エピローグ
あれから半年が過ぎたある日の午後。
夏の名残を抱えながらも、街の風は少しずつ秋の気配を含みはじめていた。
菓子店の窓から差し込む柔らかな光が、並べられたケーキやタルトを照らし、穏やかな午後を金色に染めている。
その店の片隅で、ノアがタルトを頬張りながら首をかしげた。
「……兄さん、最近、味変わったね」
「え……」
不意の指摘に、ロルフは思わず声を詰まらせる。
「わ、私もそう思います!」
クレアが勢いよく同意した瞬間、ロルフの心臓は跳ね上がった。
色ボケでもしたか? 修行を怠ったか?
まさか……腕が落ちた?
冷たいものが胸を走り抜け、長年積み上げてきた菓子職人としての自尊心が揺らぐ。
だが、ノアは軽く笑って首を振った。
「いや、違う違う。美味しくなったんだよ。前よりもずっと」
「……え?」
確かに、この頃店の売り上げは伸びている。
常連客の来店頻度が増え、昼過ぎにはショーケースの空きが目立つようになった。以前は夕方まで残っていた定番のタルトが、今では正午を回る頃には姿を消す。
「今日はもうないの?」と残念そうに帰る客の背中を見送ることも、一度や二度ではなかった。
戸惑う兄に、ノアはにやりと笑い、まるで探偵のように仮説を立てる。
「もしかして、クレアちゃんのおかげじゃない?」
「えっ、わ、私……?」
クレアが頬を赤く染め、視線を泳がせる。
ノアは肩をすくめて言った。
「例えばさ……クレアちゃんの魔力が兄さんと相性よくて、うまく調和したとか。魔力の流れが整えば、菓子作りの精度だって上がる。兄さんの腕が急に伸びた理由としては、一番それっぽくない?」
「で、でも……魔力って、そんな簡単に受け渡しできるものじゃ……」
クレアが困惑する間もなく、ノアはさらりと爆弾を放った。
「ああ、特別なことでもした? 例えば――キスとか」
「なっ……!?」
「~~っっ!?」
ロルフとクレアが同時に顔を真っ赤にし、厨房の粉袋がボフッと崩れ落ちた。
ノアは肩を震わせ、笑いを堪えることなく声にした。
「何を照れてるんだか……いずれ夫婦になるんでしょう? どうやって子どもを作るんだか」
「~~~~っっっ!!」
クレアの顔がさらに紅潮し、やがて勢い任せに叫んだ。
「わ、私、たくさん子ども生みますね!! ロルフさんのお菓子作りのためにもっ!」
その言葉に、ロルフの胸は一気に熱くなり、頬はこれ以上ないほど真っ赤に染まった。
店内にはノアの笑い声が軽やかに響き、陽だまりのような温かさが広がっていく。
――そして後年。
子沢山の一家と、名を馳せる大きな洋菓子店が街に生まれることになる。
だが、それはまた別のお話。
♡HAPPY END♡
お読みいただきありがとうございました!!




