第1話 失敗は慣れていますから
「本当にやれるとはな」
鉱輝祭の前夜。
放課後になってリオネル殿下に呼び出された俺は、当然のように付いてくるユーリと一緒に学園の応接室に来ていた。
ひとまず、問題は片付いたという報告は聞いていたようだが、俺から改めて説明すると、上瞼を僅かに持ち上げて微かな驚きを示した。
「貴族の指揮を取れ、と卿に指示をしたが、こうも丸く収まるとは思ってはいなかった」
「あぁ……やっぱり無茶振りという自覚はあったんですね」
やってられないなー、やってやったけど。
「盛んに活動していた生徒たちも、その規模は小さくなった。なにをした?」
「大したことはしてませんよ」
本当に。
「ただ、流行に対する答えを提示しただけです」
肩をすくめる。
流行の発信源はユーリだったが、広がっているのは“文化祭の準備が楽しい”という感情的というか、中身のまるで掴めないあやふやな情報だった。
ただ流行っているからと真似をしようとしたところで、なにをするのかがわかっていない。だから、生徒たちはそれぞれの考えで動いたわけだ。自分好みに。
「貴族が考える準備なんて、まぁ派手ででかいものになるでしょう。けど、これまで他人に任せていたものを、急に自分の手でできるはずもなく……」
「あの惨劇というわけか」
屋台が崩壊する様子でも思い出したのか、頭痛がするようにリオネル殿下が額を押さえる。
「ただ、違うと言って説得できるとは思いませんでしたので、ユーリがやっていることを広めました。流行の正解を示してあげれば、おのずと見当違いな方向に流れはしないでしょう」
「新しい流行を生む、ということか」
「もともとユーリが発信源ですからね」
ユーリのすることに影響力がある、ということであれば、ユーリにこちらが望む新しい流行になってもらえばいい。
ふっ、とユーリが得意げに笑う。
「他愛ない茶飲み話ですら、ここまで影響力があるとは。存在が罪深い」
「あーそうね」
俺とリオネル殿下が呆れた視線を向けるが、意に返さない。
その強靭な精神性が1番の罪かもしれなかった。反省して。
「とはいえ、失敗する可能性はあったろう。そのときはどうするつもりだったんだ?」
「他の手段を講じるだけですね」
手本を見せる、という間接的手段が通じないなら、ユーリに音頭を取ってもらってもいい。もしくは、リオネル殿下にお願いして、材料の手配が遅れていると誤情報を流してもらって、なにもさせないようにする。
生徒たちに不快感を与えない、1番穏便な方法がこれだっただけで、1つの案が失敗したらお手上げなんてことにはならない。
「泥臭い試行錯誤は得意ですから。失敗は慣れてますよ」
自嘲気味に口元を緩める。
失敗に慣れる、失敗を前提に組み込むなんて、まさに凡人の思考だろう。そんなのとは無縁に、正しく王道を歩いているリオネル殿下からすれば、滑稽にも見えるはずだ。
けど、リオネル殿下は蔑みとは違う、愉快そうな笑みを零した。
「そうか。卿は私の想像よりも、ずっと優秀なのだな」
「……話聞いてました?」
失敗すると言っているんだが、それのどこが優秀なのか。
くく、と押し殺して笑うリオネル殿下を訝しんでいると、横合いからユーリが腕を絡めてきた。
ぎゅっと抱き寄せるその力はやけに強い。
「私の旦那様ですよ? リオネル殿下にはあげません」
「それは本人の意思次第だろう?」
バチッ、と視線がぶつかって散る火花を幻視した。
いまのやり取りで俺をあげるあげないという話になる理由がわからない。というか、俺は物ではないので、そうぽんぽんと贈呈されても困ってしまう。
「よくやってくれた。いずれ卿に報いよう」
ふ、とリオネル殿下が引き締めた表情を緩める。
「明日からは鉱輝祭だ。務めを蔑ろにしろとは言えないが、存分に楽しみたまえ」






