの側に立ち、カレンに向けて深々と一礼した。
それを見た春一は、少しだけ肩をすくめた。
(ああ、シャーロットさんもいるのか。あんなに綺麗な見た目してるのに、ゴリゴリの白人至上主義者で、俺たち日本人のことを猿だと思ってるんだよなあ……)
エンフィールド家の人間は、見た目と中身のギャップが激しすぎる。
「そういえば」
ジャックはカレンとの会話を一段落させると、視線を美鈴たち三人に向けた。そして、完璧な発音の日本語で優しく語りかけた。
「初めまして。君たちが、カレンの友人だね。うちのカレンと仲良くしてくれて、本当にありがとう。これからも、妹と仲良くしてくれると嬉しいよ」
洗練された大人の余裕を感じさせる挨拶に、三人はガチガチに緊張しながらも「は、はい!」「こちらこそ!」とペコペコ頭を下げた。
挨拶を済ませると、ジャックは再びカレンに向き直り、ブリティッシュ英語でからかうように言った。
『まさか、このキミが東洋人のお友達を作るなんて思わなかったよ。前に本国で、東洋人のことをイエローモンキーって見下していたのが嘘みたいだ』
『や、やめてくださいまし、お兄様!』
カレンは顔を真っ赤にして抗議した。
美鈴たちは英語の意味を完全には理解できなかったが、何となくからかわれていることだけは察した。
彼女たちは、カレンの裏の顔も、そして彼女が自分たち東洋人に対して(シャーロットほどではないにせよ)ある程度の差別意識や偏見を持っていたことも知っている。だが、それを含めて、彼女は不器用ながらも自分たちを守ってくれた『大切な友達』だと認識していた。
『ふふ、冗談だよ。……これなら、俺の妻とも仲良くできそうだ。じゃあ、俺はもう行くから。カレン、また何かあったら連絡してくれ』
ジャックは優しくカレンの頭を撫でると、シャーロットと共にGT-Rに乗り込み、凄まじいエンジン音を残して走り去っていった。
「妻?」
嵐が去った後のような静けさの中、凪沙が不思議そうに小首を傾げた。
「そういえば、お兄さんは何しにわざわざ日本に来たの?」と桐生も尋ねる。
「ジャックお兄様は、愛する妻に会うためにわざわざ日本に戻ってきたんですの」
カレンはバイクに跨ったまま、事もなげに答えた。
「お兄様は、白人至上主義者のシャーロットや、東洋人を少し下に見ている私と違って、そういう人種的な差別意識は一切ありませんのよ。なんなら……お兄様の愛する奥様は、生粋の『日本人』ですわ」
「「「ええええええええっ!?」」」
今日一番の驚愕の声が、三人の口から綺麗にハモった。
「あ、あの恐ろしい謀略家の武器商人が、日本人と結婚してるの!?」
「嘘でしょ……なんか、スケールが大きすぎて頭がついていかないよ……」
美鈴と凪沙が頭を抱える。
「あ、そうですわ、思い出しました」
カレンはポンッと手を叩き、満面の笑みで三人を振り返った。
「こんな厄介な私を受け入れて、友達でいてくれる皆様に。仲良しの証として、今度みんなに『エンフィールド家の商品』を特別にプレゼントして差し上げますわ!」
「えっ! 本当!? やったー! イギリスの会社のプレゼントなんて、すっごくオシャレそう!」
何も知らない凪沙が無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。
「なんだろう、楽しみだな」
春一も純粋に嬉しそうに微笑んだ。
しかし。
刑事の娘であり、エンフィールド家が『軍需産業』であることを誰よりも理解している美鈴だけは、顔面を土気色にして青ざめていた。
(エンフィールド家の商品って……それ、間違いなく『兵器』か『銃』じゃないのぉぉぉっ!?)
初夏の爽やかな風の中。
美鈴の絶望的な嫌な予感を乗せて、黒薔薇の令嬢と友人たちの波乱に満ちた日常は、まだまだ続いていくのだった。




