part 2
昼休みを告げるチャイムが鳴り終わるや否や、二年B組の教室はドッと活気づいた。
生徒たちがそれぞれ弁当箱を広げたり食堂へと駆け出したりする中、カレン、美鈴、凪沙、そして春一の四人は自然な流れで合流し、階段を上って校舎の最上階へと向かっていた。
立ち入り禁止の札が掛かった重厚な鉄扉の前。
カレンは立ち止まると、周囲に教師の目がないことを確認し、制服のポケットからヘアピンを一本取り出した。そして、迷うことなくそのピンを鍵穴へと差し込む。
カチャ、ツツッ、カチャリ。
ほんの数秒。息をするように自然で、かつ鮮やかな手口だった。あっさりと外れ、カレンは扉のノブを押し開けた。
「ね、便利でしょ?」
初夏の爽やかな風が吹き抜ける屋上へと足を踏み入れながら、カレンは得意げに振り返って微笑んだ。
「べ、便利っていうか……カレンちゃん、それ立派な犯罪技術だからね!?」
凪沙が周囲をキョロキョロと見回しながら、少し怯えたようにツッコミを入れる。
「はぁ……。うちのお父さんが見たら、その場で補導する案件よ、まったく」
美鈴も呆れたように深くため息をついたが、その顔に本気で怒っている様子はない。春一に至っては「カレンさんならこれくらい普通にやりそうだなって、もう驚かなくなってきた自分が怖いよ」と乾いた笑いを漏らしている。
屋上の隅、コンクリートの塀の陰になる風通しの良い場所に四人で陣取り、それぞれのお弁当を広げた。
カレンのお弁当は、今日も相変わらず完璧な仕事ぶりを発揮するメイドのシャーロットが用意した、英国風の美しいランチボックスだ。一口大のローストビーフのサンドイッチに、彩り豊かなサラダ。これなら、彼女の天敵である「お箸」という細い棒を使わずに、指先だけで優雅に食べることができる。
「それにしても、外の風に当たりながらの食事はやっぱり最高ですわね」
カレンはサンドイッチを口に運びながら、目を細めて真っ青な空を見上げた。
彼女はもう、この三人の前で「深窓の令嬢」という息苦しい仮面を被り続けるのをやめていた。
もちろん、長年染み付いた上品な言葉遣いや優雅な所作そのものが消えたわけではない。だが、その根底にあるロンドンの裏社会を駆け抜けていた本来のワイルドさを、一切隠そうとしなくなっていたのだ。
「ロンドンにいた頃も、よくこうやって高いところで食事をしていましたわ。ポリスとの激しいチェイスの後に、見つからないように廃ビルの屋上にバイクごと隠れて……下でパトカーがサイレンを鳴らして右往左往しているのを特等席で見下ろしながら、夜風に吹かれてジャンクフードを食べる。あれは最高にスリルがあって、良いスパイスでしたのよ」
カレンがさらりととんでもない武勇伝を語ると、春一が持参した焼きそばパンを喉に詰まらせて咽せた。
「げほっ……! カレンさん、本当にスケールが違う不良だったんだね……」
「不良だなんて失礼な。私はただ、退屈な日常に少しの刺激を求めていた、元気な女の子だっただけですわ」
「その元気のベクトルが完全に法を逸脱してんのよ」
美鈴がお茶の入った水筒のフタを閉めながら、的確なツッコミを入れる。
「でもさ」
凪沙が、卵焼きをかじりながら嬉しそうに目を細めた。
「こうやってカレンちゃんからイギリスの時の話を聞けるの、私すごく嬉しいな。だって、本当のカレンちゃんのことを教えてくれてるってことでしょ?」
その無邪気で真っ直ぐな言葉に、カレンはサンドイッチを伸ばそうとしていた手をピタリと止めた。
イギリスにいた頃、カレンの周りにいた人間は、常に家の権力や財力に群がるハイエナのような大人たちか、あるいはその日のスリルだけを共有する刹那的な夜の仲間たちだけだった。
『本当の自分を知りたい』と、打算なく真っ直ぐに向けられる好意。
それは、武器商人の娘として生きてきたカレンにとって、この極東の島国で初めて知った、とても眩しくて温かいものだった。
「……ええ、そうですわね」
カレンは少しだけ照れ隠しをするように、ふいっと顔をそらして髪を耳にかけた。
「あなた達には、もう隠し事はしませんわ。私の恐ろしい秘密を知ってしまったからには、一生私の退屈しのぎに付き合ってもらいますから、覚悟しておいてちょうだいね」
意地悪そうに微笑むカレンに、三人は顔を見合わせて笑い合った。
「望むところだよ!」と春一が笑い、凪沙と美鈴も大きく頷く。
初夏の抜けるような青空の下、風に揺れるプラチナブロンドの髪。
コンクリートの屋上で囲むささやかな昼食の時間は、昼と夜の境界線を越えて本当の自分を曝け出したカレンにとって、何よりも心地の良い、かけがえのない日常のひとコマとなっていた。
既に作品出来上がっているので、なるべく毎日投稿を心がけます。




