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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: ヨォコ
第3章:広がる世界と、七歳の肖像

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最強のリサーナ、再来

ヴィンセントが王宮で捕まった。犯人は、実母にして前皇太后、リサーナ。

彼女は、出し抜かれた腹いせに皇帝(長男)から巻き上げた「私費による最高級ドレス」の山と共に、ヴィンセントを強制連行して公爵邸へ戻ってきたのだ。

「エレーナ、おばあ様よ! 素敵な服を持ってきてあげたわ!」

部屋でアンと絵本を読んでいたエレーナは、突然の爆音と共に現れた「強そうなおばあ様」に肩を跳ねさせた。だが、ヴィンセントが背後で「大丈夫だ、私の母上だ」と必死にフォローする。

「……お、……おばあ、さま……」

エレーナが勇気を振り絞って呼ぶと、リサーナは一瞬でメロメロになった。

「まあ! なんて愛らしいの! ヴィンセント、聞いた!? この子が私を『おばあ様』って! ああ、もう王宮に連れ帰って広場に飾りたいわ!」

「許可しません。絶対に」

リサーナは満足げに鼻を鳴らすと、次に邸内の男臭さに眉を寄せた。

「アン、あなたは優しいけれど、万が一の時にこの子を抱えて戦うには心許ないわ。私の直属から、女騎士のカミラを付けるわね。……いいわね?」

有無を言わさぬ母の決定。こうして、エレーナの周囲はさらに鉄壁(と騒がしさ)を増すことになった。


「お、腹減ったー! 今日は肉料理だってさ!」

「……バッシュ、邸内では静粛にしろと言ったはずだ。図書館の規定……ではなく、私の規則だ」

賑やかな足音と共に、幹部たちが続々と食堂になだれ込んできた。

第一部隊長フェイ、第二・第三の双子カインとシオン、そして本を片手に現れた第四部隊長ゼノに、巨漢の第五部隊長バッシュ。その後ろには、アカデミー帰りの息子たち。

だが、上座に座る「真の支配者」を見た瞬間、空気は絶対零度まで凍り付いた。

「あら。逃げ出す前に、まずは挨拶かしら?」

「「「「「こ、皇太后様!!!」」」」」

全員が脱兎のごとく踵を返したが、その背後には新任の女騎士カミラが立ちはだかっていた。

「……逃がしません。お座りください」



リサーナの鋭い視線に晒され、息子たちはパニックに陥った。彼らは「エレーナに有能さを見せねば」と、能力を明後日の方向へ爆走させ始める。

まず動いたのは、次男ジュリアンだ。

「父上! 僕がやります! 能力『瞬刻クロノス』を使い、マッハの速さでリンゴを剥き続ける男になります! ウサギを100羽ほど作れば、エレーナも興味を持つはずだ!」

ジュリアンの侍従、リュカは顔を覆った。

(……バカだ。我が主ながら、救いようのないバカだ。近衛騎士の天才が、能力をリンゴの大量生産に使うな! なんで刃物なんだ! お嬢様からすれば処刑前夜のサービスだぞ!)

続いて、長男アルベルトが冷徹な瞳(パニック中)で身を乗り出す。

「父上、僕は能力『並列思考マルチ・パス』を全開にし、片方の脳で魔導書を読みつつ、もう片方の脳であの子の心拍と体温を完全監視する。名付けて『全自動見守りスタチュー』だ」

アルベルトの侍従、ハンスは天を仰いだ。

(能力を『24時間生体監視』に使うな! なんで監視カメラになろうとするんだ! お嬢様に気味悪がられて一生のトラウマを植え付ける気か!)

「あら、二人とも随分と……個性的ね」

リサーナの扇子が鳴る。視線は部隊長たちへ。

第四部隊長ゼノは、愛読書で顔を隠しながら小刻みに震えていた。

「……エ、エレーナ様。知性こそが盾です。図書館から持ち出したこの古文書を朗読します……」

侍従のテオは冷ややかな目で主君を見た。

(インドア隊長が何を教育パパぶってるんだ。お嬢様は5歳だぞ。そんなカビ臭い本読んだら、読み終わる前に寝るか泣くかの二択だ!)

第一部隊長フェイは、能力『虚空の糸』でエレーナのナプキンを優雅に整えようとしたが、指が震えて糸が絡まりそうになっている。

侍従のジョエルは冷や汗を拭った。

(フェイ様、糸でエレーナ様を縛り上げたら即刻打ち首ですよ……!)

双子のカインとシオンは、能力『ミラー・ゲート』で、エレーナの皿に好物を無言で転送し合い、どれを出すべきか高速で揉めていた。

(ゲートをそんな、つまみ食いの転送に使うな!/ヴィンセント心の声)


「ゼノ、あなた。本ばかり読んでいないでエレーナの顔を見なさい。そんなに隠したいなら、図書館の書庫に一生埋めてあげましょうか?」

「ひっ、拝見させていただきます!!」

食堂に漂う戦場以上の緊張感。そんな中、エレーナがトコトコとフェイのそばへ歩み寄った。

「フェイさん……これ、どうぞ」

差し出されたのは、小さな飴玉だ。

「お、お嬢様……! ありがとうございます……これを心の支えに、皇太后様の試練を乗り越えます……!」

フェイは涙を流さんばかりに飴を拝んだ。

リサーナはそれを見て、満足げにワインを飲み干した。

「……いいわ。ヴィンセント、あなたの息子も部下も、能力の使い方は絶望的に間違えているけれど。……この子を愛していることだけは合格よ」

リサーナが立ち上がる。

「ヴィンセント。明日からマナー講師を派遣しようと思ったけれど……このバカバカしいほど懸命な姿に免じて、保留にしてあげる。ただし、ジュリアン。リンゴのウサギは3羽までになさい。怖いから」

「……は、はい!」

最強の母は、「また来るわね」とエレーナに極上の笑みを残し、嵐のように去っていった。



門が閉まった瞬間、食堂には深い、深いため息が充満した。

ゼノは本で顔を覆って椅子から滑り落ち、リュカとハンス、テオは魂を抜かれている。ジュリアンは剥きすぎたリンゴの山を前に呆然とし、アルベルトは知恵熱で頭を抱えていた。

「……みんな、生きてるか?」

ヴィンセントが声をかけると、バッシュが震えながら答えた。

「閣下……。おばあ様がいらっしゃる日は、最初から『能力の使用禁止』を全軍に布告してください……」

ヴィンセントは、膝の上に乗ってきたエレーナを抱きしめ、心から思った。

我が家の能力者たちは、愛が深すぎて全員使い道を間違えているのだと。

「おとうさま、みんな、リンゴたべる?」

不思議そうに首を傾げるエレーナに、ヴィンセントは精一杯の「パパの顔」で答えた。

「ああ、エレーナ。……みんなで食べよう。ジュリアンが命(能力)を削って作った、大量のウサギをな」

ロゼレイド公爵邸。新たな守護者カミラと、最強の介入者リサーナ。

「死神」の家は、今日も愛とツッコミに溢れた、騒がしい夜を過ごすのであった。

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