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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: ヨォコ
黄金の瞳の覚醒

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断罪と宣告の朝食会

ロゼレイド公爵邸の食堂。

長男アルベルトと次男ジュリアンは、それぞれの従者――シモンとカイルを背後に従え、石像のように硬直して座っていた。

本来なら、今朝の話題は「昨夜、父が皇帝陛下とどんな秘談を交わしたか」であるはずだった。しかし、二人の頭を占めているのは、今朝がた目撃した、本棚の隙間で震えていたあの痩せ細った少女のことだけだった。

そこへ、軍靴の音を響かせてヴィンセントが入室してきた。傍らには家令のクラウスが、反対側にはメイド長のマギーが控えている。

ヴィンセントは席に着くなり、息子たちを射抜くような黄金の瞳で見据えた。

「……マギーから聞いたぞ。お前たち、今朝がた私の言いつけを無視して、あの子の部屋に押し入ったそうだな」

低い、地を這うような声。しかし、その声には怒りよりも、何かを急ぐような焦燥が混じっていた。

「そ、れは……父上があまりに急に連れて帰られるから……」

「言い訳はいい。シモン、カイル。お前たちもだ。主人が分別のない真似をしようとしたなら、首を掴んででも止めるのが従者の役目だろう。……まあいい、今回は不問に処す。それより、マギー」

ヴィンセントは息子たちの謝罪を待たず、メイド長を振り返った。

「あの子の顔色はどうだ。スープは本当に足りているのか? 今すぐ帝都から最高の医師を呼び寄せろ。いや、一人では足りん。栄養学、精神医学、小児治療の権威を片っ端から集めるのだ。……あんな隙間に逃げ込むような状態、一刻を争う」

「閣下、落ち着いてくださいませ。お嬢様には今、一番必要なのは休息と静寂です。医師の団臨など、今のあの子には恐怖でしかありませんわ」

マギーの冷静な指摘に、ヴィンセントは忌々しげに舌打ちをした。彼は、自分が認めた「価値あるもの」が損なわれている状態が、我慢ならなかったのだ。

「……お前たちが驚くのも無理はない。昨夜は陛下と遅くまで酌み交わしていてな。陛下とは気心の知れた仲だ。酒が進むうちに、陛下が笑いながらこう仰ったのだ。『ヴィンセント、お前もいい加減、身を固めて娘の一人も持ってみたらどうだ? 私はお前の娘というものが、見てみたくてたまらんのだ』とな」

「皇帝陛下が、そんなことを……」

「ああ。私もその時は笑って聞き流していた。だが、その帰り道、吹雪の雪原に、あの子がいた。誰の目にも止まらぬまま、凍え死ぬのを待つだけの、名もなき命だ。……だが、あの子を抱き上げた瞬間、私は確信した。陛下が仰った『私の娘』は、この子のことだと」

ヴィンセントはコーヒーを一気に煽り、どこか熱を帯びた瞳で続けた。

「あの子の瞳を見た瞬間、私の中に眠っていた何かが告げたのだ。こいつはただの子供ではない。吹雪を凪がせるほどの『異能』の萌芽を秘めた、世界に唯一の素材だと。……そんな宝を、あんなボロ布のように扱っていた奴らがいると思うと、虫唾が走る」

ヴィンセントは椅子に深く背を預け、息子たちを真っ直ぐに見つめた。

「いいか、よく聞け。あの子は今日から、私の娘だ。お前たちの妹だ。……今はまだ、あの子を家族として認められなくても構わん。いきなり愛せなどとは言わん。だが、あの子はあまりに脆い。風が吹けば折れそうなほどにな」

ヴィンセントの声から鋭さが消え、一人の父親としての、不器用な責任感が言葉に乗る。

「お前たちはロゼレイドの息子だろう。なら、まずは一人の兄として、責任を持ってあの子の面倒を見てやれ。あの子がこの屋敷で、誰に遠慮することもなく、まずは健康な体を取り戻せるようにしてやるのが、お前たちの仕事だ。あの子を驚かせたり、不安にさせたりする真似は、この私が許さん」

「……兄としての、責任」

「はい、父上。……肝に銘じます」

二人が声を絞り出すように答えると、ヴィンセントは満足げに頷き、隣に控えるクラウスを振り返った。

「クラウス、今すぐ帝都で最も高価な栄養剤と、一番肌触りの良い寝具を買い占めてこい。あの隙間に敷ける特注のマットもだ」

「閣下、まずは落ち着いて朝食を。……お嬢様の健康管理は、マギーと相談の上、段階的に進めております。隙間のマットも、特注するよりは今のままで安心させて差し上げるのが上策かと」

老執事のたしなめに、ヴィンセントは不服そうに鼻を鳴らした。

「……チッ。どいつもこいつも、私より慎重すぎないか?」

その様子を見て、アルベルトとジュリアンは顔を見合わせた。自分たちの父は、どうやら「娘」ができたことで、かつてないほど冷静さを欠いている。

「さあ、朝飯を済ませろ。その後、お前たちの『妹』に挨拶をさせてやる。……マギー、エレーナの顔色が少しでも悪ければ、すぐに中止だ。いいな?」

「承知いたしましたわ、お父様」

マギーの少しからかうような返事に、ヴィンセントはむっとしながらも、ようやく朝食に手を付け始めた。

嵐のような朝食会を経て、ロゼレイド公爵家に、新しい「日常」が動き出そうとしていた。

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