表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: ヨォコ
黄金の瞳の令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/34

黄金の瞳の記憶

それは、今でも時折、雪の降る夜に思い出す記憶。

 三歳の冬、エレーナは「母様は遠いお空へ行った」と聞かされた。馬車の事故だった。

 まだ幼かったエレーナは、泣き崩れる父・ロイス伯爵の膝にしがみつき、その時初めて無意識に能力を使った。父の視界と共有し、彼の深い悲しみを、自分のことのように感じ取ったのだ。

「……父様、泣かないで。エレーナがずっとそばにいるわ」

 父は、その時黄金色に輝いた娘の瞳を「なんて美しく、優しい瞳なんだ」と抱きしめてくれた。

 伯爵家の使用人たちも、不思議な力を持つエレーナを「天使の贈り物」「家の守り神」と呼び、誰もが彼女を愛していた。エレーナが瞳を光らせて探し物を見つけたり、悲しんでいる人の心を癒やすたび、屋敷は温かな笑顔に包まれていた。

 ――けれど。その温もりは、継母イザベラがやってきたあの日から、音を立てて崩れ去った。

「まぁ、可愛らしいお嬢様。私が本当の母親の代わりになりますわね」

 父の前で、イザベラは聖母のような笑みを浮かべていた。連れ子の義妹も、初めは人懐っこい妹を演じていた。

 だが、父が仕事で屋敷を空けた瞬間、その仮面は剥がれ落ちる。

 きっかけは、エレーナが義妹のために、能力を使って失くしたブローチを見つけてあげた時だった。

「――見てしまったわ。その、気味の悪い目」

 イザベラの声は氷のように冷たかった。

 それまで優しかった彼女の瞳に、明確な「嫌悪」と「恐怖」が宿ったのを、エレーナは見逃さなかった。

 それ以来、父がいない時間は地獄へと変わった。

 エレーナは食事を抜かれ、義妹のお下がりばかりを与えられた。

「化け物の血がうつる」という身勝手な理由で、イザベラはエレーナを暗い納戸に閉じ込めるようになった。

「お嬢様、これを……!」

 密かにパンを運んでくれたり、エレーナを庇い続けてくれた古参のメイドたち。

 しかし、彼女たちも一人、また一人と「不祥事」を捏造されて解雇されていく。

 代わりに入ってきたのは、イザベラに忠誠を誓い、エレーナを「化け物」と蔑んであざ笑う、冷酷な使用人たちばかりだった。

 実の父の耳に届くのは、イザベラが作り上げた「エレーナ様は最近、亡き母様を想って部屋に引きこもりがちなのです」という嘘ばかり。

 エレーナの黄金の瞳は、愛を分かち合うための光から、自分に向けられる悪意を鮮明に映し出すだけの、呪わしい鏡へと成り果てていた――。

鏡の中に映る自分は、日に日に幽霊のように透き通っていった。

 頬はこけ、手足は枝のように細くなり、大好きだったドレスはどれもぶかぶかで肩からずり落ちる。

「……お腹、すいた……」

 お父様がいる夕食の席。目の前には、亡き母が好きだった香ばしいローストビーフや、湯気を立てるスープが並んでいる。

 けれど、私の皿に盛られているのは、継母が「消化に良いから」と微笑みながら差し出す、味のしない薄いお粥がほんの数口分だけ。

「エレーナ、本当にそれでいいのか? もっと肉を食べなさい」

「……はい、お父様。でも……」

 言いかけた私の足の下で、継母の靴先が、私の細い足首をギリリと踏みつけた。

 声にならない悲鳴が喉で止まる。

「あらあなた、無理をさせてはダメですよ。エレーナさんは最近、亡きお母様を思い出して悲しにくれているみたいで、食欲もないみたいで、食べてと言っても中々食べてくれませんの。無理に食べて戻してしまっては大変ですわ!」

「そうなのか……? それは心配だ!体だけは大切にしないといけない!けど無理して食べて欲しいが、、、あとで医者を呼びなさい。」

「あとでみてもらうことにしますわ。」

 お父様は継母の話を真面目に信じてしまい、話は終わってしまった。

 実際には、お父様がいない時間は一滴のスープすら許されず、台所の残り物を漁ろうとすれば、継母のメイドたちに「化け物の分際で」と汚水をかけられる毎日だというのに。

 能力を使えば、継母の頭の中にある『このまま衰弱死すれば、病死として処理できる。そうすればこの家の財産はすべて私と娘のものよ』という、おぞましい思考が黄金の瞳に流れ込んでくる。

 視える。視えてしまうのに、救いがない。

 空腹と絶望で、視界がチカチカと火花を散らす。

「(助けて……誰か、お父様……お腹がすいて、死んじゃうよ……)」

 ついには自力で歩く体力も失い、部屋の隅で丸まる私を、継母はゴミを見るような目で見下ろして言い放った。

「そんなにその目が不気味に光るなら、いっそ一生眠っていなさい。化け物にふさわしい、冷たい場所でね」

 そして、お父様が仕事のため長期外交に出発したその夜。

 私はついに、薄い部屋着一枚のまま、吹雪の舞う馬車へと放り込まれた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ