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• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』  作者: ヨォコ
黄金の瞳の令嬢

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黄金の瞳と町の守護者たち


帝都の午後の陽光が、活気あふれる中央広場を照らしていた。

 その喧騒を切り裂くように、一人の男が必死の形相で駆け抜ける。

「どけ! どけぇっ!!」

 男が突き飛ばした果物の籠が宙に舞い、色鮮やかなリンゴが石畳に転がった。

「おっと! 今日は一段と威勢がいいねぇ!」

 露店の店主が呑気に声を上げた直後、風のように三つの影が通り過ぎる。

「おじさん、ごめん! リンゴは後でカインが代金を払うわ!」

「えっ、僕が!? ……もう、エレーナは人使いが荒いなぁ!」

 屋根の縁を軽やかに跳ねる少女――エレーナが鈴を転がすような声で叫び、地上を走る青年、カインとリアムが苦笑いしながらも男を追い詰めていく。

 町の人々は、彼らが通るたびに「エレーナちゃん、頑張れ!」「カイン君、今日は一段と速いね!」と親しげに声をかける。彼らにとって、この三人は町の問題を解決してくれる「便利屋」のような身近な存在だった。

 だが、逃走中の男――ガルドス侯爵に雇われたスパイが、懐から魔導銃を取り出したことで空気は一変した。

「この、化け物どもが……! 来るな!」

 ——パァンッ!

 乾いた銃声。弾丸はカインたちを掠め、その先にいた、母親とはぐれて泣きじゃくる幼子の方へと吸い込まれていく。

「——いけない!」

 エレーナの瞳が、一瞬で鮮やかな黄金色に染まった。

 能力【視界共有】により、弾丸の軌道、風の抵抗、子供の怯えまでがスローモーションのように彼女の脳内に流れ込む。

 エレーナは屋根からダイブし、空中で身を翻すと、子供を抱きかかえて石畳を転がった。

「……大丈夫、怖くないわよ」

 着地した彼女は、子供の頭を優しく撫でて微笑む。だが、顔を上げた瞬間にその微笑みは消え、瞳には冷徹な光が宿った。

「カイン、リアム、追跡を一時中断。町の人に被害が出るわ。……ここは私が片付ける」

 エレーナは再び壁を蹴り上げ、垂直に近い壁を一気に駆け上がって屋根の上へと消えた。

 男が路地裏の袋小路に逃げ込み、勝利を確信して息を整えたその時――。

「——どこを見ているの?」

 頭上から、月を待たずして降り立った死神。いや、あまりに気高い「影」。

 男が驚愕して再び銃を構えようとした瞬間、エレーナの黄金の瞳が彼を射抜いた。

 【魅了チャーム】。

「……あ、あぁ……」

 男の腕から力が抜け、銃がカランと音を立てて落ちる。男の意識はエレーナの瞳に吸い込まれ、ただ恍惚とした表情で立ち尽くした。

「よく頑張ったわね。でも、悪い子の遊びはここまでよ」

 エレーナは男の手から、機密事項が記された文書を優雅に奪い取った。

 遅れて追いついてきたカインとリアムが、屋根の上で髪を整える彼女を仰ぎ見る。

「お疲れ様、エレーナ。やっぱり君の『目』からは誰も逃げられないね」

「さぁ、私たちの『家』へ帰りましょう。お父様とお兄様たちが待っているわ」



スパイから無事に機密文書を回収し、公爵家の騎士団にスパイを引き渡し

エレーナたちはいつものように町の人々と談笑しながら帰路についていた。


「エレーナ、今日はもう仕事終わり? 明日の朝、市場でとびきりのイチゴをのけておくよ!」

「ありがとう、おばさん! 楽しみにしてるわ」

 そんなやり取りをしていると、背後から馬の蹄の音が近づき、凛とした声が響いた。

「――やはり君か、エレーナ!」

 振り返ると、そこには白銀の甲冑を身に纏った騎士団の青年がいた。帝国が誇る五人の王子のうちの一人だ。彼は馬を降りると、爽やかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。

「……王子。こんな場所でどうされたのですか?」

「パトロール中だよ。だが、君の姿が見えたからついね。先程の騒ぎ、君が子供を助けたと聞いた。怪我はないかい?」

 心配そうに顔を覗き込む王子に、エレーナは「いつものことですから」と控えめに微笑む。しかし、後ろで控えていたカインとリアムは、面白くなさそうに顔を見合わせた。

「エレーナ、世間話もいいけど、閣下がお待ちだよ」

「そうですよ、早く帰らないとお兄様たちが玄関で仁王立ちして待ってますから」

 二人に促され、エレーナが「では、失礼します」と王子に別れを告げようとしたその時。

「――その通りだ。他家の男と長話をして、エレーナの体を冷やさせるわけにはいかないな」

 通りの先から、威圧感のある、けれど聞き慣れた低い声が響いた。

 人混みが割れ、現れたのはエレーナの兄の一人、アルベルトだった。彼は鋭い視線で王子を一瞥すると、迷いなくエレーナの隣に立ち、自分の上着を彼女の肩にかける。

「あ、アル兄様! 迎えに来てくれたの?」

「遅い。……ジュリアンが心配のあまり、騎士団に総動員をかけると言って聞きかなくてね。私が連れ戻しに来た」

 アルベルトは王子の挨拶を適当に受け流すと、エレーナの肩を抱き寄せた。

「さぁ、帰るぞ。温かい紅茶と、お前の好きな菓子を用意させてある」

 王子は苦笑いしながらも見送るしかなく、エレーナは兄やカインたちに囲まれながら、帝都で最も安全で、最も深い愛に満ちた「家」――ロズレイド公爵邸へと帰還するのだった。


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