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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: YOLCA
第4章 至宝の覚醒-運命を塗り替えるまで

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ロズレイド予備校、開講! ――至宝を磨く六人の師と一年の約束―

王宮での「試験」を完璧な淑女の姿でパスし、皇帝をも感嘆させたエレーナ。しかし、公爵邸に戻りコルセットを脱ぎ捨てた彼女は、相変わらずバッシュやカインと庭を駆け回る「野生の至宝」に戻っていました。

そんなある日の午後。リサーナ皇太后は、テラスでくつろぐヴィンセントを前に、優雅に、しかし逃げ場のないトーンで切り出しました。

「ねえ、ヴィンセント。あの子の『学校』、どうさせるつもり?」

ヴィンセントは紅茶を吹き出しそうになりました。

「学校……ですか? 母上、エレーナはまだ11歳。教育ならこの屋敷に最高の人材が揃っておりますし、何も急いで世俗の荒波に揉まれる必要は……」

「甘いわね」

リサーナの扇子が机を叩きました。

「15歳になれば王立アカデミーへの入学は避けられない。けれど、いきなりそこに放り込むのは、牙を抜いた獅子を戦場に放り出すようなものよ。あの子に必要なのは、家柄や実力だけではない『貴族社会の縮図』での立ち回り。12歳……来年の春から、中等部へ途中入学させなさい」

「12歳で途中入学!? あと一年もありませんよ!」

「だからこそ、今日から鍛え上げるのよ。ロズレイドの総力を挙げてね」

その一言で、公爵邸の全使用人と騎士たちに激震が走りました。


リサーナの号令により、屋敷の会議室には帝国の重鎮から裏のスペシャリストまでが勢揃いしました。

「エレーナを、ただの『可愛い秀才』ではなく、誰にも傷つけられない『完璧な守護者』として送り出す」

その目的のために、兄たちと部隊長たちは自らの「異能スキル」を教育カリキュラムへと落とし込みました。

「エレーナ、今日から週に三回、私たちが貴女の師となります」

長男アルベルトの宣言とともに、伝説の「ロズレイド予備校」が幕を開けたのです。


担当:アルベルト(立法天才) & ゼノ(断頭台)

初日の火曜日。エレーナを待っていたのは、山のように積まれた法典と歴史書でした。

「エレーナ、私の【並列思考】を教える。これは単なる勉強術ではない」

アルベルトは冷徹なまでの知性で語りかけます。

「学校の教室で、教師の言葉を理解しながら、同時に周囲の生徒30人の表情を読み、さらに次の時間の準備をする。意識をレイヤーのように重ねるんだ。これができれば、君はパニックになることはない」

隣でゼノが、冷たい輝きを放つ懐中時計を取り出しました。

「お嬢様、私の『断頭台』の極意は、最短距離での処断。この複雑な数式を3秒で解きなさい。無駄な思考を切り捨て、本質だけを掴むのです。それができれば、どんな意地悪な質問も一言で切り返せます」

「うう、お兄様たち……目が怖いよ……。でも、やってみる!」

知恵熱を出しそうになりながらも、エレーナの驚異的な記憶力が火を吹き始めました。



担当:フェイ(主席補佐官) & カイン & シオン(ミラー・ゲート)

「お嬢、俺の番ですね」

フェイは魔導調査局の主席補佐官としての顔を見せました。

「【虚空の糸】を教えます。魔法を『力』で打ち消すのは野蛮だ。魔法の術式を糸で解体するコツを掴めば、誰かが自分に嫌がらせの魔法をかけようとしても、発動前にバラバラにできる。……調査局の人間として、物の仕組みを見抜く目を持ってください」

さらに、カインとシオンが周囲の空間を歪ませます。

「僕たちの【ミラー・ゲート】は、認識の阻害だ。エレーナ、学校ではあまりに凄まじい能力を見せちゃダメだよ。君が10メートル跳んでも、周囲には『30センチ跳んだ』ように見せる。自分の情報をコントロールする外交術、これが身を守る結界になるんだ」

「えーっ! 凄すぎるよ! 手品みたい!」

エレーナは、フェイの糸を操りながら、魔法の「裏側」を覗く楽しさに目覚めていきました。


担当:ジュリアン(近衛騎士) & バッシュ(収穫者)

最後は実戦。しかし、あくまで「令嬢」として。

「エレーナ! 私の【瞬刻】は、戦場を駆けるためのもの。でも君には、お茶会でティーカップが倒れそうな時、誰にも気づかれずに支える『美しき速度』として教えるよ!」

ジュリアンが舞うようにレイピアを振るえば、エレーナも扇子を手にそれに応じます。

「そしてお嬢様、私の『収穫者』」

大男バッシュが、羽毛のように優しくエレーナの手を取りました。

「力任せに相手を投げてはいけません。相手の重心がどこにあるかを感じ、そっと『刈り取る』。そうすれば、ドレスを一ミリも汚さずに、不届き者を地面に平伏させることができます」

「バッシュ、今の投げ方、お淑やかだった!?」

「ええ、お嬢様。まるで花が散るようでしたよ」



特訓は過酷でしたが、エレーナは一度も「やめたい」とは言いませんでした。

それどころか、日を追うごとに彼女の瞳には、騎士の鋭さと淑女の気品、そして魔導師の深淵が同居し始めます。

ヴィンセント公爵は、夜遅くまで灯りが消えない勉強部屋を見て、リサーナにこぼしました。

「母上……あんなに詰め込んで、エレーナは壊れてしまわないでしょうか。私は心配で……」

「ヴィンセント。あの子の力を侮ってはいけないわ。ロズレイドの男たちが束になって教えているのは、知識じゃない。あの子が外の世界で、自分らしく、自由に笑っていられるための『余裕』よ。……力があるからこそ、あの子は誰に対しても優しく、淑やかでいられるの」

リサーナの予感通り、エレーナは「物覚えがいい」というレベルを超え、六人の師匠の能力を自分の中で「令嬢用」にカスタマイズして統合し始めました。


特訓開始から約一年。入学を数日後に控えた夜。

エレーナは鏡の前で、学校の制服に身を包んでいました。

その脳内では、アルベルトの【並列思考】が学校の地図を解析し、フェイの【魔導調査】が制服の保護魔法をチェックしています。しかし、顔に浮かんでいるのは、マギーから教わった完璧な、そして最高に愛らしい「笑顔」でした。

「お父様、お兄様。みんな。……私、学校に行ってくるね! 最高の令嬢になって、みんなをびっくりさせちゃうんだから!」

ロズレイド公爵邸の門が開くその時。

中に入っているのは、ただの12歳の少女ではありません。

帝国の知略、武力、魔導、そして最高の気品を一身に受け継いだ、「史上最強の途中入学生」が、いよいよ外の世界へと解き放たれようとしていたのです。

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