真実の証明 ――捏造を追い越した奇跡の夜
測定石がドロドロの飴細工のようになった翌朝。
学園の演習場には、隣国から超特急で運び込まれた『代替の測定石』が据え付けられていました。
「……フェイ、準備はいいな」
ヴィンセントが、隈の浮いた顔で囁きます。
「はい、閣下。周辺の教師や生徒たちには『昨日の石は廃棄予定の旧型で、エレーナ様は解体訓練を行っただけだ』と根回し済みです。……あとはこの『内部が爆発寸前だった』という捏造報告書を陛下に受理していただければ、お嬢様の破壊は『正当な公務』になります」
彼らは必死でした。エレーナの「うっかり破壊」を「救世の破壊」という嘘に書き換えることで、彼女を不祥事から守ろうとしていたのです。
同じ頃、王宮のサンルームでは、エレーナを囲んでのお茶会が開かれていました。
そこには、片時も離れず影のように控える侍女カミラの姿もあります。
「エレーナ、本当に怪我がなくてよかった……!」
昨日の恐怖からようやく解放されたクロードが、感極まってエレーナの肩を抱き寄せようとしました。
パシッ!!
「いったぁっ!?」
電光石火の速さで、リサーナの扇がクロードの手の甲を叩き伏せました。
「クロード!!、わたくしがいつ『接触』を許可しましたの? エレーナが昨日、世界を……あ、失礼、石を壊したからといって、貴方が彼女のパーソナルスペースを侵害していい理由にはなりませんわ」
おばあ様は冷徹な眼差しで孫を射抜きます。
「エレーナは今、わたくしが捏造……いえ、『調整』した書類によって、危うい均衡の上に立っているのです。貴方の軽率な行動が彼女の評判を落とすこと、お分かりかしら?」
「……は、はい。申し訳ありません、おばあ様……」
クロードが項垂れる横で、エレーナは「まあ、クロード様ったら。わたくし、大丈夫ですわよ?」と、何も知らずに微笑んでいました。
そこへ、皇帝とヴィンセントが、震える足取りで乱入してきました。
「母上!! 大変です、捏造どころではありません!!」
皇帝が突きつけたのは、シオンによる最新の残骸解析データでした。
「陛下、落ち着きなさいな。嘘の書類ならヴィンセントが完璧に……」
「違うのです!! 私たちがエレーナを守るために捻り出した『石が爆発寸前だった』というあの嘘……あれ、本物だったのです!!」
「………………え?」
リサーナの扇が、手から滑り落ちました。
シオンの報告によれば、石の核には数百年前の設計ミスによる魔力壊死が溜まり、放置すれば今朝には帝都が消滅していたとのこと。
「……エレーナが、たまたま、測定しようとしてぶつけた魔力が、ピンポイントでその『爆弾』を焼き払っていました。……捏造する必要なんてなかった。本当におエレーナが壊さなければ、我々は今頃死んでいたのです!!」
「…………っ?!」
おばあ様は、顔を真っ赤にして絶句しました。
「わたくし……あの子の『純粋な測定』を、不名誉な事故として隠そうとして……あんなに策士ぶって……恥ずかしい嘘を塗り固めていたのに……!」
己の浅はかさを恥じ、おばあ様は扇で顔を隠して沈黙しました。
夕刻。
すべての騒動を「何も知らないまま」終えたエレーナは、宿舎へと帰る馬車の中にいました。
隣には、相変わらず無表情で、しかしどこか誇らしげに背筋を伸ばしたカミラが座っています。
「カミラ様、皆様なんだかお顔を真っ赤にして、変な雰囲気でしたわね。わたくし、やっぱり何か失敗してしまったのかしら……」
不安げに尋ねるエレーナに、カミラはわずかに口角を上げました。
「いいえ、お嬢様。皆様、お嬢様の『あまりに完璧な測定』に、感極まっておられただけですわ」
「……そうなのですか? お掃除の練習、もっと頑張らなくてはいけませんわね」
エレーナがコックリと眠りにつく中、カミラは窓の外の帝都を見つめました。
(たまたま……いえ。お嬢様のその『白さ』こそが、この国に溜まった澱(汚れ)を、本能的に弾き飛ばしたのでしょう)
馬車は静かに、夕闇に包まれた学園の宿舎へと滑り込んでいきました。
明日からは、捏造の必要すらなくなった「救世主エレーナ」としての伝説が、学園中に広まることになるとも知らずに。




