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貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。  作者: ななよ廻る
第2部 第8章

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第2話 わがまま貴族たちを従える簡単な方法

 誰かの先頭に立つということはしてこなかった。

 役に立たない父さんの代わりに、当主の仕事は母さんが務めていた。

 いずれは俺が、と思うも仕事ができるタイプの女傑である母さんの姿を見るとどうにも臆する。


 それでもと、家族や領のためになにかしなくてはといろいろしてきたつもりだが、その中にリーダーという立ち位置はなかった。

 自分1人でできることで、他人には迷惑をかけない。


 それはきっと正しかったのだろうが、言い換えれば臆病とも呼べる。

 離散しそうな家族を思えば、もっとやれることがあったんじゃないか、といまさらになって考えてしまう。


「……鉱輝祭の指揮を務める、なんてものが舞い込むとは思わなかったけど」


 リオネル殿下との会談という名の命令を受けてから、俺とユーリは空き教室に移動していた。そこでは、先日見た光景と変わらず、生徒たちが思い思いに作業に勤しんでいる。


「こちら、宝石を飾ったらいかがかしら?」

「素敵ね!」

「絵を描こう。自画像だ! きっと皆も気に入るはずだ。なに? 鉱石の展覧会? ……僕も光り輝く宝石みたいなものだろう?」

「あらあら? 色が混ざってしまったわ。どうすればいいのかしら」


 こういうのを混沌としている、と呼ぶのかもしれない。

 こじんまりしている生徒もいれば、なにか壮大な計画を立てている生徒もいる。ここにいないだけで、学園の至る所で似たような光景が広がっているんだろう。


 どこからか、大人の悲鳴となにかが崩れる音が聞こえてきたが……聞こえなかったことにしよう。建てた建造物か屋台でも崩れたんだろう。


「言って聞かせるかい? スケジュールとできることを考えてやるように、と」

「それで解決するなら、こうなってないと思うんだよなー」


 リオネル殿下がそれを説明していないとも思えない。というか、教師陣が真っ先に注意しているはずだ。そうでなければ、給料泥棒の烙印を押してやる。

 流行の広がりの足が早すぎて、追いついてないというのが現状だろう。


 ユーリがサロンに参加してから2日しか経ってないし、両日とも学校は休みだったのだから手も足りないに決まっている。


 だいたい、貴族なんてのは自尊心の塊だ。

 こうしろああしろと指示したところで、意味もなく反抗する奴も出てくる。あるいは、俺の説明を自己解釈して暴走するか。


 ……考えてみると、人の上に立つのって大変なんだな。

 言うことを聞かせられるイメージが湧かない。リオネル殿下には頭が下がるばかりだ。


「ユーリならどうする?」

「放っておく」


 だよねー。

 なんともユーリらしい返答だった。


「彼らが勝手にしていることだ。行動には責任が伴う。それを身を以て経験するというのも、学園という学び舎のあるべき姿ではないか?」

「……学園内の問題だけからそれでもいいけど」


 俺もリオネル殿下に似たようなことを言ったし。


「でもさ、国外からも人が来るんだろう? 準備はできてない、学園内はひっちゃかめっちゃかとか、外交問題になったりしない?」

「彼らの責任だね」


 うーん、他人事。

 いや、事実そうなんだけど。


「とはいえ、任されたからにはなんとかしないとな」

「旦那様は真面目だね」

「自分の発言くらいは責任を持たないとな」


 やると言った手前、引くに引けない。


「あの流れはリオネル殿下の術中だと思うがね」

「それは言ったらやる気がなくなるのよ」


 ほくそ笑むリオネル殿下を想像すると余計に。

 同時に疲労を感じさせる表情も思い出す。


「でも、リオネル殿下が疲れているのは本当だろうから、少しくらい役に立つさ」

「いい部下になりそうだ。人の面倒を見てばかりで貧乏くじを引いて、出世が遅く、毎日仕事に明け暮れる未来が想像できるよ」

「……褒めてないよね?」


 ユーリの見てきたかのような説明で、俺も想像できちゃったよ。うげー、と口の両端が下がる。


「そんな疲れた夫を支える妻の私……健気だね」


 頬に手を当ててなにやら浸っているし。

 行き着く先は自画自賛か。陶酔も含めると、人格に難ありと言わざるを得ない。


 どうして俺はこんな女性を好きになったんだろうか。

 自分のことながら理解に苦しむ。深く考えると、でも、と逆説に繋がりそうなので思考はここで止めておく。


「それで、旦那様は自分勝手な貴族を従えるなんて無理難題をどう解決するつもりなんだい?」

「胸に手を当てて考えて?」

「どうぞ」


 ぐい、とユーリがささやかな胸を張る。

 俺がユーリの胸に手を当てて考える、という意味ではないから。うっかり触りそうになるから困る。本当に触ったらどういう反応を示すのか、という自殺願望じみた好奇心も相まって。


「別にこれまでと一緒だよ」

「一緒?」


 ユーリが小首を傾げる。

 かわいいな、と一瞬思って顔を顰めて諌める。貴族令嬢のこの手の所作は信用してはいけないというのが風説だ。それでも騙される男が跡を絶たないのだから、男って単純すぎる。


「普通に鉱輝祭の準備をする」


 ただ、と付け加える。


「やるのは、彼らの中心で」


 途端、俺に負けず劣らずうげーという苦い顔をして、ちょっと笑った。


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