消えた記憶と愛する人の嘘 53 【橘との再会】
皆様、お疲れ様でございます。
今月も、あっという間に終わってしまいましたね
明日から3月、楽しい春を迎えましょうね(^^)
俺はソファから立ち上がり、玄関へ向かった。
まいの後ろから顔を覗かせると、ちょうど橘と目が合う。
「よぉ〜」
橘は親しげな笑顔を見せながら、軽い調子で声をかけてきた。
だが、俺には彼との記憶がない。
それでも、妙に懐かしさを感じるような、そんな気がして——
とりあえず、同じように軽く返すことにした。
「よぉ〜、いらっしゃい」
俺の言葉に、橘は嬉しそうに笑う。
まるで、長年の友人と久々に顔を合わせたような雰囲気だった。
そんな二人のやり取りを見て、まいが慌てて口を開く。
「とりあえず、あがってください!」
まいは橘のために玄関にスリッパを揃え、丁寧に差し出した。
その仕草はどこかぎこちなく、どことなく気取っている。
どう見ても「いい奥さん」に見られたがっているのが丸わかりだ。
橘はまいの様子を見て、軽く笑いながらスリッパを履き、
「ご丁寧にありがとうございます」
と、しっかりとした口調でお礼を言った。
リビングまでの短い距離を、まいが案内する。
その間、橘は俺の横に並び、フレンドリーに話しかけてきた。
「謙、変わらないな〜。全然普通だよ、記憶喪失なんて言われなきゃわからないくらい」
そう言いながら、俺の顔をじっと見つめる。
「見た目も元気そうだしなぁ」
俺は苦笑しながら答えた。
「まぁ、体は問題ないんだけど、記憶は本当に何もないんだよな」
橘は少しだけ寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに明るい調子に戻り、
「まぁ、相変わらずって感じだな!」
と、俺の肩を軽く叩いた。
そんなやり取りを横で聞いていたまいが、くすっと笑いながら振り返る。
「うん、確かに謙はいつも通りだよね」
俺はまいの顔を見ながら、本当にそうなのか? と少し考えてしまう。
今の俺は、記憶がない状態の「新しい俺」だ。
それが「変わらない」と言われるのは、どういうことなのか——
少しだけ、胸の奥に違和感が残った。
だが、それを気にする間もなく、まいが元気よく声を上げた。
「さ、座って座って! お茶入れるから!」
そして、まいは急ぎ足でキッチンへと向かっていった。
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