表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/361

消えた記憶と愛する人の嘘 44 【帰宅、新たな驚き そしてただいまとおかえり】

まいが運転手にさりげなく指示を出し、タクシーは俺の自宅であるマンションの前に停車した。

窓越しに外を見上げると、俺はふと問いかけた。


「まい、本当に俺ここに住んでるのか?」


まいはにっこりと微笑みながら、「うん、そうだよ」とあっさり返す。

その声は、まるで俺の家を当然のものとして扱っているかのようだった。


しかし、俺が実際に建物を見上げると、思い描いていた以上に洗練され、モダンな佇まいが目に飛び込んできた。

ガラス張りの外観と控えめな照明が調和し、上品でオシャレな印象を与えるその姿に、俺は思わず息を呑んだ。


「…こんなにかっこいいマンション、想像してなかったよ」


まいは「さあ、行こう」と、嬉しそうに俺の腕を引っ張りながらエレベーターへと誘った。

エレベーターの扉が開くと、俺たちは一緒に乗り込み、数字がゆっくりと上がっていく。

そして、それは最上階


最上階の22階にある俺の部屋

まいが鍵を開けて、入ろうと手を引いて中に入ると、広々としたリビングと洗練されたインテリアが調和し、まるで高級ホテルの一室のような雰囲気を漂わせていた。

照明の柔らかな光が空間を包み込み、壁にはセンスの良いアートが飾られ、どこか温かみさえ感じさせる。


「おい、まい……」

俺は思わず、声を震わせながら呟いた。

まいはそんな俺の様子を見て、にっこりと微笑みながら、


「どう? すごくオシャレでしょ?」

と、嬉しそうに問いかける。


俺はただただ頭が回らず、「マジで…ここほんとに俺の家?」と、焦りの言葉を漏らした。



まいはリビングに一歩足を踏み入れたあと、くるりと振り返り、柔らかく微笑んだ。

そして、まるで待ち望んでいた言葉を口にするかのように、優しく囁く。


「謙、おかえり」


その声はとても温かくて、どこか安心感を与えるものだった。

俺はまだ自分の家という実感が湧かず、少し戸惑いながらも、まいの表情を見ていると自然と胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……あぁ、ただいま」


言葉にすると、じわりと心が満たされていく気がした。

帰る場所があること、そして迎えてくれる人がいること――それがどれほど幸せなことなのか、今さらながら身に沁みる。


まいは満足そうに微笑みながら、そっと俺の方へ歩み寄ると、何の前触れもなく軽く唇を重ねてきた。

それはまるで、何気ない日常の延長にある、ごく自然な愛情表現のようだった。


驚きつつも、そのぬくもりに思わず目を閉じる。

長く触れることはなく、ほんの一瞬の出来事だったけれど、俺の心にじんわりとまいの存在が染み渡っていく。


唇が離れると、まいはくすっと笑い、少し照れくさそうに俺を見上げた。


「これで、ちゃんと帰ってきたって感じするでしょ?」


俺はその言葉に、つい笑ってしまう。


「そうだな……なんか、実感が湧いてきたよ」


まいが嬉しそうに微笑み、俺の手をぎゅっと握る。


まるで、これまでの時間を埋めるかのように――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ