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静止した庭園

.....しばらく考えたのち、カインはアルトリアと手を組むことを選択した。里のみんなを元に戻せなくなるかもしれないが、断ったら殺され、灰色の魔術師を殺すことすら達成できない。だったら手を組んだほうがマシだし、灰色の魔術師を殺した後にもしかしたら戻せるかもしれないという一縷の望みに賭けるしかなかった。


「、、、わかりました。頼みます、アルトリア様。」


アルトリアは差し出した手を、カインが握るのを待った。その表情には、先ほどまでの冷徹さはもうない。代わりに浮かんでいるのは、何か懐かしいものを見つけた時のような、柔らかな光だった。


「ええ、アルトリアで構いません。『様』も不要です。私たちはこれより、共に歴史の敵と戦う同志なのですから」


彼女はカインの手を握り返すと、その手の甲に刻まれた『刻の銀盤』の刻印をじっと見つめた。銀色に輝く複雑な紋様――それは時計塔の記録にある、失われた六大聖遺物の一つの証。


「この刻印……想像以上に、あなたと深く結びついていますね。聖遺物との適合率がここまで高いのは稀です。もしかすると、あなたの祖先は単なる『守り手』ではなく、刻の銀盤を最初に創造した者の血を引いているのかもしれません」


彼女は手を離し、周囲を見渡した。停止していた時間が少しずつ動き始め、炎は再び燃え上がり、崩れかけた瓦礫がゆっくりと落下していく。


「この場所はもう長くありません。まずは安全な場所へ移動しましょう。私の管理下にある『次元の狭間』――あの静止した庭園へ。そこでなら、灰色の魔術師の目も届きません」


そう言うと、アルトリアはアストラル・クロノスの切っ先で空間に円を描いた。すると、そこに青白く輝く亀裂が走り、向こう側には見たこともない静謐な風景が広がっていた。時が止まったまま咲き誇る花々、動かない噴水、そして星空が地面にまで降りてきたような幻想的な庭園。


「ここを通って。灰色の魔術師との戦いの前に、あなたに伝えるべきことがあります。――その者の正体と、私がなぜ今まで倒せなかったのか。そして……」


彼女は一瞬、言葉を詰まらせた。まるで何かを思い出すように、遠い目をして。


「……私のことについても。」 


次元の亀裂を抜けた瞬間、カインの五感は一瞬だけ混乱した。重力の方向が曖昧になり、音が遠くなり、そして――時間の流れそのものが「ない」ことを、身体が理解してしまったからだ。

目の前に広がるのは、あまりにも静謐な光景だった。

空には昼も夜もなく、ただ淡い紫色の光が全てを包んでいる。足元には白い大理石が敷き詰められ、その隙間からは名前のない青い花が咲いている。花は風に揺れない。なぜなら、ここには「風が吹く」という現象を引き起こす「時間の経過」が存在しないから。

中央には、水晶で作られたような透明な噴水があった。水は空中で固まったまま、まるで彫刻のように美しい放物線を描いている。その向こうには、白い石造りの小さな東屋があり、そこには二脚の椅子と、一つのテーブルが置かれていた。

アルトリアは静かに歩を進めながら、カインに語りかけた。


「ここは私の『居場所』です。星霜の時計塔から任務を受ける時以外、私はこの庭園で過ごしています。時間が流れないこの場所でなら、私は――少しだけ、『考える』ことができるのです」


彼女は東屋の椅子に腰を下ろし、カインにも座るよう促した。テーブルの上には、いつの間にか銀色のティーポットと二つのカップが現れている。湯気は立っていない。時間が止まっているから。


「まず、あなたに知っておいてほしいことがあります。『灰色の魔術師』――その存在について、私が知る限りのことを」

アルトリアはカップを手に取り、その中の紅茶をじっと見つめた。飲むことはしない。彼女にはもう、味覚という感覚がないのだから。


「あの者は、私よりもさらに古い時代から存在しています。記録によれば、少なくとも一万年以上。そして――恐らくは、星霜の時計塔が設立される『前』から」


彼女の瞳が、僅かに揺れた。


「そもそも星霜の時計塔とは歴史を監視し、乱すものがいないかどうか見張るための灯台のようなもので、私の前の歴史の守護者がいたそうですが.....そのお方は灰色の魔術師に殺され、その遺体すら、歴史の塵として消滅させられてしまったようで、私が後を継ぎました。そして、私が何度か戦いを挑みましたが……剣は届かず、魔術は効かず、時間操作を使っても敵いませんでした。あの者は『歴史の外側』にいる。正確には――歴史そのものに拒絶されている、あるいは歴史を拒絶している存在なのです」


アルトリアはカップを置き、カインを見つめる。


「さて、あなたは自身の過去を話してくれましたが、私が話さないのもフェアじゃないですね。では話しましょう。私の過去と、力のことを。」


カップの中の紅茶に温もりはあるが、湯気もないという矛盾した空間の中で、歴史の守護者は自身の過去と力を話すことにした。

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