示された三つの道
「で、これからどうするんですか?あの灰色の魔術師の情報は全くと言っていいほどありませんけど。」
カインがそう問いかけると、アルトリアは東屋の奥へと歩いていき、空中に手をかざした。すると、まるで透明な本棚から本を取り出すように、彼女の手には青白く光る水晶板が現れた。その表面には、無数の文字と図形が流れるように浮かび上がっている。
「情報がないわけではありません。ただ、その『情報』が常に矛盾しているのです」
彼女は水晶板をテーブルの上に置いた。すると、板から立体映像が浮かび上がり、世界地図のようなものが展開される。その地図の各所に、灰色の光点が点滅していた。
「これは、過去一万年の間に『灰色の魔術師』が観測された場所の記録です。ご覧の通り、時代も場所もバラバラ。しかし――」
アルトリアが指先で光点の一つに触れると、その場所の情報が展開された。古代王国の崩壊、魔法文明の突然の消失、英雄の不可解な死……すべてに共通するのは、「歴史が大きく動いた瞬間」だということ。
「あの者は、『歴史の転換点』に必ず現れます。そして、その場所で何かを『灰に還す』。文明、人物、技術――対象は様々ですが、共通しているのは……」
彼女は深く息を吸い、静かに告げた。
「それらが『未来に大きな影響を与えるはずだったもの』だということです。つまり、灰色の魔術師は――歴史そのものを、意図的に『間引いている』」
アルトリアは水晶板を消し、カインの方を向いた。
「私が今まで倒せなかった理由は、単純に力が及ばなかったからだけではありません。あの者は『因果の外側』にいるのです。時間操作も、空間攻撃も、概念兵装すら――すべてが『当たる前に灰になる』。まるで、この世界の物理法則そのものが、あの者を拒絶しているかのように」
彼女はカインの手に刻まれた『刻の銀盤』の刻印を見つめた。
「ですが――あなたの聖遺物は違う。『刻の銀盤』は、失われた時間を『修復する』力を持つ。つまり、灰色の魔術師が『消し去った歴史』を、一時的にでも『元に戻す』ことができる可能性がある」
刻の銀盤とアストラル・クロノスが僅かに点滅する。そしてアルトリアの瞳に、初めて希望の光が宿った。
「私の『アストラル・クロノス』が時間を『断つ』剣ならば、あなたの『刻の銀盤』は時間を『繋ぐ』盾。この二つが揃えば――灰色の魔術師を、因果の内側に引きずり出せるかもしれません」
彼女は立ち上がり、カインに向かって真剣な表情で告げた。
「まず、私たちは灰色の魔術師が次に現れる場所を予測する必要があります。星霜の時計塔には、『未確定の特異点』――近い未来に歴史が大きく揺らぐ可能性のある場所のリストがあります」
アルトリアは再び空中に手をかざし、今度は三つの鏡を出現させた。それぞれに地名と状況が記されている。
「候補は三つ。一つ目は『シュレージエン王国』――エクセリオン様が治める炎と光の国。近日中に、隣国との大規模な戦争が勃発する予兆があります。戦争が起これば何千もの人が殺されるでしょう。」
そう言うと一つの鏡はシュレージエン王国の姿を映す。それは星のような形をした巨大な城壁で、外側に農民が、中には市民が暮らしている映像が映った。
「二つ目は『東方の忍びの里』――アリア率いる暗殺者組織の本拠地。何者かが、里に伝わる『時を操る秘伝書』を狙っているという情報があります。もしそれが灰色の魔術師の手に渡れば、さらに強大な力を得る可能性があります。」
「忍びの里.....」
鏡の表面が波立ち、霧の向こう側に景色が浮かび上がる。
カインは忍びの里という単語に反応するが、アルトリアは構わずに三つ目の鏡を指差した。それは、他の二つよりも鏡が濁っており、時空が歪んでいることを予感させる。
「そして三つ目――『失われた古代都市ルーンヘイム』。この場所は、かつて時間魔術の研究が最も盛んだった都市の遺跡です。最近、封印が弱まり、内部から異常な時間の波動が観測されています。もし灰色の魔術師が、古代の禁術を手に入れようとしているなら……」
彼女は言葉を切り、カインの目を見つめた。
「どこから調査を始めますか、カイン? あなたならどうしますか?」




