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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: YOLCA
第4章 至宝の覚醒-運命を塗り替えるまで

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再訪、王宮の試験 ――軍礼から至宝の微笑みへ――

特訓開始から2ヶ月。ロズレイド公爵邸の門を、一台の馬車が出発しました。

中に座るのは、リサーナ皇太后と、背筋を真っ直ぐに伸ばしたエレーナ。

「エレーナ、緊張しているかしら?」

「……はい、おばあ様。でも、マギーとクラウスが教えてくれたことを信じて頑張りますわ」

その声は、かつての元気一辺倒ではなく、鈴を転がすような透明感と落ち着きを持っていました。


エレーナは「ON」のスイッチをしっかりと入れ、王宮へと乗り込みます。


一年前、同じ場所でエレーナは、騎士顔負けの見事な「軍礼」を披露し、皇帝ジークフリートを驚かせました。

今回、玉座に座る皇帝と、その隣の王妃エルシアの前に現れたエレーナは、全くの別人でした。


重厚な扉がゆっくりと左右に開かれた瞬間、謁見の間に集まっていた文官や近衛騎士の視線が一箇所に集まりました。

「……っ、あれが、ロズレイドの……?」

「前の、あの『小さな騎士』か?」

囁き声が波のように広がります。

現れたエレーナは、まるで春の陽だまりを纏ったかのような柔らかで、それでいて凛としたオーラを放っていました。一歩歩くごとに、シルクのドレスが優雅な旋律を奏でるかのように揺れ、その視線はどこまでも澄み渡っています。


「……信じられん。わずか二ヶ月前、練兵場で泥にまみれ、鋭い軍礼を捧げていたあの少女か?」

「あの時は『若き獅子』のようだったが……今はまるで、朝露に濡れる大輪の薔薇ではないか」


「なんという変わりようだ……。以前のあの、鋭く尖ったような空気はどこへ行ったのだ」

「所作の一つ一つに、ロズレイドの血筋が誇る高貴さが溢れている……」

居並ぶ人々は、ただその変貌ぶりに圧倒されていました。それは、かつての「武の美」ではなく、見る者を平伏させる「格式の美」でした。


列の端で、公爵としての威厳を保ちながら立っていたヴィンセントは、内側で爆発しそうなほどの誇らしさと闘っていました。

(……見たか、諸君。あれが私の、いや、ロズレイドの至宝だ。……ああ、エレーナ。君はなんて美しいんだ。マギーやクラウスの特訓によく耐えた。一年前のあの軍礼も誇らしかったが、今の君の立ち振る舞いは、もはや神々しいほどだよ)


無表情を貫く彼の頬が、わずかに緩みそうになります。

(本当は今すぐ駆け寄って、『さすが私の娘だ!』と大声で自慢したい……! アルベルトやジュリアンにもこの光景を特等席で見せてやりたかった……!)

その心の中は、世界一の親バカとしての自慢話で一杯でした。


エレーナの斜め後ろを歩くリサーナ皇太后。彼女は扇子で口元を隠しながら、満足げに孫娘の背中を見つめていました。

(ふふ、驚くがいいわ。これが私と、あのマギーたちが磨き上げた結晶よ。……正直、あのお転婆だった子が、二ヶ月でここまで『化ける』とは思わなかったけれど。やはりあの子の中には、ベルシュタインとロズレイド、繋がってはいないけど二つの高貴な血が熱く流れている。……)

リサーナは、エレーナの完璧な歩法が、実はかつての「騎士の歩法」を極限まで洗練させたものであることを知っていました。彼女にとって、今のエレーナは「最高傑作」でした。


「……まあ……っ」

王妃エルシアは、エレーナが自分の前で流れるようなカーテシーを披露した瞬間、思わず身を乗り出しました。

「エレーナちゃん……。二ヶ月前、あの凛々しい軍礼を見せてくれた時も素敵だったけれど……。今の貴女は、まるでこの王宮そのものを浄化するような美しさだわ。本当に、よく頑張ったわね……!」

エルシアの瞳には、親戚の叔母のような深い情愛と、一人の少女が短期間で成し遂げた成長への感動が溢れていました。


「……うむ。見事だ。見事すぎて、言葉も出ん」

皇帝ジークフリートは、玉座に深く背を預け、腕を組んでエレーナを凝視しました。

「所作、言葉遣い、そしてその眼差し。どれをとっても帝国の第一皇女として通るレベルだ。……だがな、エレーナ。ワシは、変な男だと思わないで聴いてほしい」

皇帝は少し身を乗り出し、いたずらっぽく、しかし真剣な眼差しで告げました。

「つい二ヶ月前だ。この場所で、お前がバシッと音を立てて踵を揃え、誰よりも鋭い『軍礼』を見せてくれた。あの時の、戦士としての清々しい風……。正直に言えば、ワシはあの『かっこいいエレーナ』の方が、少しだけ恋しい。この完璧な淑女姿を見せられると、なんだか遠い存在になってしまったようで、少し寂しいのだよ」


皇帝の率直すぎる言葉に、会場にクスクスと笑い声が漏れました。

エレーナは、一瞬だけ完璧な令嬢の仮面を緩め、パッと顔を輝かせました。

「陛下! ……私も、本当は軍礼の方が『気合』が入って好きなんです! でも、おばあ様が『今日一日は、絶対に右手の拳を握ってはダメよ』って仰るものですから……!」

「ガハハハハ! そうか、やはり中身はあの時のままだな!」

皇帝の豪快な笑い声が響き渡り、緊張感に包まれていた謁見の間は、一気に和やかな空気に包まれました。

二ヶ月前の「強さ」を胸に秘め、今の「美しさ」を纏ったエレーナ。

その姿に、会場にいた誰もが、彼女が帝国の未来を照らす唯一無二の存在であることを確信したのでした。

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