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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: YOLCA
第5章 帝国の女王-覚醒-

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孤高の回廊の宣告 ―

学園長室へと続く重厚な扉の向こうに、クロードが消えてから数分。

広大な回廊には、春の陽光が穏やかに差し込んでいましたが、エレーナが歩を進めるたびに、そこはまるで王宮の舞踏会会場のような、凛とした静寂に包まれていきました。

隣を歩くヒルダやテオドール、後ろを歩くカミラさえも、エレーナの纏う「格」の変貌に息を呑みます。かつての彼女が持っていた謙虚さは、今や「揺るぎない自信」という名の宝石へと昇華されていました。



「あら、クロード様がいらっしゃらないと、随分と心細そうですこと!」

扇を激しく動かしながら現れたフェミリア。背後には、彼女の機嫌を伺う令嬢たちが影のように付き従っています。

「殿下に守られなければ、一人で回廊を歩くこともできないのかしら? ロズレイドの義娘という『看板』がなければ、貴女なんてただの……」

フェミリアの言葉が、エレーナの目の前でぴたりと止まりました。

エレーナが、ただ優雅に足を止め、静かにフェミリアを見つめたからです。その視線は、怒りでも拒絶でもなく、まるで「季節外れに咲いた、不揃いな花」を眺めるような、どこか慈悲深いものでした。



「フェミリア様。……そんなに声を張り上げては、せっかくの美しいお声が枯れてしまいますわ」

エレーナの声は、回廊の隅々にまで心地よく響く、清らかな鐘の音のようでした。彼女はマチルダに学んだ「女王の処世術」を、アマンダのような気品ある言い回しで紡ぎ出します。

「貴女は私が独りだと仰いましたけれど……私には、この学園の美しい光も、守ってくれる騎士も、そして何より、自分という確かな誇りが常に寄り添っておりますの。……独りであることを恐れるのは、自分自身を信じていない証拠ではありませんこと?」

「な、なんですって……!」

「真に高貴な方は、他者を貶めることで己を際立たせるような、お見苦しい真似はなさいません。……フェミリア様。貴女が今、私のデビュタントを案じてくださるのは、友情からかしら? それとも、私という鏡の中に、貴女自身の『焦燥』を映してしまっているから?」

エレーナはふっと、誰をも魅了するような、極上の微笑を浮かべました。

「もし後者であるならば、おいたわしいことですわ。……他人の失敗を願う時間は、貴女自身の美しさを削る毒にしかなりませんもの。貴女のその美しいドレスに相応しい、気高い心をお持ちになることを……切に願っておりますわね」


エレーナの言葉には、刺々しい毒はありません。しかし、その圧倒的な「正論」と「気品」は、フェミリアが必死に纏っていた虚勢を、一枚ずつ剥ぎ取っていくようでした。

周囲の生徒たちは、エレーナの凛とした美しさに、敵味方関係なく目を奪われていました。「これこそが、真のロズレイドの娘だ」という感嘆の囁きが漏れます。

「く……っ、な、なによ! 偉そうに……!」

フェミリアは言い返そうとしましたが、エレーナの瞳に宿る「カイル譲りの覇気」と「マチルダ譲りの威厳」に気圧され、言葉が喉に詰まります。

エレーナはそれ以上構うことなく、優雅に一礼カーテシーをして見せました。

「失礼いたしますわね。……皆様も、素敵な放課後をお過ごしくださいませ」

エレーナが歩き出すと、立ち塞がっていた令嬢たちは、磁石に引き寄せられるように自然と道を開けました。その背中は、もはや守られるべき「雛」ではなく、一国を背負う「女王」のそれでした。



その日の夕刻。

フェミリアは、崩れた化粧と涙でボロボロになりながら、母イザベラの元へ転がり込みました。

「お母様! エレーナが、あの女が……! 私に説教をしたのよ! まるで自分が、この世で一番尊い存在であるかのような顔をして!」

サロンのソファに座るイザベラは、娘の報告を聞き、持っていた刺繍針を指に突き立てました。

「……あの落ちこぼれが、女王の真似事をしたというの?」

イザベラの瞳が、嫉妬と怒りで真っ黒に染まります。

「ヴィンセント……貴方が拾ったあの子が、ここまで私を苛立たせるとは。……いいでしょう、フェミリア。デビュタントの夜、あの娘の『優雅な仮面』が絶望に染まる瞬間を、わたくしが用意して差し上げますわ」

イザベラの冷酷な笑いが、邸内に不気味に響き渡りました。

一方、エレーナは。

クロードが学園長室から解放され、真っ先に駆けつけてきた時、彼女はカミラと共に静かに茶を楽しんでいました。

「エレーナ! 大丈夫だったかい!? フェミリアが絡んできたと聞いて……」

「あら、殿下。……お疲れ様です。……ええ、とても『有意義な』お話ができましたわ」

エレーナの穏やかで、しかし確かな強さを湛えた微笑みに、クロードは言葉を失い、ただ彼女の変貌に胸を高鳴らせるのでした

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