第2話 鉱輝祭の開催
鉱輝祭は殊の外順調だった。
多くの人が足を運ぶとは言っても、俺が考えていたような市井の祭りとは比べるべくもなかった。
厳かで、上品。
すれ違うことすら難しいほどぎゅうぎゅう詰めになることはなく、学園の展示室を思わせる静けさと人の往来だった。
けれど、大広間に足を運ぶような人は、皆、どこか品格を保っていた。
細身で鼻の高い紳士が声をかけてくる。
「失礼、これは君の領で採掘したものなのかな?」
俺は内心ガチガチに緊張していたが、隣にユーリがいる安心感もあってか、どうにか笑顔で振る舞うことができていた。
小ぶりの原石に興味を示した紳士に応じる。
「はい、そうです。最近、新しい金鉱脈が見つかりまして、見本として採掘したものをそのまま展示しております」
「ふむ。まだ流通はしてないのかい?」
「今年、発見されたばかりで、来年以降本格的な採掘作業を開始する予定です」
「そうか、そのときはぜひ声をかけてほしい」
含むように笑った彼は、商品として並べた金のネックレスを1つ買っていくと、優雅に去っていった。
ただ、この場でお金のやり取りをすることはなく、学園を通して支払いは行われ、商品も後日届けることになっている。
貴族の買い物とは、行きも帰りも荷物が増えないものだ。
現地に足を運ぶことすら稀だ。
「好調ではないかな?」
人が離れて行ったのを見て取ってか、ユーリがからかい交じりの声で話しかけてくる。ユーリが応対することもあるが、基本彼女は屋台の裏に用意した簡易な天幕の中に隠れていた。
時折、暇を持て余して顔を出すことはあるが、接客は俺がしている。
俺は「緊張しっぱなしだよ」と、いまにもひびが入りそうな笑顔の端を指で沿わせる。
「笑顔で固まるか、引きつりそうだ。さっきの対応も失敗をしてないか、思い返すほどだ」
「大丈夫だろう。やり取りに淀みもなかったし、説明も過不足ない。面白みに欠けるという最大の欠点を除けば、良好と言える。あの方も満足そうに帰って行ったろう?」
「面白みなんて求めてないから」
でも、よかった。
胸を撫で下ろす。
ユーリが太鼓判を押すのなら間違いないだろうと思って、あの方? と呼び方に違和感を覚える。ユーリなら誰に対しても、あの人とか、彼とか言いそうなものだが……年上だからだろうか?
「ふふ、隣国の前公爵に堂々としていたんだ、胸を張りたまえ」
「……めまいが」
他国の人間が来るとは訊いていたが、そんな大人物がさらっと通り過ぎていくのかよ。
冗談でもなんでもなく目眩がして、ふらつく頭を支える。
「まだまだ鉱輝祭は始まったばかりだ、頑張りたまえ」
「……代わってほしい」
「応援しているよ? 旦那様♪」
そう背中を押されては、泣き言も言えない。
諦めて次に訪れた来賓にも貼り付けた笑顔で応対する。
そうして高い緊張を保ちながら、気づけば時刻は昼となっていた。
「なにか食べに行こうか?」
「……お腹減ってない」
というか、緊張しすぎで減っているかどうかすらわからない。
「なら、私に付き合ってくれ。それとも、ここで1人残って店番をするかい?」
「すみませーん、休憩行かせてください!」
あまりの心細さにすぐに人を呼んだ。
もともと、生徒が店に立つことはまずないことだ。準備も任せきりなら、当日の対応も使用人に任せるに決まっている。
俺には使用人はいないが、学園が用意した手伝いはいた。
どこぞの屋敷で働いている使用人が一時、貸し出されているらしい。なんでも、給金が破格で急募を出すと取り合いになるとか。
「俺は無給なのにな……」
「生徒だからね」
ユーリがくすくす笑って、屋台から抜け出す。
俺も呼んで来た給仕の格好をした手伝いに後を任せる。
「鉱輝祭って、日曜市みたいな食べ物の屋台とかあるの?」
「……鉱輝祭は展覧会だよ?」
「そりゃそうか」
と、納得したが、「学園がこの日に合わせて呼び寄せた、各国の一流シェフが食堂で腕を振るっているがね」としれっと付け足して、おいっとなる。
「俺の納得はどうすればいい?」
「美味しいものを食べて、埋めてしまおう」
けらけら令嬢らしくない笑い方をして、俺の手を自然と取っていく。
繋いだ手を見る。
このやり取りにも慣れたものだ。社交界で女性をエスコートするのとは違う、胸の内を温かくする感覚がある。
ユーリの言った『惚れさせる』というのは、こういうことなのかなと思う。
それなら大正解で、既に手遅れなのだからユーリの勝利と言ってもいい。口元が綻ぶ。負けたのに、清々しいんだから、最初から勝敗などわかりきっていた。
「なにを立ち止まっているんだい? せっかくの鉱輝祭だ、私たちも楽しもうじゃないか!」
「……そうだな」
制服のポケットに触れる。中にある固いそれを指で確かめる。
渡す機会はあるだろうか。






