消えた記憶と愛する人の嘘 77 「ひとりぼっちの部屋で」
謙を送り出したまいは、静かにソファに腰を下ろした。
玄関のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた気がした。
「なんで……あんな態度とっちゃったんだろぉ……」
ぽつりとつぶやいた声は、部屋の中に虚しく消えていく。
謙のことが好きで好きでたまらないのに。
ただそばにいてほしいだけなのに。
なのに私は……どうして素直になれないんだろう。
謙は優しい。きっと、私の態度の変化にも気づいていたはずだ。
だからこそ、あえて何も言わずに、気づかないふりをしてくれたんだと思う。
最初に「なんか怒ってる?」って聞かれたときも、誤魔化すことしかできなかった。
私、そんなに態度に出てたんだ……。
「本当に……バカだなぁ、私……」
そうつぶやくと、目の奥がじんわりと熱くなり、気づけば涙がこぼれていた。
「謙に『出かける』なんて言ったけど……何にも予定なんてないのに……」
あんな嘘をついて、私は何をしたかったんだろう。
自分で自分が分からなくて、ますます情けなくなる。
「私って……何やってるんだろう……」
ぎゅっと膝を抱え込むようにして、うつむく。
心配なのは分かってる。
でも、謙には今、私しかいないし……私には謙しかいないのに。
「バカみたい……本当に……」
何度も何度も同じ言葉を繰り返しながら、まいは静かに泣いた。
謙がいなくなった部屋は、広く、静かで、寂しすぎるほどだった。
いつもは心地よかったはずの空間が、今日はひどく冷たく感じる。
「早く……帰ってきてよ……謙……」
そう泣きながら願っても、謙がすぐに戻ってくるはずもなく………
広い部屋の中、ぽつんと一人、まいは涙を流し続けていた。




