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戦士の休息と次なる標的

アルトリアが目を覚ますとそこはベッドの上だった。


アルトリアがゆっくりと瞳を開けると、天井が見えた。見慣れない木造の梁、窓から差し込む柔らかな陽光。ここは――鉄鎖同盟の街の、おそらく宿屋だろう。


「大丈夫ですか?」


そうカインは問いかける。


「 僕は大丈夫ですよ。魔力も外傷も回復しました。それにこの子も...」


カインは目の前の看板娘の猫耳少女...サリーという名前の少女と猫じゃらしで戯れてた。猫じゃらしをふりふりするとそれをちょちょいとサリーは猫のように遊んでた。どうやら暇になったサリーの遊び相手になってるようだ。だがそれでも一回りほど痩せて見え、顔も若干青白かった。ちなみに彼女も失った部位も元に戻っており、どうやら無事なようだ。


彼女は身体を起こそうとし、この予想外な光景を見てわずかに顔をしかめた。だが魔力の枯渇は回復しつつあるが、まだ身体が重い。それでも、カインの無事な姿を確認すると、ほっと息をつき、その平和は光景に安堵した。


「……ええ、大丈夫よ。少し、魔力を使いすぎただけ」


彼女は静かにベッドに腰掛けたまま、自分の手のひらを見つめた。まだ指先が微かに震えている。それに、わずかに砕けた口調になっていた。


「あなたこそ……本当に大丈夫なの? 複数の時間軸から聖遺物を召喚するなんて、常軌を逸した負荷がかかるはずよ。魔力が回復しても、魂への負担は――」


アルトリアはカインをじっと見つめ、その身体に異常がないか確認するように視線を巡らせた。彼女のサファイアブルーの瞳には、明らかな心配の色が浮かんでいる。


「……それに、灰色の魔術師。あいつは確かに『逃げた』わけではないわ。自分自身を一時的に『歴史の外』に退避させたのよ。つまり――」


彼女は窓の外を見た。平和な街並み。救われた人々の営み。


「またすぐに現れる。今度は、もっと決定的な『歴史の転換点』で」


「歴史の転換点...うーん。よくわかんないけど、シュレージエン王国との戦争はもう直ぐで始まるんじゃないんかな?数日くらい前に出陣したし。今頃あっちの領土についてるんじゃないかな?」


「はあ!?数日前にもう出てるのかよ!?」


カインはとっくに出兵されてる事実を知り慌てるが、アルトリアはそれを気にしないような呆れた目でサリーを見つめる。


「まあ数日程度での行軍速度はたかが知れてるのでいいですけど...なんであなたがいるんですか?確かにあの時は助かりましたが。」


「だってあなたたちを運んだの私だからね。びっくりしたわよ。二人とも気を失って。いくら私が獣人だからって疲れたわよ。でも不思議ね。その鎧、見た目だけで案外軽いのね。びっくりしたわ。」


そんなサリーの言葉を聞き流しながらアルトリアはゆっくりとベッドから立ち上がり、窓辺へと歩いた。彼女の銀色の髪が、陽光を受けて淡く輝く。窓の外には、救われた街の日常が広がっていた。


「……でも、あなたのいう通り。あいつの行動原理を考えれば、答えは見えてくるわ」


彼女は腕を組み、思考を巡らせる。その表情は厳しく、しかし冷静だった。


「灰色の魔術師は『歴史の転換点』に現れる。それも、『未来に大きな影響を与える出来事』が起きる場所に。今回は鉄鎖同盟の街が、百年後に新しい魔導技術を生み出すから狙われた」


彼女は振り返り、カインを見つめた。


「では次は? この世界で、今まさに『歴史を変える』可能性のある場所――」


アルトリアは一呼吸置いてから、静かに告げた。


「その子が言った通り、シュレージエン王国よ。鉄鎖同盟との戦争が始まれば、大陸全土を巻き込む大戦になる。その『開戦の瞬間』こそが、灰色の魔術師にとって最高の標的になるはず」


彼女は拳を握りしめた。その顔にはわずかな憂いの感情が見える。


「エクセリオン様がいる場所に、あいつが現れる……。私たちは急がなければならない」


「でも、身体は大丈夫なんですか?まだ全快じゃないだろうですし。それに、エクセリオンさんはどっちにつくんでしょうか。」


アルトリアは窓枠に手を置き、遠くを見つめるような目をした。その表情には、複雑な感情が入り混じっている。


「私大丈夫よ。でもエクセリオン様は……『シュレージエン王国』に着くわ。それ以外にありえない」


彼女の声は静かで、どこか悲しそうだったが確信に満ちていた。


「あの方は、何百年もシュレージエン王国の騎士団長を務めている。国への忠誠は絶対よ。たとえ鉄鎖同盟が正しくても、たとえ戦争が避けられるとしても――自分の国を守ることが、あの方の存在理由なのだから」


アルトリアはカインの方を振り返った。


「だからこそ、厄介なのよ。もし灰色の魔術師が『開戦の瞬間』を狙うなら、エクセリオン様と鉢合わせることになる。そして――」


彼女は唇を噛んだ。


「あの方は『歴史の干渉者』を嫌っている。私たちが灰色の魔術師を追って王国に現れれば、エクセリオン様は私たちを『国への脅威』と見なすかもしれない。最悪の場合……三つ巴の戦いになるわ」


アルトリアは深く息を吐き、カインをまっすぐ見つめた。


「それでも、行くしかない。灰色の魔術師を野放しにはできないもの」 


そうしてアルトリアは自身の私情と守護者の使命に板挟みにされながらも固い決意を示したのだった。 

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