消えた記憶と愛する人の嘘 42 【退院の喜び、そして新たな一歩】
無事、退院
楽しそうに2人は寄り添いあって
新しい生活を夢見て….…
病院の玄関を出ると、まいは俺の手をしっかり握りしめ、まるで子供みたいにグイグイと引っ張っていく。
「ちょ、そんなに急がなくても……」
「早く早く! タクシー乗っちゃうよ!」
俺の言葉なんてお構いなしに、まいは楽しそうに俺を引っ張る。その姿を見て、思わず苦笑した。
「お前、はしゃぎすぎ。子供かよ」
そう言うと、まいはピタッと足を止めて、ムッとした表情でこっちを睨んできた。
「なにそれ、私だって嬉しいんだから、いいでしょ!」
「いや、たかが退院だろ」
「たかが、じゃないの!」
そう言いながら、まいは俺の腕をつかんでギュッと抱きしめるようにして、「だって……長くて寂しかったんだもん」と小さな声で呟いた。
その言葉に、俺は少し驚きながらも、「……そっか」と短く答えるしかなかった。でも、まいがこうしてずっと俺を支えてくれていたことが、改めて胸に響いた。
「……まいって、ほんと可愛いな」
「えっ?」
俺がポツリと呟いた言葉に、まいは一瞬キョトンとした後、顔を真っ赤にして、「な、なに急に!」と慌てて俺の腕をパシッと叩いた。
「お前がいきなり甘えてくるからだろ」
「甘えてないし!」
「いや、めっちゃ甘えてたぞ」
そんなやり取りをしながら、タクシー乗り場へと向かう。まいはまだちょっと頬を膨らませていたが、それでも嬉しそうな表情をしていた。
タクシーに乗り込むと、まいがすかさず運転手に声をかけた。
「すみません、池袋までお願いします! 近くまで行ったら私が指示するので!」
まるで慣れた様子で話すまいに、運転手が軽く笑いながら「はいはい、お嬢さん。じゃあ池袋までね」と返す。
「お嬢さんって歳じゃないですよー!」
まいはふざけてそう言いながら笑い、俺はそんなまいの様子を見て思わず吹き出した。
「何笑ってるの!」
「いや、まいってほんと楽しそうだなって思って」
「そりゃそうでしょ! 謙がやっと退院したんだもん!」
そう言いながら、まいは満面の笑みを見せた。
タクシーはゆっくりと発進し、病院を離れていく。まいの手は、俺の袖をそっとつかんだまま。
「ねえ、謙」
「ん?」
「これから楽しみなこと、いっぱいあるね!」
まいの瞳はキラキラと輝いていた。俺も、これからのことを考えると不安よりも期待の方が大きくなっている自分に気づく。
「……そうだな」