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貧乏貴族の俺が貴族学園随一の麗しき公爵令嬢と偽装婚約したら、なぜか溺愛してくるようになった。  作者: ななよ廻る
第1部 第11章

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第3話 金脈の調査費用、その出所

 母さんにしこたま絞られたあと、執務室のソファーでぐったり倒れる。

 執務机に座っている母さんは、そんなだらしない態度の俺に呆れた目を向けてくるが、お説教のあとだからか小言は飛んでこなかった。


「サーカスの猿の曲芸みたいだったよ」

「見世物じゃねー……」


 代わりに対面に座るユーリのおちょくりは飛んできたけど。

 反論する元気もなくなって声も上げられないでいると、「公爵家のご令嬢に失礼ですよ」と怒られる。


 さすがに母さんの前で、ユーリに対して軽口を叩くべきじゃなかった。

 姿勢を正して謝ろうとしたら、ユーリが笑みを浮かべながら唇に人差し指を添えてみせた。


「構いませんよ。気軽に接するようあなたの御子息に告げたのは私です。なにより、彼は私の旦那様ですから」

「……かしこまりました」


 微笑むユーリに、母さんは反論を呑み込むような間を置いて了承した。


 表情にこそ出てないけど、葛藤があったのはわかる。

 でも、ユーリが望むならそれでいい、ということなのだろう。


 偽装婚約についても説明したけど、どう思っているのやら。

 ユーリの前だからか『軽率な真似をしないように』と注意に留められたが、本心ではどう思っているのか。


 母さんと2人になったときが怖そうだ。

 考えただけで体が重くなって、余計ぐったりしてしまう。


 とはいえ、いつまでもへばっているわけにもいかなかった。


「母さん、それで金脈についての事情を教えてください。特に調査費用についてを」

「……? まだルルから伺っていないのですか?」

「聞こうとしたら逃げ出したので」


 はぁ、とルルを追いかけ回した疲労を吐き出すと、母さんもわかってくれたのか、「そうですか」と納得してくれたようだ。


 だから、すぐに話してくれると思ったんだけど、どうしてか母さんは頬に触れて悩むような態度を見せる。


 ルルどころか母さんまでもが口にするのを躊躇ためらっている?


 眉を寄せて、考え込む母さんを注視する。


「母さん?」

「……リュウール領の現状については説明します。それは、クルも知っておくべき内容です。ただ、調査費用については、できれば私の口から説明したくはありません」

「どうしてですか?」

「ルルの決断によって、得たものだからです」

「……!」


 調査費用をルルが?


 一体どうやってと考えてみても、方法なんてわからない。

 実家までの道中で予想していたのは、借金くらいだった。というか、それ以外に資金を工面する方法なんてないはずだ。

 隠し財産があった、というのは現実的じゃないし。


 ただ、それならルルは関係ない。

 現状、リュウール子爵家を取り仕切っているのは母さんだ。

 最後の賭けとして借金をするという手段に出るとしても、その決断をするのは母さんであって、ルルじゃない。


 それなら、どうやって。

 頭が熱くなるほど知恵を絞っても答えが出ないでいると、母さんが仕方ないというように吐息をついた。


「……ありません、でしたが、ルルから話す気がないというのなら、私からクルに伝える他ありません。ただ」


 母さんがソファーで寛ぐユーリに視線を向ける。


「ふむ、私は席を外した方がよさそうですね?」

「リュウール家の事情になりますので、申し訳ございませんが」

「なら――」

「いいよ、いて」


 部屋を出ようとするユーリをめる。

 浮かした腰をソファーに戻し、ユーリが窺うように俺を見てくる。


「いいのかい?」

「本当ならよくないんだろうけど、ここまで付いてきておいて今更だろう?」

「私は別に、旦那様の家庭事情に首を突っ込む気はなかったよ?」

「どうだか」

「本当なんだけどね」とユーリは苦笑しているけど、本音のところはわからない。


『面白そうなら茶々を入れよう』くらいは考えていても不思議じゃなかった。

 でも、ユーリは貴族らしい傲慢さはあれど、人の不幸を喜ぶようなたちじゃない。


 それに、

「なにかあったら、手助けくらいはしてくれるだろ?」

「――……旦那様」


 なにやらユーリが蒼い瞳を丸くしているけど、それくらいにはユーリを信用している。

 信頼だって、まぁ、多少は、うん。


 俺個人のことなら席を外させただろうけど、ルルや家族に関わることだ。

 助けになってくれる人はいた方がいい。


「ユーリに借りを作るのは、後々怖いけどな」


 最後は照れ隠しもあって悪態めいた言葉を添えたけど、ユーリはそんなの聞こえなかったのように喜色満面だった。


「ふ、はは! そうだね、うん、その通りだ。旦那様を支えるのは妻の努めだからね、もちろん困ったことがあるなら助けるとも」

「旦那とか妻とか、そういう話はしてないんだけど……」


 あくまでユーリ個人の話なんだが、相変わらず関係性に拘る言い回しをする。

 からかっているだけなんだろうけど、母さんの前であまり口にしてほしくはなかった。

 やけに視線が痛い。


「クル、本当に偽装なのですね?」

「本当です」


 疑いに満ちた母さんに念押しされたので、もちろんと頷く。

 でなければ、公爵令嬢との婚約なんてできるはずがない。


 というか、俺だって嫌だよ。

 ユーリ個人の話ではなく、公爵令嬢との婚約なんて面倒事の塊だ。


 玉の輿だと喜ぶ人もいるだろうが、早々に上手くいくわけがない。

 だというのに、ユーリが「さぁ、どうかな?」 なんて、微笑みながら意味深なことを言うから、母さんの疑念は増すばかりだ。


 本当に婚約はしてないのに。


「さぁ、どうかな?」


 なんて、微笑みながら意味深なことをユーリが呟くから、信じがたい話であっても疑いたくなる気持ちもわからなくもない。

 けど、本当に偽装なんだよ。


「ユーリの戯言はともかく、信用はできる人ですから、話して問題ないのであれば、一緒に聞いていてもらいたいです」

「……」


 母さんが瞼を閉じる。


「…………いいでしょう。ただし、ユーリアナ様についてはクル、貴方が責任を持つこと。よいですね?」

「はい」


 しっかりと頷いてみせると、「わかりました」と母さんは応じてくれる。


「少々話が逸れましたが、金脈の調査費用の出所についてお話します」


 ようやく開いた琥珀の瞳を、母さんが俺に向ける。


「資金を提供したのはとある商人です。彼は『調査費用の提供』という商談を持ちかけてきました」

「持ちかけてきたって」


 そんなバカな。


「そのときは金脈があるかもしれないなんて、わからなかったんですよね?」

「はい。そして、その商人もそのことを理解していました」

「なのに、枯れた金山に投資する?」


 リュウール家からすれば、資金を提供してくれるというのであれば、リスクはない。

 新たな金脈なんて見つからないならそれはそれ。


 痛手はないどころか、調査作業を領民に任せられるのであれば、仕事を与えることにも繋がる。


 当たれば儲けもの。

 外れても最低限のメリットはある提案だ。


 断る理由はないが、あまりにもその提案してきた商人に利益がなさすぎる。


「慈善事業ではないのでしょう? 投資条件は他にもありますよね?」

「その通りです」


 やっぱり。


「先ほどは商談と表現しましたが、正確に言うならばこれは賭けです。『調査費用の提供』はその賭けを行うための準備金。手付金のようなものでしかありません」

「賭けって……なにを?」


 ルルの決断という、先の母さんの言葉が気にかかる。

 嫌な予感を覚えつつも、ここで話を止めるわけにもいかず、先を促す。


「勝負の内容は新たな金脈が見つかるかどうか。見つかれば、提供した調査費用の返済はなし。ですが、もし見つからなかった場合は――」


 口にするの躊躇ためらうように瞳を泳がせてから、母さんは意を決したようにきつく結んでいた唇を開いた。


「――ルルを嫁に差し出すこと」

「…………あ゛?」


 ぶちっと、血管の切れる音がした。



   ◆第11章_fin◆

  __To be continued.


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