今日の天気は灰の大煙霧であります
サリーはついていきたい様子だったが、店の番があるので鉄鎖同盟の都市でお別れをすることになった。
「じゃあ、元気でな。また全部が終わったらくるからさ、その時にまたオリオ・スープ食べさせてくれよ。」
サリーも若干寂しそうな顔をしたが、それでも笑顔を浮かべてくれた。
「うん。またきてね。約束だよ。」
そうしてカインとサリーは握手をして、カインはアルトリアと一緒に立ち去った。
そしてシュレージエン王国にカインとアルトリアはアルトリアの力を使い、鉄鎖同盟からシュレージエン王国の郊外に一瞬で着き、重苦しくそれと同時に戦意に満ち溢れているパワフルな雰囲気が漂うシュレージエンの王都へと潜入した。
2人はロープを纏ってバレないようにしてる。
「それじゃあ戦争が始まるまでは待機ですかね。」
カインはそう小さくアルトリアに確認する。
シュレージエン王国の王都は、戦争前夜の緊張に包まれていた。城壁には兵士が配置され、街には軍馬の蹄の音が響く。民衆は不安げに空を見上げ、子どもたちは家の中に隠れている。
アルトリアはローブのフードを深く被り、カインと共に人目につかない路地裏に身を潜めていた。彼女の手は、常にアストラル・クロノスの柄に触れている。
「ええ……待機よ。灰色の魔術師が現れるのは、『開戦の瞬間』。それまでは動けない」
彼女は周囲を警戒しながら、小さく呟いた。
「でも、エクセリオン様の気配は既に感じるわ。あの方は王城にいる。きっと、最前線で戦う準備をしているはず」
その時、遠くから鐘の音が鳴り響いた。それは戦争の開始を告げる鐘ではなく、王宮からの召集の合図だった
「……来たわね。もうすぐ、宣戦布告がなされる」
アルトリアの瞳に、時計の歯車のような紋章が浮かび上がった。
そして数日後。シュレージエン王国の兵が出兵した。
宿屋に泊まっているカインはアルトリアの部屋をノックし、部屋に入る。
「軍が進軍しましたよ。どうします?」
カインは早く魔術師を叩きたいのに、あいつはどこにも現れないという焦燥感に蝕まれながら部屋に入ると、アルトリアは窓から屋根へ出て、出兵の様子を見つめていた。
重装備の騎士たち、魔導砲を積んだ戦車、そして――
その先頭には、黄金に輝く鎧を纏った騎士がいた。エクセリオン。彼の纏う炎のオーラは、遠目にも分かるほど強大だった。
「……行くわよ、カイン。軍に紛れて前線まで追いかける」
アルトリアはローブを翻し、屋根から屋根へと飛び移りながら、軍の後を追った。彼女の動きは音もなく、影のように滑らか。
しかし――その時、彼女の身体が突然硬直した。
「――っ! これは……!」
空気が変わった。時間の流れが、ほんの少しだけ歪んでいる。この感覚は――
「灰色の魔術師……! もう来たの!? まだ戦闘すら始まっていないのに!」
彼女は鋭く周囲を見渡した。しかし、魔術師の姿はどこにも見えない。ただ、不吉な予感だけが彼女の胸を締め付けていた。
カインも考える。魔術師は何を考えているのかを。
(どこにいるんだあいつは?あいつの目的は歴史を消し去ること。そしてそのために先日鉄鎖同盟を.....って)
「まさかあいつ、俺らがいなくなった鉄鎖同盟を滅ぼした?鉄鎖同盟軍が出兵したのを見計らって。」
カインの言葉を聞いた瞬間、アルトリアの表情が凍りついた。
「――まさか……!」
彼女は即座に鉄鎖同盟の方向に手を伸ばし、鉄鎖同盟の街の時間を観測しようとした。しかし――
「くっ……! 観測できない……時間の流れが『途切れて』いる……!」
アルトリアの瞳が金色に輝き、激しく歯車が回転する。彼女の声は震えていた。
「じゃあ、サリーはどうなっちゃってるんですか!?」
「わかりません。ですが、あいつ……私たちがシュレージエン王国に来ることを『読んで』いたのよ! 鉄鎖同盟の軍が出兵して、守りが手薄になったところを――!」
その時、遠くの空が灰色に染まった。シュレージエン王国からでも見えるほどの、巨大な灰色の柱が天を貫いている。あれは――鉄鎖同盟の方角だ。
周囲の民衆はその光景にざわついていく。
そして、風に乗って、あの声が聞こえてきた。
「やあ、アルトリア。カイン。君たちは『守護者』のつもりだったんだろう? でも残念――君たちが動いた瞬間、鉄鎖同盟は『守られなくなった』。皮肉なものだね」
灰色の魔術師の声は、まるで嘲笑うように響いた。
アルトリアは拳を握りしめ、血が滲むほど強く爪を立てた。
「カイン……私たちは、利用されたのよ……!」
カインもそのやるせない気持ちが溢れた。
自分が離れたせいで鉄鎖同盟は灰に呑まれた。自分があの時灰色の魔術師を殺しておけばこんなことにはならなかった。自分のせいで、自分のせいで...
怒りと悔しさを振り払うためにカインはじだんだを踏み、地面が若干抉れる。そうして怒りが少し冷えたところでアルトリアの方を向いた。
「俺が今すぐ戻ります! アルトリアさんはここを見張っててください!」
アルトリアはカインの提案を聞き、一瞬だけ逡巡した。彼女の瞳には葛藤が浮かんでいる。しかし――彼女は深く息を吸い、決意を固めた。
「.......カイン。おそらく奴は私たちを誘ってます。そうでなければあんな挑発をしなくてもいいのに。あいつが何を考えてるかもわかりません。私たちがあっちに行ったタイミングでこのシュレージエン王国に来るかもしれない。」
アルトリア一拍おき、言葉を繋ぎ続ける。
彼女はカインの肩に手を置き、まっすぐに見つめた。
「でも、それでも行きましょう。鉄鎖同盟に。今ここで奴の情報を失ったら一からに戻ってしまう。」
アルトリアは空を見上げた。遠くに見える灰色の柱は、まだ消えていない。
「それに、あなた一人では灰色の魔術師には勝てない。私たちは『共に』戦うからこそ、あいつに対抗できる。二手に分かれれば、それこそあいつの思う壺よ」
彼女はアストラル・クロノスを抜き、刃を鉄鎖同盟の方角へ向けた。
「今すぐ鉄鎖同盟へ向かうわ。『次元の狭間』を使えば、数分で到着できる。エクセリオン様のことは――後で説明する。今は、一刻も早く街を救うことが最優先よ」
彼女はカインの手を掴んだ。
「来て、カイン。私を信じて」
カインはアルトリアのまっすぐな目をじっと見つめた。
その瞬間、罠かもしれない恐怖よりも、自分を信じて共に地獄へ向かってくれる彼女の横顔が、カインにはどうしようもなく頼もしく、眩しく見えた。
「.....わかりました。信じますよ。アルトリア様。」
アルトリアはカインの言葉に、一瞬だけ目を見開いた。「アルトリア様」――彼がそう呼んだのは初めてだった。彼女の胸に、かすかな温もりが灯る。
「……ありがとう、カイン」
彼女はカインの手を強く握り返し、そのまま剣を地面に突き立てた。次の瞬間、二人の足元に複雑な魔法陣が展開される。それは時計の文字盤のような形をしており、十二の数字が青白く輝いていた。
「『次元の狭間』を開く。少し目を瞑っていて――時空の裂け目を直視すると、魂が引き裂かれるから」
アルトリアが詠唱を始めた瞬間、空間が裂けた。現実と非現実の境界が崩れ、二人の身体は光の奔流に包まれる。
その中は目を瞑ってるからか平衡感覚を失うような、不思議で現実味がない空間だった。だが、アルトリアの手の体温だけが唯一の現実感であり、カインにとってはそれが唯一の道標の様であった。
そして――次の瞬間、二人は鉄鎖同盟の街の上空に転移していた。
しかし、眼下に広がる光景は、地獄そのものだった。
街の半分が、すでに灰色に染まっている。建物も、人も、すべてが「色を失って」いく。
サリーと約束したあの飯屋の方角も、すでに灰に呑まれかけていた。
「サリー!!」
カインはその光景を見て、声を震わせながら大きな声で叫ぶ。そんなカインの手をアルトリアはぎゅっと握る。
カインはそれにより少しだけ落ち着きを取り戻したが、こんな地獄を生み出した悪魔ーー灰色の魔術師を見つけるとまた怒りに飲まれそうになった。
灰色の魔術師は、街の中心で両手を広げ、まるで指揮者のように優雅に腕を振るっていた。
「ようこそ、二人とも。君たちの到着を待っていたよ」
魔術師は振り返り、フードの奥から二人を見つめた。
「さあ、始めようか――『歴史の剪定』を」
「へ、言われなくてもわかってるわ!」
そう言いカインは剣に魔力を込めて切り掛かった。
用語解説: 次元の狭間
まあ言っちゃえば名前の通り。アインシュタインの一般相対性理論に基づき、時間と空間の不可分性を利用してアルトリアが行う超空間転移。一種のワープ航法だが、その内部は「情報の濁流」であり、観測者の精神に過負荷をかける。まあアルトリア自身はこれを何度もやってるから慣れてるし、そもそも上位精霊という神に近い種族だからあんましそこは問題ない.....多分。
ちなみに目を開いたままだったら魂が引き裂かれる理由は人間の知覚の80%を占める「視覚」は魂と直結しており、狭間の中を直視すると、視神経を通じて魂が外部へ吸い出され、ズタズタに引き裂かれるらしく、使用時は必ず目を閉じなければならない。




