消えた記憶と愛する人の嘘 18 【新しい携帯と、まいの気持ち】
まいが「あっ、忘れてた!」と小さく声を上げると、バッグの中をゴソゴソと探り始めた。
「えっと……あ、あったあった!」
そう言いながら、まいは俺の前に小さな箱を差し出す。
「これ、謙の新しい携帯!」
「……え?」
思わず、目を見開く。
「事故の時に粉々になっちゃったでしょ?だから新しいの、昨日の帰りにお願いして、今日ここに来る前にもらってきたの」
「……新しいのを?」
「うん、それだけじゃないよ?」
まいは得意げに微笑みながら続ける。
「バックアップもしてもらったから、たぶんデータは全部元通りになってると思うよ!」
そう言って、俺に携帯を手渡した。
新しい、まだ開封されたばかりのスマートフォン。
驚いた。いや、それ以上に、戸惑った。
まいが、俺の携帯を。それも、バックアップまでしてくれていたなんて——
俺は記憶を失っている。まいのことも、本当に俺の恋人なのかどうかも、まだ確信が持てていなかった。
それなのに——
ここまでしてくれるものなのか?
俺のために新しい携帯を手配して、データが戻るように手続きをしてくれて……。
まいは、本当に俺のことを想ってくれているんだ。
それなのに俺は、どこかでまいを疑っていた。
「……ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。
携帯を両手で受け取りながら、胸の奥がチクリと痛む。
何もかもを信じることはできない。
でも、目の前のまいの気遣いは、本物なんだと感じた。
そんな自分が、少し恥ずかしくなった。