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貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。  作者: ななよ廻る
第2部 第10章

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第2話 鉱輝祭の開催

 鉱輝祭は殊の外順調だった。

 多くの人が足を運ぶとは言っても、俺が考えていたような市井の祭りとは比べるべくもなかった。


 厳かで、上品。

 すれ違うことすら難しいほどぎゅうぎゅう詰めになることはなく、学園の展示室を思わせる静けさと人の往来だった。


 けれど、大広間に足を運ぶような人は、皆、どこか品格を保っていた。

 細身で鼻の高い紳士が声をかけてくる。


「失礼、これは君の領で採掘したものなのかな?」


 俺は内心ガチガチに緊張していたが、隣にユーリがいる安心感もあってか、どうにか笑顔で振る舞うことができていた。

 小ぶりの原石に興味を示した紳士に応じる。


「はい、そうです。最近、新しい金鉱脈が見つかりまして、見本として採掘したものをそのまま展示しております」

「ふむ。まだ流通はしてないのかい?」

「今年、発見されたばかりで、来年以降本格的な採掘作業を開始する予定です」

「そうか、そのときはぜひ声をかけてほしい」


 含むように笑った彼は、商品として並べた金のネックレスを1つ買っていくと、優雅に去っていった。

 ただ、この場でお金のやり取りをすることはなく、学園を通して支払いは行われ、商品も後日届けることになっている。


 貴族の買い物とは、行きも帰りも荷物が増えないものだ。

 現地に足を運ぶことすら稀だ。


「好調ではないかな?」


 人が離れて行ったのを見て取ってか、ユーリがからかい交じりの声で話しかけてくる。ユーリが応対することもあるが、基本彼女は屋台の裏に用意した簡易な天幕の中に隠れていた。

 時折、暇を持て余して顔を出すことはあるが、接客は俺がしている。


 俺は「緊張しっぱなしだよ」と、いまにもひびが入りそうな笑顔の端を指で沿わせる。


「笑顔で固まるか、引きつりそうだ。さっきの対応も失敗をしてないか、思い返すほどだ」

「大丈夫だろう。やり取りに淀みもなかったし、説明も過不足ない。面白みに欠けるという最大の欠点を除けば、良好と言える。あの方も満足そうに帰って行ったろう?」

「面白みなんて求めてないから」


 でも、よかった。

 胸を撫で下ろす。

 ユーリが太鼓判を押すのなら間違いないだろうと思って、あの方? と呼び方に違和感を覚える。ユーリなら誰に対しても、あの人とか、彼とか言いそうなものだが……年上だからだろうか?


「ふふ、隣国の前公爵に堂々としていたんだ、胸を張りたまえ」

「……めまいが」


 他国の人間が来るとは訊いていたが、そんな大人物がさらっと通り過ぎていくのかよ。

 冗談でもなんでもなく目眩がして、ふらつく頭を支える。


「まだまだ鉱輝祭は始まったばかりだ、頑張りたまえ」

「……代わってほしい」

「応援しているよ? 旦那様♪」


 そう背中を押されては、泣き言も言えない。

 諦めて次に訪れた来賓にも貼り付けた笑顔で応対する。


 そうして高い緊張を保ちながら、気づけば時刻は昼となっていた。


「なにか食べに行こうか?」

「……お腹減ってない」


 というか、緊張しすぎで減っているかどうかすらわからない。


「なら、私に付き合ってくれ。それとも、ここで1人残って店番をするかい?」

「すみませーん、休憩行かせてください!」


 あまりの心細さにすぐに人を呼んだ。

 もともと、生徒が店に立つことはまずないことだ。準備も任せきりなら、当日の対応も使用人に任せるに決まっている。


 俺には使用人はいないが、学園が用意した手伝いはいた。

 どこぞの屋敷で働いている使用人が一時、貸し出されているらしい。なんでも、給金が破格で急募を出すと取り合いになるとか。


「俺は無給なのにな……」

「生徒だからね」


 ユーリがくすくす笑って、屋台から抜け出す。

 俺も呼んで来た給仕の格好をした手伝いに後を任せる。


「鉱輝祭って、日曜市みたいな食べ物の屋台とかあるの?」

「……鉱輝祭は展覧会だよ?」

「そりゃそうか」


 と、納得したが、「学園がこの日に合わせて呼び寄せた、各国の一流シェフが食堂で腕を振るっているがね」としれっと付け足して、おいっとなる。


「俺の納得はどうすればいい?」

「美味しいものを食べて、埋めてしまおう」


 けらけら令嬢らしくない笑い方をして、俺の手を自然と取っていく。

 繋いだ手を見る。

 このやり取りにも慣れたものだ。社交界で女性をエスコートするのとは違う、胸の内を温かくする感覚がある。


 ユーリの言った『惚れさせる』というのは、こういうことなのかなと思う。

 それなら大正解で、既に手遅れなのだからユーリの勝利と言ってもいい。口元が綻ぶ。負けたのに、清々しいんだから、最初から勝敗などわかりきっていた。


「なにを立ち止まっているんだい? せっかくの鉱輝祭だ、私たちも楽しもうじゃないか!」

「……そうだな」


 制服のポケットに触れる。中にある固いそれを指で確かめる。

 渡す機会はあるだろうか。


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