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消えた記憶と愛する人の嘘 25 「忘れていたもの」
夜の静けさの中、俺はぼんやりと天井を見つめていた。
まいが帰ってしまってから、気持ちは穏やかだったが、どこか手持ち無沙汰でもあった。
ふと——昼間のことを思い出す。
ナースステーションで預かっていたバッグを返してもらったこと。
でも、その後すぐにまいと会い、一緒に病室へ戻ったせいで、中身を確認するのをすっかり忘れていた。
「そういえば……」
独り言のように呟きながら、俺はゆっくりと体を起こした。
まだ時間はあるし、他にやることもない。
だったら、今のうちに確認してみよう。
ベッドの横にある引き出しを開ける。
そこにしまっておいたバッグを取り出し、膝の上に置いた。
手のひらで表面を撫でると、バッグのあちこちに擦れた傷が残っているのがわかる。
事故の影響なのか、何かに強くぶつかった跡のようなものもあった。
「……結構、ボロボロだな」
呟きながら、ファスナーに指をかける。
中に何が入っているのか——
俺の“過去”に繋がるものが、ここにあるかもしれない。
ゆっくりと息を整えながら、バッグの口を開いた。