消えた記憶と愛する人の嘘 40 【静寂な朝と流れていく時間】
Uruの優しいメロディで癒されながら、気がつけば時間の流れも苦にならなくなっていた。
気がつけば、もう朝だった。
Uruの歌声を聴きながら、いつの間にか眠ってしまったらしい。イヤホンは片方だけ耳から外れ、枕元に転がっている。
窓の外を見ると、うっすらと朝日が射し込み、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでいた。病室は静かで、外の世界がゆっくりと目を覚まし始める気配を感じる。
「そろそろ、検温の放送が流れる頃か……」
そう思いながら時計をちらりと見る。毎日決まった時間に放送が流れ、検温が行われる。ここでの生活は驚くほど規則正しく、気づけば自然と体がそのリズムを覚えてしまっていた。
「規則正しい生活って、こういうことなんだな……」
そんなことを考えていると、ちょうど病院の館内放送が流れ始めた。心の中で「やっぱりな」と小さく笑う。
今日もいつもと変わらない一日が始まる。
でも、その中でたったひとつだけ、俺の中には特別な時間がある。
それは、まいが午後に来てくれる時間。
彼女と話す時間が、今の俺にとって唯一の楽しみだった。
そんな日々を重ね、気がつけばもう何日が過ぎただろうか。
ゆっくりと、けれど確実に時間は流れ、俺の入院生活にもようやく終わりが見えてきた。
そして――
とうとう、退院の日がやってきた。