消えた記憶と愛する人の嘘 19 【写真の中の思い出】
まいが渡してくれた新しいスマートフォンを手に取り、俺はゆっくりと電源を入れた。
起動画面が表示され、しばらくすると見慣れないホーム画面が現れる。……いや、俺にとっては「見慣れない」はずなのに、どこか馴染みのある感覚もあった。
「ちょっと写真、見てみようか?」
まいが俺の横に座り、自然と画面を覗き込むようにして言う。
俺は指を動かし、ギャラリーアプリを開いた。
すると、すぐに目に飛び込んできたのは——
「……これ」
画面に並ぶ、俺とまいが一緒に写った写真。
「ほら、これね、2人で三浦に行ったときの!」
まいが嬉しそうに画面を指さす。そこには海を背にして、笑顔で並ぶ俺とまいの姿があった。
「このとき、すっごく暑くてさ、謙が途中でバテちゃって。でも、そのあとかき氷食べたらめっちゃ元気になったんだよ!」
まいはクスクスと笑いながら、その時のことを話し始めた。
俺は写真の中の自分をじっと見つめる。
記憶にはない。でも、その表情は間違いなく心から楽しんでいる顔だった。
まいは次々と写真をスライドさせる。
「これは……札幌に行ったときの。ほら、雪まつり!」
そこには、白銀の世界で雪像をバックに並んでいる俺とまいの姿。
「覚えてないかもしれないけど、謙、これ撮る前に雪に足取られて思いっきり転んだんだよ?」
まいはくすっと笑いながら話す。
「その時、私、大笑いしちゃったんだけど、謙、ちょっとムッとしてたよね?」
そう言われて写真の俺の表情をよく見ると、確かに少し拗ねたような顔をしていた。
「……本当に、俺たち、付き合ってたんだな」
ぽつりと呟く。
今まで、まいがどれだけ「恋人だよ」と言ってくれても、心のどこかで「本当に?」という疑念が消えなかった。
けれど——
画面の中の俺は、紛れもなくまいと一緒にいて、まいを見つめ、笑い、楽しんでいる。
こんな写真が、嘘のはずがない。
「……あ、ごめんね。なんか、一人でずっと喋っちゃった」
まいが少し恥ずかしそうに笑い、俺の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。……ありがとう」
「え?」
「こうやって、話してくれて……俺、なんか少しずつ、まいとのこと信じられそうな気がする」
まいの目が、ふわっと優しく和らぐ。
「うん、そう言ってもらえて嬉しい」
そして、まいは少し声のトーンを落として言った。
「あ、そうだ……お店の人が言ってたんだけど、LINEとかメールのデータは復元できなかったみたい」
「そっか……」
メッセージのやりとりも、きっとたくさんあったんだろう。そこに、俺たちの思い出が詰まっていたかもしれない。
それでも、こうして写真が残っていた。
まいの記憶の中には、俺たちの思い出が確かに残っている。
そして、俺の心にも——少しずつ、その存在が根付いていくのを感じていた。
早くも私まいが気になり出しました。
また、よかったらしばらくの時間お付き合いよろしくお願いいたします。
読んでいただきありがとうございます。ブックマーク登録、評価、感想、レビューなどお待ちしております。もし面白かったと思いましたら、☆の評価ボタンから評価してくださると嬉しいです。自分のモチベーションも上がってきますので!よろしくお願いします。