そらまめのそらもよう 〜last episode 方舟〜
ある朝、そらまめは、
いつもより早く目を覚ましました。
さやのドアを開けると、
あたりは真っ白な霧につつまれていました。
そらまめが何も見えなくて戸惑っていると、
さやのドアが、ふわりと浮かんで、
そらまめの前に 横たわりました。
まるで霧に浮かぶ舟のように。
さやの舟は、今まさに出発しそうなそぶりで、
おしりをピクピクと動かしました。
そらまめは、そっと舟に乗り込みました。
舟はゆっくりと上昇しながら、
前へ進んでいきます。
霧の粒が、そらまめの体をなでては、
うしろへ飛んでいきます。
やがてまわりの景色が見えてきました。
まめ畑が広がっています。
えんどう豆のなかよし三兄弟と、
お父さん、お母さんが、
舟に乗ったそらまめに気づいて、
手をふっています。
そらまめも、大きく手をふりかえしました。
じゃがいも畑へやってきました。
そらまめは、じゃがいもたちと
ここできれいな月をながめたことを 思い出しました。 よく見ると、じゃがいもたちも空を見上げて、
そらまめの舟を見ていました。
とうもろこし畑へやってきました。
あの黄色い泣き虫の子は、 まだねむっているかな、
そらまめはそんなことを思いながら
畑をながめていると、
黄色い親子が、そらまめを見上げて
手をふっていました。
そらまめも手をふりました。
栗の木の林へやってきました。
大きなすもう取りの栗たちが
そらまめに手をふりました。
そらまめも手をふりながら、
がんばって行司役をやったことを 思いだしました。
どんぐりの森へやってきました。
大きな帽子、小さな帽子、
いろんな大きさのどんぐりたちが
そらまめに向かって、 帽子をふりました。
あの日、どんぐりにもらった帽子が
舟の中にあったので、 そらまめも帽子をふりました。
今は花も葉っぱもついていない、
枝の長い桜の木、大きくて高いイチョウの木、
木の間をすりぬけて 舟は高く高く進みます。
そして明るい空に虹が見えてきました。
いつかこの虹をすべりおりたこともありました。
でも今日は、虹の上へ向かって 舟は進みます。
そして、そらまめは思いだしました。
虹の上から、そらまめの背中を押した
あのそらまめを。
舟は虹のてっぺんで止まりました。
そらまめは、舟を降りて 虹の上へおりたちました。
虹は雲の上へ続いています。
そらまめは、虹の道を歩きだしました。
雲の上へ向かって。
そらまめの姿が、雲の上に見えなくなると、
虹も、さやの舟も どこかへ消えてしまいました。
まめ畑の霧はすっかりはれて、
あたたかい太陽の日がキラキラと
ふりそそいでいました。




